DAO投資ブームに潜む新たなリスク【オピニオン】

弱気相場にも関わらず、ベンチャーキャピタルの暗号資産(仮想通貨)への関心は衰えないが、試される時を迎えているのかもしれない。

トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)への制裁といったニュースが、国家の法律と分散型組織の決まりごとの間の摩擦を浮き彫りにしている。

暗号資産の世界では大きな議論が巻き上がったが、ベンチャー投資家たちの間でも、静かにではあるが、深い懸念が広まっている。他にももう1つ、そのような2つの決まりごとの亀裂の典型例となるような、ある重要な出来事が発生していた。

今年6月、メリット・サークルDAO(Merit Cicle DAO)のコミュニティは投票で、イールド・ギルド・ゲームズ(Yield Guild Games:YGG)をシード投資家として追放した。

これによって、親組織であるメリット・サークル社とその投資家YGGの間の契約「Simple Agreement for Future Tokens(SAFT)」が破棄されたのだ。この投票は、自律分散型組織(DAO)ガバナンスが、法的契約を覆した初めての例で、様々な投資家に衝撃が広まった。

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追い出されたYGG

「Simple Agreement for Future Tokens(SAFT)」とは、初期暗号資産プロジェクトの金融取引で使われる事実上の法的契約である。興味深いことにこの慣習は、証券取引法を回避するための方法として、2017年の新規コイン公開(ICO)ブームの頃に始まった。

プロジェクトがSAFTで資金を調達する場合、トークンを売却、提供、交換することなしに投資家から資金を受け取ることになる。しかし、SAFTは非債権金融商品であり、SAFTで資金提供した投資家は、プロジェクトが失敗に終われば、提供した資金を失い、償還請求もできないかもしれない。

YGGがメリット・サークル社とSAFT契約を締結したのは、2021年9月。17万5000USDコイン(USDC)をメリット・サークルDAOにシード投資した。権利確定スケジュールに先立つ2022年4月、メリット・サークルはシード投資家たちに対して掲示板に、メリット・サークルDAOへの自らの貢献を明らかにするよう求める投稿を行なった。

コミュニティのメンバーの多くは、YGGがDAOに価値を加えていないと考えていた。DAOメンバーの1人が、当初の投資額を返還し、トークンを買い戻すことで、YGGのSAFTを取り消す提案を作成。この提案は賛成過半数で可決され、DAOコミュニティからの支持を得た。

YGGチームにとっては、これは極めて心配な進展であり、ダメージコントロールモードに入らざるを得なくなった。彼らはYGGがコミュニティにどのような貢献をするかを説明し、契約を取り消すことの道徳的、法律的問題について警告も発した。

さらに、提案者に対し、YGGとの妥協点を見つけるために、別の提案を提出するよう求めた。最終的に対抗案が可決され、DAOはYGGの持つ500万のMCトークンを、1つにつき32セント、合計175万ドルで買い戻した。これによって、YGGは10倍のリターンを得たが、DAOの成長に将来的に関与する権利は一切奪われることとなった。

国家の法律 vs DAOの法律

YGGとメリット・サークルDAOは双方とも、友好的に解決したことを示す声明を発表。しかし、匿名でCoinDeskの取材に応じた数名の投資家たちは、この事態に対する深い懸念を表明した。

そのような問題についての懸念を公に語ることができないということ自体が、すでに投資家たちにとっては奇妙な状態である。法的観点から言えば、YGGはSAFTの条件を強制し、ガバナンス権と、5年間で獲得できるキャピタルゲインを取り戻す根拠があったのだ。

しかし、大半のベンチャーキャピタルは、自分達でもそのような行動には出ず、YGGのように示談に応じただろうと語る。この分野の投資家にとって、評判は何よりも神聖なものであり、コミュニティの決定に敵対したことを示唆すれば、この先の取引に深刻な影響を与える可能性がある。

ある投資家が言った通り、「この分野においては、すべてがナラティブによって決定される。事実とは関係なくだ。自分達のファンドに不利なナラティブが構築される危険を冒すことはできない」のだ。

この分野における投資家への法的保護がどれほど整っていないかが、浮き彫りとなる事態でもあった。SAFTがあったにも関わらず、コミュニティ投票を前に、何の保護ももたらされなかったのだ。

法的先例がないという理由から、法的措置は投資家たちによって却下されたが、実際に法的措置が取られたとしても、長期に及ぶ無益な法廷闘争を繰り広げることになっただけかもしれない。

DAO投資に対するVCの姿勢がより慎重になるにつれ、「この先のSAFTの構成に間違いなく変化が生じる」と、ライトスピード・キャピタル・インディア(Lightspeed Capital India)のロミット・メータ(Romit Mehta)氏は指摘する。

権利確定のスケジュール、投資家の義務、DAOの内部権力構造といった点で、SAFTはより隙のないものになるかもしれない。投資家がもたらす付加価値を測る指標も、将来的にSAFT契約の中で適切に定義されるようになるかもしれない。

投資家たちはまた、ワイオミング州が法制化したDAO LLCのようなまったく新しい法的分類でDAOを登録することなど、事業構成の点でさらなる要件を追加することになるかもしれない。

コミュニティは公平に判断できるのか?

今回の事例は、何の貢献もせずに恩恵を受ける寄生的な投資家に責任を取らせるコミュニティの力を見せつけるものだ。他方では、投資家のもたらす貢献はしばしば目に見えないものであり、コミュニティは本当に、投資家がもたらす付加価値を正確に測ることができるのか、という疑問も提起する。

投資家がもたらす価値の捉え方は、起業家、中核チーム、コミュニティの間でも異なるかもしれない。初期の資金調達の段階で投資家がもたらす信頼性は、量的に測ることの難しいものだ。

さらに、初期段階では、投資家と創業者はしばしば、プロジェクトにとって非常に価値のある内密な議論をしていることが多くある。何よりも、プロジェクトが十分に分散化すれば、創業者たちとコミュニティの間には、情報の偏りが出る可能性もあるのだ。メリット・サークルの場合でも、創業チームはYGGを支持し、YGGがもたらす価値について、コミュニティとは違った意見を持っていた。

VC企業アントラー・グローバル(Antler Global)のニティン・シャルマ(Nitin Sharma)氏は、暗号資産プロジェクトへの付加価値は、グローバルな機関投資家、あるいは暗号資産に関して専門知識を持った投資家によってもたらされると考えている。

暗号資産専門家はプロダクト開発について専門的知見をもたらすのに対し、グローバル投資家は世界中から、新しい人脈やアドバイザー、スタッフを連れてくることができる。彼らの投資の経験はネットワーク効果を持ち、プロジェクトの初期の成長に価値を持つ可能性があるのだ。しかし、これはコミュニティが評価するのは難しい価値だ。

YGGとメリット・サークルDAOの場合には、YGGは公式声明の中で、SAFTには、DAOに「付加価値」をもたらす義務が明記されていなかったと主張した。そうであれば、コミュニティが法的合意を反故にして、投資家を追放する基準という問題が浮かんでくる。

これから先、DAOコミュニティがDAOのあらゆる事柄について発言権を持つべきかについて、より議論がなされるだろう。開かれたガバナンスシステムによって、DAOに関するあらゆる重要な問題について、あらゆるコミュニティメンバーが影響力を持つことができるようになるかもしれない。しかし、投資家への法的責任を無視することもできてしまうのだ。

コミュニティは、DAOの成功の基盤である。創業者たちは、分散化と自分達の影響力を維持するということを両立するという至難の業を成し遂げなければならず、ガバナンスに関するすべての決定事項をコミュニティに諮ることはしないと決断するかもしれない。投資家自身も二次的デューデリジェンスを行い、投票の仕組みやコミュニティからの期待をより深く検討するようにだろう。

今回の事態は、DAOへの投資ブームにおいて重要な先例となった。暗号資産に対する規制が全体として増加していること、さらに弱気相場を考慮すれば、これからDAOにVCが投資する際の法的枠組みに、変化が見られるだろう。

タンビ・ラトナ(Tanvi Ratna)氏は、デジタル資産への政策アプローチに取り組むリサーチ・諮問期間ポリシー4.0(Policy 4.0)のCEO。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why Traditional Investors May Not Love DAOs