アバランチは金融界を取り込めるか?:バルセロナ密着

暗号資産(仮想通貨)に関心のある人たちにとって、ブロックチェーン業界のカンファレンスは、毎年繰り返される巡礼のようなもの。世界中の異国情緒あふれる場所を舞台に数日間にわたって繰り広げられる祭典には、それぞれのブロックチェーンを信じるファンたちが集まってくるのだ。

お馴染みは、マイアミでの開催が定番となったビットコインカンファレンスと、長く続いているイーサリアムのETHDenver。昨年秋からは、時価総額数十億ドル規模の新しい各種レイヤー1プロトコルも参戦するようになり、その1つであるソラナのお披露目パーティー「ブレイクポイント」は、リスボンで開かれた。

そして、アバランチ(Avalanche)は、スペイン、バルセロナでの6日間のアバランチ・サミットを締めくくったところだ。

「開発者、ユーザー、投資家たちが一堂に会したのはこれが初めてだ。それを目指していた」と、アバランチを手がけるアバ・ラボ(Ava Labs)の社長ジョン・ウー(John Wu)氏は語った。

「エスケープ・ベロシティ」

アバランチはここ1年で、比較的目立たないところから、スマートコントラクト対応ブロックチェーンのトップ、イーサリアムの主要な競合になるまでに成長した。

ネイティブトークンのAVAXは昨年、2800%という脅威的な値上がりを記録。時価総額でトップ10に躍り出た。(ちなみに今年に入ってからは、約18%値下がりしている)

アバランチの分散型金融(DeFi)アプリケーションに預け入れられている資産の合計(TVL)は11月、初めて100億ドルを超えた。TVLチャートでは、イーサリアム、テラ、バイナンス・スマート・チェーンに次いで4番、ソラナを上回った。

暗号資産に興味のない一般の人たちでさえも、ニューヨーク市の地下鉄に張り巡らされたアバランチの広告や、充実なファンたちがソーシャルメディアで繰り出す赤い三角の絵文字に、気づいているかもしれない。

「アバランチは、エスケープ・ベロシティ(ロケットが重力圏を離れて宇宙に飛び立つために必要な速度のこと。企業が指数関数的に成長を始めるポイントを意味する)に到達することに成功した」と、DeFiベンチャーファンドのディファイアンス・キャピタル(DeFiance Capital)で投資家を務めたことのあるダリル・ワン(Darryl Wang)氏は語り、次のように続けた。

「私はかつて、100%イーサリアムを使っていたが、多くのEVM(イーサリアム仮想マシン)対応チェーンを使うようになり、現在では、取引の90%はアバランチで行っている」

アバランチはEVM対応。つまり、イーサリアムのプログラム言語ソリディティ(Solidity)を使って作られたアプリケーションなら、開発者による調整は最小限で、アバランチでも実行可能ということだ。

これまでのところ、EVMに対応していることは、新興のレイヤー1プロトコルにとって促進材となっている。ポリゴン、ファントム、アバランチはすべて、イーサリアムの取引手数料の高さにうんざりしているユーザーを惹きつけているのだ。

「Zhu Su(暗号資産投資家):
過去には支持していたが、私はイーサリアムに見切りをつけた。
イーサリアムはかつて、ユーザーをサポートしていたが、今ではユーザーを見捨てた。
イーサリアムブロックチェーンの手数料を払えるような新規参入者はいない。それなのに、無駄に支払われる手数料を見て悦に入り、純粋さを試す方法を考案するばかりで何も手を打たないなんて、忌々しい」

しかし、イーサリアムとのやり取りが容易ではないテラとソラナが、ユーザーのマインドシェアの指標となるTVLチャートを着実に登り詰めており、EVMへの対応は、その強みを失っているのかもしれない。それでもアバランチの幹部は、コードをシェアすることは有益だと考えている。

「ソラナは、モート(企業を守ってくれる競合優位性)戦略を採用しているようだ」と、アバランチ最大の競合であるソラナを引き合いにウー氏は語り、「私たちは、意図的にその道を行かないことにしているんだ」と続けた。

誕生ストーリー

誕生から十数年に満たない新興業界である暗号資産の世界でも、アバランチはとりわけ印象的だ。2020年に立ち上げられたばかりにも関わらず、わずか2年で、時価総額は250億ドルにまで成長した。

アバランチを支えるテクノロジーの多くを考案したのは、トルコ生まれのコンピューターサイエンティストで、コーネル大学元教授のエミン・ギュン・シラー氏(Emin Gün Sirer)氏。現在彼は、アバ・ラボのCEOを務めている。

ギュン・シラー氏とアバランチの経営陣について、最も特徴的なのはおそらく、そのしっかりとした経歴だろう。とりわけ、ティーンエイジャーや大学中退者、匿名の人たちが並外れた影響力を持つ暗号資産業界においては、異彩を放っている。

「彼らは間違いなく、より熟達している」と、アーベ(Aave)の創業者スタニ・クレチョフ(Stani Kulechov)氏は、アバ・ラボの幹部たちについて語り、「彼らは、非常に効率的にアバランチエコシステムを運用している。イーサリアムは価値重視型であるのに対し、彼らは非常にミッション重視型なのだ」と指摘した。

アメリカの超エリート大学群アイビーリーグで2つの学位を取得したウー氏は、学部時代を過ごしたコーネル大学で初めてギュン・シラー氏に会った。シラー氏はコーネルで長年、ブロックチェーンも含む分散型システムのコンピューターサイエンスの教授を務めていたのだ。

「学部に電話して、コンピューターサイエンス学部にいる暗号資産関連の優秀な人材は誰か聞いたら、ギュンに連絡するように言われたんだ」と、ウー氏は振り返る。

2人は2017年、コーネル大学ブロックチェーン・クラブの顧問となった。

暗号資産の世界では、創業者たちはしばしば、神のようなステータスを獲得する。例えば、ビットコインのサトシ・ナカモト、イーサリアムのヴィタリック・ブテリン氏、カルダノのチャールズ・ホスキンソン氏などが有名だ。ギュン・シラー氏の名前を聞いたことのある人は少ないかもしれないが、母国トルコでは「超有名人」だ。

「シラー氏は、私たちがアバランチで開発を行うことにした大きな理由だ」と、イスタンブールからバルセロナに飛行機でやってきてサミットに参加した、ムスタファ・メルカン(Mustafa Mercan)氏は語った。

企業も投機家も

アバランチは2面戦略を採用し、暗号資産の世界に慎重に足を踏み入れてみたいという企業も、次なるAPY(年換算利回り)1000%のプロトコルを探すDeFiディジェン(利益最重視の向こう見ずな投機家)のどちらの気も引こうとしている。

サミット参加企業の中には、デロイトやマスターカードなどの伝統的金融サービス企業も含まれていた。よりディジェン寄りの参加者の方では、プレイトゥアーン(P2E)ゲーム「クラバダ(Crabada)」の熱狂的なファンなども見られた。

アバランチで最も「ディジェン」なスキャンダルは、最大規模の分散型アプリ(Dapp)にまで成長したワンダーランド(Wonderland)にまつわるものだろう。そのCFOが、閉鎖された仮想通貨取引所クアドリガ(Quadriga)の共同創業者マイケル・パトリン(Michael Patryn)氏であることが判明したのだ。

「アバランチで働くワンダーランド元スタッフの数を、ソラナやBSCなどと比べれば、他のチェーンよりもその割合は少なくなっている」と、ワンダーランドにまつわるゴタゴタについて聞かれたウー氏は答えた。ワンダーランドの創業者ダニエル・セスタガリ(Daniele Sestagalli)氏は、バルセロナに「来ないように」言われたと、もっぱらの噂であった。

有力ユーザーの1人は、アバランチの個人投資家に対する魅力は、活発なコミュニティと、インセンティブプログラムを通じたお金儲けのチャンスがたっぷりあることだと語った。

「アバランチのDappの多くは、コミュニティ主導だ」と、ワン氏は語る。「ソラナは大いに(ベンチャーキャピタル)主導だ。リスボンでソラナトークンを買ったとしたら、かなり値下がりしたはずだ。間違いない」

個人投資家と機関投資家双方にアバランチを売り込むことは、アバ・ラボにとって綱渡りのようなものだ。「ディジェンの方に行くと『ベビーブーマーのコインだ』と言われ、伝統的金融の世界の人には『最高に進んでいるね』と言われる」と、ウー氏は語った。

CoinDeskが取材したサミット参加者の中では、企業系の人たちの方が熱心さに欠けているように見えたが、プロとしてポーカーフェイスを保つ必要があったのかもしれない。多くの企業は、勝者がいまだに不透明な業界における安全策として、複数のレイヤー1ブロックチェーンと連携していることを認めている。

「私たちは、どのテクノロジーかということにはとらわれない」と、マスターカードの製品イノベーション責任者ハロルド・ボッセ(Harold Bosse)氏は語り、「マルチチェーンの未来になるということは理解している」と続けた。

具体的なパートナーシップについてコメントすることは差し控えたが、マスターカードはアバランチと商業的ユースケースを検討することに「非常にわくわくしている」と、ボッセ氏は語った。

暗号資産貸付プラットフォームのブロックファイ(BlockFi)は、マスターカードの「手広くやる」戦略と同じ考えを表明した。

「私たちは数多くのレイヤー1プロジェクトを検討している」と、ブロックファイのデビッド・オルソン(David Olsson)氏は語り、「顧客のためにリスクを効果的に対応する必要があることを考えれば、1つだけでなく複数のプロジェクトを検討するのは理に適っている」と説明した。

アバランチエコシステムに非常に活発に投資を行う暗号資産ベンチャーキャピタル企業ポリチェーン・キャピタル(Polychain Capital)の元パートナー、テキン・サリミ(Tekin Salimi)氏は、伝統的金融に比べて暗号資産分野は、本質的に「より協調的」と考えている。

「まったく新しい資産クラスを発明しているようなもので、上げ潮は、すべてのボートを持ち上げるのだ」とサリミ氏は指摘。ちなみにサリミ氏は、今回のサミットで自身の新たなベンチャーファンドdao5を発表した。

大きなインセンティブ

すべてのスマートコントラクトブロックチェーンが、マスターカードと、「Frog Nation」と呼ばれるマルチチェーンDeFiプロジェクトの集まりを取り込もうと競い合う中、競争力の指標の1つは、プロジェクトがユーザーを惹きつけるために使うことのできる資金力だ。

アバランチはここ8カ月で、開発を呼び込むために数億ドル規模の4つのインセンティブプログラムをローンチした。潤沢な資金であふれるレイヤー1ブロックチェーンの中でも、とりわけ太っ腹な姿勢を見せている。GameFiからミュージシャンのグライムスによるプログラムまであらゆるもので、約8億ドル相当のAVAXが使われている。

「開発者たちをアバランチに取り込むのが目標だ」と、アバ・ラボのエンジニアの1人で、アバランチでデベロッパ・リレーションズ責任者を務めるガブリエル・カルドナ(Gabriel Cardona)氏は語り、「1年で、十億を超える取引と、千を超えるDapp(分散型アプリ)を抱えることになると予測している」と続けた。

現在、アバランチでトップクラスのDappの1つには、中核的分散型取引所として機能するユニスワップのフォーク「Trader Joe」がある。人気Dappには他にも、P2Eゲームのクラバダなどがある。

アバランチの右肩上がりの成長にも関わらず、批判的な人たちは、イーサリアムのオープンシーやソラナのマジック・エデンのような、活発なNFTマーケットプレースが欠けていることを指摘する。マーケットプレースはインフラの中核的要素として機能し、オープンシーに匹敵するものが不在であることが、アバランチでのNFTの普及を妨げている。

アバランチ上に多数存在する「コピペ」的プロジェクトにも批判が寄せられている。これまでのところ、アバランチで最も人気のDappは、ユニスワップやオーム(Ohm)などの人気プロトコルのフォーク、あるいはアーベやカーブなど、最初にイーサリアムで立ち上げられた優良プロトコルが移動してきたものだ。

これが、EVMに対応する多くのブロックチェーンが直面するジレンマだ。独自のエコシステムを有機的に成長させるか、2番手として、イーサリアムを後にしたプロジェクトを誘い込むことで、外部資金に頼らず成長していくかの間で選択を余儀なくされる。

これまでのところアバランチは、「アバランチ」固有のプロジェクトを欠いており、大規模インセンティブプログラムでさえも、それを生み出すことはできていない。

サブネット<<<ここまで>>>

今回のサミットで最も盛り上がっていたのは、おそらくサブネットだ。これは、アプリケーションがアバランチ上で独自のカスタマイズ可能なブロックチェーンを確立できるようにするネットワークのことを指す。

サブネットによって、アバランチ上のプロジェクトは、バリデーターは誰か、どのプログラム言語を使うか、誰がサブネットにアクセスできるかなど、自ら一連のルールを設定することができる。ポルカドットのパラチェーン、コスモスのゾーン、イーサリアムのスケーリングソリューションSKALEのネットワークと似た仕組みだ。

「私たちは皆、同じ結論にたどり着いた。スケール可能でアクセス可能なブロックチェーンを作るには、アプリケーションを独自のものにすることが必要なのだ」と、インターチェーン・ファウンデーション(Interchain Foundation)でコスモス・ハブ(Cosmos Hub)の代表を務めるビリー・レネカンプ(Billy Rennekamp)氏は語った。レネカンプ氏は、自身はコスモスファンだが、何よりも、チェーンを超えた相互運用性を支持していると続けた。

アバランチのサブネットアーキテクチャは、スケーラビリティも考慮して設計されており、演算負荷の高いアプリケーションがメインネットワークを渋滞させるのを回避できるようになっている。アクシー・インフィニティが独自ブロックチェーンのRoninを開発したのと同じことだ。

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コスモス、ポルカドット、アバランチは、非同期異種ネットワークモデルが効率的に機能し、現状のビットコインとイーサリアムよりも優れていることを示している」

ブロックチェーンそのものを、パブリックデータベースとして考えると、あらゆるアプリケーションに独自データベースが必要となる感じだ」と、ウェブ3インフラを手がけるAnkrのジョッシュ・ニューロス(Josh Neuroth)氏は話す。「何百人ものユーザーをオンボーディングしたければ、独自ブロックチェーンが必要だ」

アバ・ラボのカルドナ氏は、「Subnet Show」というポッドキャストも配信しており、「20秒でサブネットを立ち上げる」ことができると語った。

「アバランチとともに企業フレンドリーなサブネットを作り、他のDeFiプロトコルに参加してもらいたい」と、アーベのクルチェフ氏は述べ、「(顧客確認は)サブネットレベルで一度発生し、その後はあらゆるプロトコルを自由に使うことができる」と説明した。

アーベは、個人と企業の顧客ニーズの乖離に悩んでおり、人気DeFiプロトコルの許可型バージョン「アーベ・アーク(Aave Arc)」を、11月に立ち上げた。優良プロジェクトのみのサブネットなら、規制による制約を意識した機関投資家にDeFiをより効率的に普及させることができるだろうと、クルチェフ氏は語る。

暗号資産取引大手ジャンプ・クリプト(Jump Crypto)の社長、カナヴ・カリヤ(Kanav Kariya)氏はプレゼンの中で、同社が「アバランチチームといくつかのサブネットを検討」していると語り、その取り組みは「まだ、おおむね予備的」なものだと続けた。

「1年で、CoinMarketCapのトップ100はまったく違うものとなり、その主な立役者は、アバランチのサブネットとなるはずだ」と、カルドナ氏は言う。「ブロックチェーンはついに、私たちが常に思い描いてきた約束を果たせるほどに成熟してきている。何年も待った後のことなので、非常に満足感を感じている」と続けた。

ハッカソン

一連のパネルディスカッションの後には、人脈作りのためのイベントに夜遅く提供されたタパス、2日間にわたる300人参加のハッカソンがサミットを締めくくった。

「集中力が素晴らしい」と、エンコード・クラブ(Encode Club)の共同創業者アンソニー・ボーモント(Anthony Beaumont)氏はハッカソンの会場で語り、「赤ちゃんを連れてきた夫婦の参加者もいた」と続けた。

「エンコード・クラブが主催したアバランチ・サミットでのハッカソンの勝者をご紹介!

勝者の皆さん、おめでとう!

詳細はまた後ほど」

CoinDeskでは、AVAXトークンを使ってプレイヤーが賭けを楽しめるモバイルゲーム「Clash Royale」を開発したフランスの大学生チームに取材。

メンバーの1人で寝不足気味のボラ・ミンダス(Bora Mindas)氏は、「本当に困難だがやりがいがあった。アイディアを思いつくのにたくさんの時間を費やした」と振り返った。彼らは、既存のアバランチサブネット「WAGMI」上でゲーム開発を行なった。

アバランチの生みの親ギュン・シラー氏もハッカソンの場に姿を見せ、各チームにアドバイスをして回っていた。

「良い会話ができた」と、ミンダス氏は語り、「暗号資産の世界に足を踏み入れた時に、ツイッターで人々がアバランチについて話しているのを目にした。アバランチ界隈の人たちが本当に好きなので、開発を続けたんだ」と続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:CoinDesk
|原文:Can Avalanche Win Over Wall Street and ‘Degens’ Alike?