2021年、DAO（分散型自律組織）はブロックチェーンの世界を飛び出し、現実世界へと広がっていった。それまでは大半のDAOは金融プロトコルやデジタル資産の管理にとどまっていた。
ワイオミング州、バーモント州、テネシー州で新しく制定されたDAO関連の法律に支えられて、DAOは希少なアート作品やゴルフコース、米国憲法の原本、NBAチーム、不動産など、実世界の資産の獲得を目指し始めた。私が創設したCityDAOも、ワイオミング州で40エーカー（約0.16㎢）の土地を購入した。
メリットを吹き飛ばすほどのコスト
しかし、DAOが実世界に乗り出すとすぐに、クラウドファンディングや組織化のためのパワフルな新しい手段であるDAOは、そもそもDAOを使うメリットを帳消しにしてしまうほどの調整と規制に関する大きなコストの制約を受けることが判明した。このようなコストを理解することで、起業家、研究者、規制当局は、より公平なインターネットを作り出すという目標をDAOが実現することをサポートできる。
調整については、メンバーによる提案の可決を義務付けることでリソースの使用を制限できる。今存在している大半のDAOは、イーサリアムの生みの親ヴィタリック・ブテリン氏が「ビトクラシー（vetocracy）」と呼ぶ、機能不全に陥る可能性にさらされている。どんな提案も十分な支持を集められず、提案がすべて否決されるような状態だ。ときに民主的プロセスは制限を生むが、これはバグではなく仕様だ。
数百万ドルものユーザー資金を預かる金融プロトコルの場合、何万人ものユーザーに影響を与えるような変更を行うことは困難であるべきだ。だが価値創造の初期段階においては、コアチームは提案をまとめることへの制限なしに、ゴールに向けたいくつもの小さなアクションを取れる権限を持つべきだ。
多くのプロジェクトは、コミュニティの熱狂を集めるために、ライフサイクルの初期段階でそのような権限を手放し、「DAO」と名乗り、ほんの小さなステップを取るために何百人もの人を調整するという負担を背負ってしまった。
さらに、大半のDAOインフラやツールは、DAOは主にスマートコントラクトとやり取りをするという前提のもとに作られており、メンバーが実世界でアクションを取ることは、あまり想定されていない。
規制面については、DAOを始めることは簡単だ。取引に複数人の署名を必要とするマルチシグウォレットは数分で作ることができる。しかし、法律を遵守したDAOを始めるコストは莫大だ。
組織を法人化することから、世界中に散らばるコントリビューターへの支払いまで、法律関連の作業は何週間もかかり、莫大なコストがかかる可能性がある。DAOを始めるというアイデアが、無駄に思えるほどだ。DAOの運営に弁護士と会計士が必要となれば、参入障壁は巨大だ。
資金調達については、曖昧な証券取引法によって、クラウドファンディングはリスクの高い取り組みとなるかもしれない。オフチェーンでの支出の場合、DAOは組織向けの取引アカウントを開設する必要があり、これには数カ月かかることもある。
DAOが土地や商標などの実世界の資産を保有している場合、メインのグループと意見を異にするグループの分裂は、はるかに難しくなるか不可能だ。
DAOを成功させるために
これらの調整や規制に関わるコストは、イノベーションで解決できる。起業家はDAOの人件費、コンプライアンス、ガバナンスの負担を軽減するツールを開発している。
ハードルの一部は、例えば、DAOに関連する法律や証券取引法を明確化することなど、政策レベルで対処しなければならない。さらに、DAOをビトクラシーから能力主義に近づけるために、ガバナンスメカニズムについてはもっと研究が必要だ。
しかしときに、調整や規制についての高いコストは、払う価値のあるものだ。例えば、多くの人の暮らしに関わるインターネットインフラの重要な要素は分散化されるべきだ。
ステーブルコインのダイ（DAI）を手がけるメーカーDAO（MakerDAO）は、分散化の格好の事例。プロトコルへの信頼は大規模なグループによって（理論的には）管理されていて、単独の人物の気まぐれに左右されないという事実によって確立されている。ビットコイン、イーサリアム、インターネットの成功は主に、堅牢さと熱心なコミュニティを生み出した分散化の賜物だ。
DAOを十分に機能するものにすることは、人類にとって大切なプロジェクトだ。なぜならDAOは私たちに、私たちが未来の中央広場とも形容されるインターネットを所有・管理することができる民主的な未来を約束しているからだ。
はっきりとしていることが1つある。民主的システムに対する需要は高まっており、人々は少数のプラットフォームがインターネットを支配する状況に懐疑的になっている。
調整と規制にまつわるコストを下げることで、DAOをより現実的な選択肢とし、条件を公平にして、より民主的なインターネットを作るというDAO本来のビジョンの実現をサポートできる。
スコット・フィチモネス（Scott Fitsimones）氏：CityDAOの創設者で、『The DAO Handbook』の著者である。
｜翻訳・編集：山口晶子、増田隆幸
｜画像：Shutterstock
｜原文：What’s Holding DAOs Back?
