Mergeでイーサリアムはどう変わる?【基礎知識】

イーサリアムは「Merge(マージ)」に向けた準備を整える中、暗号資産(仮想通貨)市場に一時的な混乱を生じさせたり、投資家に新しいチャンスを生み出したりしてきた。

そして遂にMergeが完了した。しかし、それは何を意味するのだろうか?

シンプルだがよく理解されていない表現で言えば、イーサリアムはプルーフ・オブ・ワーク(PoW)ブロックチェーンから、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーンに移行したのだ。

このプロセスには、2020年からイーサリアムと並行して開発されてきたビーコン(Beacon)と呼ばれるPoSチェーンの助けが必要だった。ビーコンは取引を処理していた訳ではないが、PoSアップグレードへの円滑な移行を可能にする実験場のような役割を果たしていた。

PoSに完全に移行するには、イーサリアムのエクセキューション・レイヤー(Execution Layer)であるPoWメインネットが、コンセンサス・レイヤー(Consensus Layer)であるビーコンチェーンと融合する必要があった。

「私がこれまで見てきた、Mergeを説明する図で1番よくできていたのは、地下鉄の駅で見かけるようなもの」と、フィンテック投資ツールを手がけるリスクスミス(RiskSmith)のCEOで、市場リスクや市場の不透明感に詳しいリチャード・スミス(Richard Smith)氏。

「地下鉄の路線図があって、2つの路線が並行して走っているのだが、1本はある駅で終点を迎える。さらに先に行きたい乗客は皆、続いていく路線の方に移らなければならない。それが、Mergeが実施された時にイーサリアムに起こることだ」と説明した。

PoWの問題点

ビットコインと同様にイーサリアムも、複雑な演算を解くために競い合うコンピューターのネットワークで取引が検証されるPoWブロックチェーンだ。

PoWブロックチェーンは、作業に対してトークンで報酬を受け取るマイナーの高度に分散したネットワークによって安全性が保たれているものの、エネルギー消費量も非常に多い。

しかし、コロンビア大学ビジネススクール教授で暗号資産専門家のオミド・マレカン(Omid Malekan)氏によれば、PoWブロックチェーンの高エネルギー負荷は、バグではなくて特徴だ。

「分散型を保ちつつ、誰がデジタル台帳をアップデートしているかをコントロールできるようにすることが目標だった」とマレカン教授。

「つまりマイニングは、エネルギー消費にお金を浪費することで自らの誠実さを証明するボランティアを含む、独創的で複雑なソリューションだった。エネルギー消費は、ブロックチェーンの運用とは関係ない。安全なシステムにつながる誠実さを導き出すために、金銭的インセンティブを使うための方法だったのだ。そしてそれは上手くいっていた」と、マレカン教授は説明した。

PoSの仕組み

PoSブロックチェーンでは、参加者は手持ちのトークンをネットワークに貸し出して、それに対して利回りを獲得できる。イーサリアムの場合、Merge後には少なくとも32イーサ(ETH)を持っている人なら誰でも、バリデーターとなって、5〜10%の利回りを獲得できる。

マイニングでエネルギーを消費させる代わりに、PoSでは誠実さを証明させるために、ネットワーク参加者に自らのトークンの一部を預託させるのだ。

PoSへのシフトは、イーサリアムのリスクや報酬の在り方に大きな影響を与える。スミス氏によれば、イーサリアムから獲得できる利回りが保証されることで、投資の市場リスクの一部がなくなるのだ。

しかし同時に、資本がリスクにさらされる。「少なくとも確実に元金が戻ってくるCD(譲渡性預金)のように考えてはダメだ」とスミス氏。「4〜5%の利回りというのが、現在のイーサリアム価格に賭ける価値のあるものなのかを考えなければならない」と説明した。

PoSのデメリット

PoSには、エネルギー消費量の低減などのメリットもあるが、少なくともいくつかのデメリットもある。

そもそも、エネルギー消費量の変化が与える結果については、まだ議論がされている。Mergeによって、イーサリアムが環境に与える負荷が少なくなるかもしれないし、そうはならないかもしれない。メレカン教授によれば、実際にどうなるかははっきりしていないのだ。

さらに、PoSブロックチェーンについてよく聞かれる批判の1つが、独占するのが簡単過ぎる、というものだ。大口投資家が、初期に取引の多くでステーキングすれば、ネットワークのステーキングと検証機能を独占することができてしまう。そうなれば理論的には、悪者がつけ込むことのできる脆弱性となるのだ。

同様に、PoSブロックチェーンは本質的に中央集権的となり得る。大口投資家が初期にネットワークに投資し、多くのトークンをステーキングすれば、誰よりも多くの報酬を得ることができるのだ。

それでもイーサリアムの場合、PoWプロトコルでスタートしたことでネットワークは十分に成長、拡大し、1人の人間や1つの集団が簡単に支配できることのできないところまで来ている。

PoSに代わるもの

エネルギー消費量の多いPoWブロックチェーンをより効率的なものにするためのソリューションは他にもあると、スミス氏は考えている。

その一例が、ビットコイン・サトシ・ビジョン(BSV)だ。BSVはビットコインブロックチェーンの末裔のようなもの。まずビットコインがフォークしてビットコインキャッシュ(BCH)が生まれ、BCHがその後フォークして、BSVが生まれたのだ。

BSVはマイナーが取り組むブロックのサイズを大きくすることで、エネルギーコストを削減。その代わり、BSVネットワークに参加する人は、マイナーになるためにはるかに多くの投資をする必要がある。

PoSのメリット

PoSへのシフトには、長期的にイーサリアムネットワークとイーサに価値を与え、投資を惹きつける要素がいくつかある。

まず、環境面での負荷に関しては議論があるが、金銭的な影響はっきりとしている。

「電気代に何十億も浪費しなくてよくなるため、イーサリアムのインフレ率に大幅な低下が見られるだろう」と、マレカン教授。「そのため、報酬として与えるコインもそれほど大量に発行する必要がなくなる。ステーキングは誰でもできるため、多くの機関投資家にとってはイーサリアムの魅力が高まる」と指摘した。

PoSへの移行によって、レイヤー2ブロックチェーンをイーサリアム上に開発するのも楽になるかもしれない。そうなれば長期的には、ネットワークとイーサの価値も増す可能性があると、マレカン教授は考えている。

しかしとにかく、Mergeは完了したのだ。その短期的、長期的影響がどんなものかは、時間とともに判明してくるだろう。

「イーサリアムは独自のアプローチを採用しており、それが価値のある実験であることは間違いない」と、スミス氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Ethereum Merge Finally Happened: So What?