暗号資産と伝統的金融の境界線は消えつつある──ウォール街のBarのハッピーアワー

マンハッタン南部に位置するウォール街を歩いていると、その歴史に心打たれる。北側にほぼ完璧な碁盤目状の道路ができるずっと前に作られた曲がりくねった道、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の前の石畳…。

8月9日夜、NYSEから南に数分のところにある「Broadstone Bar & Kitchen」には、伝統的金融会社の社員たちが集まっていた。1937年創業の老舗資金運用会社ティー・ロウ・プライス(T. Rowe Price)やシカゴ・オプション取引所(CBOE)、投資銀行RBC Capital Marketsなど、いずれも昨日今日生まれたわけではない企業の社員が来ていた。NYSEの名札をつけたスーツ姿も多い。

だがその中に、少し奇妙な、急成長中の暗号資産カルチャーも見受けられた。ジーンズにTシャツ、FTXのキャップといういつもの服装から、暗号資産関係者をすぐに見つけることができた。

店にいた人たちは皆、午後4時にNYSEが閉まるとすぐ、Autism Science Foundation(自閉症科学財団)への寄付を募る「Wall Street Rides FAR」のために開かれたハッピーアワーに集まっていた。

お祝いムード

古い会社と新しい会社の社員たちが混ざり合い、店はお祝いムードで溢れていた。ちょうど数日前には、世界最大の資産運用会社ブラックロックと暗号資産取引大手のコインベースが提携し、機関投資家向けサービスを強化すると発表していた。さらにその前週には、FTX.USが株式取引の提供を開始した。

関連記事:世界最大の資産運用会社ブラックロックと米コインベースが提携──機関投資家向けサービスを強化

ハッピーアワーに参加した暗号資産関係者は、FTX.USの社員だけではなかった。伝統的投資家に暗号資産取引用ソフトウェアを提供するTalos(タロス)や、ブロックチェーンインフラ企業Blockdaemon(ブロックデーモン)の社員もいた。ブロックデーモンの社員たちは、すぐに証券取引所IEXの社員たちと話をしていた。IEXは今年、株式取引サービスを強化するためにFTXが買収している。

ブロックデーモンのシニア・プロダクトマネージャー、マイク・マッコイ(Mike McCoy)氏は、2015年に暗号資産業界に入って以来、業界の変化を目にしてきた。同氏は、業界の開発者カルチャーは、伝統的な金融プレーヤーに焦点を移していると述べた。もちろんブラックデーモンもアプローチを続けている。

「多くのことが変化した。暗号資産が大手銀行に蓄えられた資金を民主化していることは、金融システムにとって良いことだ」(マッコイ氏)

だが、すべての伝統的金融機関が暗号資産に前向きなわけではない。ブロックデーモンのセールスディレクター、メリッサ・ムー・ハーキンズ(Melissa Moo Harkins)氏は、規制の不明確さがその原因と考えている。規制が明確になれば、暗号資産業界のイノベーションとクリエイティビティは、新旧の世界のギャップをさらに埋めるだろうとハーキンズ氏は語った。

「私の顧客の多くは機関投資家で、暗号資産への投資を前倒しで進めている」(ハーキンズ氏)

暗号資産はコロナ禍で大きく成長したため、伝統的金融機関との接点はまだ少ない。だがDeFi(分散型金融)の大物が、いつかニューヨーク証券取引所に上場し、ウォール街のバーに出入りすることはないと誰が言えるだろう。

タロスのCEOで、クオンツ投資会社AQRの元トレーディングテクノロジー責任者のアントン・カッツ(Anton Katz)氏は、暗号資産がウォール街に根を下ろし、金融の将来の基盤が構築されつつあるというセンチメントが高まっていると述べた。

「そうした考え方に対する共通認識が高まっているようだ。だからこそ、暗号資産と伝統的金融の境界線がきわめてわかりにくくなっているWall Street Rides FARのようなイベントが増えているのだと思う」(カッツ氏)

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Rolf Kleef/Flickr, Modified by CoinDesk
|原文:A Crypto Bro Walked Into a Wall Street Bar, And It Went Just Fine