FTX破綻から新たに学ぶ教訓はない【オピニオン】

FTX破綻から新たに学ぶ教訓はない【オピニオン】

新しい年が始まったが、私はこの先、暗号資産懐疑派に何もプレゼントする必要がないことを理解している。なぜなら、業界として私たちはすでに、何十億ドルもかけて、真にプライスレス(値段がつけられないほど貴重)で、絶対に流行遅れにならないプレゼントを買ってあげたから。そう、懐疑派が常に正しかったという、心地よい自己肯定感だ。

2022年に起こったさまざまな出来事を考えれば、私たちが正しく、重要な教訓を学ぶことに忙しいと理解していることは良いことだろう。だが、期待しない方がいい。

確証バイアス(自分の考えを支持する情報ばかりを目にすること)の奇跡のおかげで、プルーフ・オブ・リザーブ(PoR:準備資産証明)や監査、暗号資産の終わりを主張する人たちは、2022年の出来事をすでに主張してきたことが、再び証明されたと考えるだろう。私も例外ではない。そう、もっと監査が必要だと考えている。

私は、この文章を暗い気分で書いている。取引所やヘッジファンドが破綻したからでも、悪人たちが野放しになっているからでもない。また消費者や規制当局が慎重になっていることで、この素晴らしいテクノロジーの成長が遅れる可能性にイライラしているわけでもない。そんなことではない。

私をイライラさせるのは、パブリックブロックチェーン、プライバシーテクノロジー、産業用アプリケーションの進展の遅さだ。ブロックチェーンは暗号資産をはるかに超えた存在であり、私たちの歩みは時間がかかりすぎている。

この先を見据えるにあたって、すでに解決しているべきなのに、なぜかまだ解決できていない3つの課題がある。

繰り返される失敗

1つ目は、ブロックチェーンプログラムが、バーナンキ元FRB(米連邦準備制度理事会)議長が学び、ノーベル賞を獲得した有益な教訓を無視し、あらゆるミスを繰り返すことで金融規制の歴史を短期間に再びたどっていることだ。

規制が十分ではない/規制を受けていない金融機関が取り付け騒ぎのリスクにさらされ、金融サービスが経済エコシステムの他の部分にシステミックリスクをもたらすことを、私たちは嫌というほど繰り返し見てきた。

そうした出来事が起こるたびに、暗号資産原理主義者は、DeFi(分散型金融)のみが機能し、この先進むべき道と主張する。馬鹿げたことだ。オンチェーンのみで稼働する超低リスクの金融システムを作ることは、資本市場の目的を失わせる。資本市場の目的は、新しいビジネスのために資本を必要とする、リスクを背負う覚悟のある人たちのもとに資本を流すことだ。リスクを取った瞬間に、厳格なアルゴリズムから離れ、人間の判断の世界に入っていく。

規制整備の遅さ

2つ目は、ブロックチェーンと暗号資産に関する規制の整備の遅さ。悪人に対する法執行には意味があるが、前向きなルールがなければ、この分野のビジネスに参入したいが、今後整備されるかもしれないルールに触れてしまうことを恐れる善良な人たちを萎縮させてしまうことになる。

これは憶測ではなく、確信だ。EY(アーンスト・アンド・ヤング)顧客の中には、ステーブルコインや暗号資産の分野に参入するために、規制が明確になることを待ち望んでいる優良金融機関が複数存在する。

つまり私たちは現在、理想的とは言えない状況にある。悪人は規制の欠如に怯むことはないが、善良な人たちは躊躇している。その結果、悪人が直面する競争は、はるかに少なくなる。

だが、ありがたいことに、競争がまったくないわけではない。この分野には多くの善良な人がいるが、規制上の明確さや標準規格が欠如しているために、自分たちを悪人と差別化することに苦戦している。悪人たちは皆、監査を受け、プロによって運営され、コンプライアンスを真摯に捉えていると主張しており、真実と嘘を見分けられるエンドユーザーはほとんどいない。

景気後退の予感

3つ目は、迫り来る景気後退と、暗号資産企業の終わりなき破綻の連続が、リスクを厭わない人たちの予算と情熱を削っていること。リスクを嫌うCIO(最高投資責任者)に、新興テクノロジーに投資するよう説得するだけでも大変だが、CIOが景気後退に備えて予算削減を検討しているなか、状況はさらに難しくなっている。

今の困難な時期から有益な教訓も何も学ばない恐れがあるなかに、希望の光があるとしたら、パブリックブロックチェーン、イーサリアム、プライバシーテクノロジーの進歩は不可避ということだ。

昨年起こったことの中で、プライベートブロックチェーンやパーミッション型ブロックチェーンをより有益に、より面白いものにしたことはひとつもない。だが、多くの良いことも起こっている。2022年の良かったことの中から、3つ紹介しよう。

2022年の功績

1つ目は「Merge(マージ)」だ。イーサリアム開発者たちは、世界的に重要なインフラを運営できないという声をついに黙らせた。プルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーブ・オブ・ステーク(PoS)へのスムーズな移行は、企業がイーサリアムに対して抱えていた2つの最も大きな不満を一気に解消した。

「システムを責任を持って管理することに対する説明責任がない」「二酸化炭素排出量が大き過ぎる」という不満だ。レイヤー1の戦いは終わり、イーサリアムブロックチェーンが勝利を収めた。

2つ目は、NFT。投機的ジェネレーティブアート市場はほぼしぼんでしまったが、持続的で資格や技能の証明に使えるパーソナルなデジタルトロフィー、参加や出席の証明、コレクション品の市場はまだ始まったばかり。

NFTはまもなく、コンサートチケットからレースのメダルまで、あらゆるものに、あらゆる場所で使われるようになるだろう。金儲けが目的ではない。人生や成し遂げてきたことのストーリを集め、世界とシェアすることが目的だ。

産業用途の可能性も大いに秘めている。企業が作るもののほとんどは、それが単に製造番号やシリアルナンバーであっても、ユニークで、固有。ファンジブル(交換可能な)なものではなく、NFTだ。

3つ目は、DAO(自律分散型組織)。DAOは、ブロックチェーンエコシステムにおける希望の光。新会社や共有の投資手段、NPOまで、ほぼあらゆるものを構築し、組織するための方法として台頭している。さまざまなツールやサービスによって、DAOを組織・管理することは簡単になり、DAOは昨年、大きく成長した。

2022年は終わった。ひと安心だ。開発は続き、昨年登場した悪人は、クイズの問題に使われるだけになるだろう。前へ進もう。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像: Shutterstock
|原文:There Will Be No Lessons Learned From FTX

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