イーサリアムの次の大規模アップデート「シャンハイ」とは? なぜ重要なのか

イーサリアムブロックチェーンは3月、昨年9月にプルーフ・オブ・ステーク(PoS)システムに移行して以来の大規模アップデートを実行する。「シャンハイ(Shanghai)」と名付けられたアップデートが完了すると、1600万にのぼるステーキング(預け入れ)されたイーサリアム(ETH)は、ついにネットワーク維持に貢献するバリデーターによる引き出しが可能となる。

シャンハイの主な目的は、バリーデーターによる引き出しを可能にするイーサリアム改善提案(EIP)4895を実行することだが、他の変更の完全なリストは最終決定されたばかり。アプリ開発者やユーザーの多くも気づくような追加のアップデートも含まれている。

EIP4895とは?

シャンハイによって、バリデーターたちがネットワークの安全性確保に貢献するためにステーキングした1600万のイーサリアムが引き出し可能になる。

前回の大型アップデート「Merge(マージ)」では、イーサリアムのコンセンサスメカニズムがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に変更され、ブロックチェーンへのブロック追加には従来のマイナーではなく、バリデーターが従事することになった。

バリデーターはブロックの検証プロセスに参加するために、32イーサリアムをステーキングすることが義務付けられている。ステーキングされたイーサリアムは宝くじのように機能する。バリデーターがステーキングしたイーサリアムが多ければ多いほど、取引の次のブロックの検証作業に選ばれ、ネットワーク報酬を獲得できる可能性が高まる。

バリデーターに対しては、PoSブロックチェーンに参加する前に、ステーキングするイーサリアムと報酬として獲得したイーサリアムは、その後のアップデートまでロックアップされることが知らされていた。

バリデーターは2020年12月、イーサリアムがMergeに向けた最初のステップとして、PoSの「ビーコンチェーン(Beacon Chain)」をリリースした時から、イーサリアムをステーキングし、報酬を獲得してきた。そしてついに、バリデーターは自らのイーサリアムを手にすることができるようになる。

シャンハイの重要性

ステーキングしたバリデーターがこの2年で獲得した報酬を手にすることを望んでいたり、この1年の市場の不確実性のために自らの資産をよりコントロールしたいと考える可能性もあることから、シャンハイの主な目的なEIP4895にある。

しかし、ロックアップされた資産へのアクセスだけでなく、PoSブロックチェーンは運用開始以来、まだ完全にその本領を発揮していない。ブロックチェーンは適切に機能しているが、イーサリアムを動かし続けるために、バリデーターたちは自らの資産をロックアップしなければならなかった。

ステーキングされたイーサリアムを解放するメカニズムが導入されることで、PoSブロックチェーンが完全運用されるようになり、ステーキングする人たちは、自らの資産をコントロールし、獲得した報酬の扱いも自ら決断できるようになる。

イーサリアムの引き出し方法

バリデーターとなっている場合、シャンハイ実行後にイーサリアムを引き出す方法は2つある。

1つ目は「引き出し認証情報(withdrawal credential )」の設定。ステーキングで獲得した報酬が自動的にアンステークされる。2つ目は、ビーコンチェーンから完全に抜け、すべてのステーキングを解除すること。

ステーキングの解除にかかる時間は「どれくらいの人がステーキングを解除するによって決まる」とイーサリアム財団の開発者マリウス・バン・デ・ウィジュデン(Marius Van Der Wijden)氏は語った。

引き出しには技術的な制限がある。しかし、ステーキングはイーサリアムブロックチェーンとそこでトレーディングする人に新たな可能性を開くものであり、すべてのバリデーターがブロックチェーンを抜ける可能性は小さい。

イーサリアムの引き出しが控えるなか、トレーダーは市場の動きに注目している。ステーキングされたイーサリアムが引き出され、売り圧力が生じると考えるトレーダーがいる一方で、シャンハイはさらなるステーキングを促すと考えるトレーダーもいる。

シャンハイ実行後、すぐに引き出し可能となる報酬は約100万イーサリアム。トレーダーは、イーサリアムがすぐに売りに出されるのか、それによってイーサリアム価格が下落するのかを注視することになる。

シャンハイの他の要素は?

シャンハイの他の4つの比較的小規模なEIPは、イーサリアムでの取引手数料、いわゆるガス代に関するもの。アクティビティが盛んな時にガス代が高騰することがあり、開発者たちはガス代を抑制するメカニズムを加えようとしている。

EIP-3651は、バリデーターや開発者が使うソフトウェア「COINBASE」アドレス(※取引所のコインベースとはまったく無関係)に、より低いガス代でアクセスすることを提案するもの。これにより、MEV(最大抽出可能価値:Maximal Extractable Value)や他のユーザーエクスペリエンス(UX)が改善されるとコンセンシス(ConsenSys)のプロダクトマネージャー、マット・ネルソン(Matt Nelson)氏は語る。

「このEIPは、COINBASEアドレスにアクセスするコストに関して、従来の見落としを是正し、ユーザーや新しいユースケースをもたらす開発者にさらなるメリットを与える」(ネルソン氏)

残り3つのEIPは次のとおり。

  • EIP-3855:開発者のガス代を下げるコード「Push0」を作成
  • EIP-3860:スマートコントラクトのために開発者が使うコード「initcode」とやり取りする際の開発者向けのガス代に上限を設ける
  • EIP-6049:「SELFDESTRUCT」と呼ばれるコードについて開発者に警告し、非推奨とする。ガス代低減にもつながる

シャンハイ後のイーサリアム

開発者たちはシャンハイの範囲を比較的小さく抑えることにした。その主な理由は、ステーキングされたイーサリアムの引き出しを可能な限り早く実現するため。その結果、他の大きな変更のいくつかは2023年の第3四半期に延期された。

実施が延期された変更には、ブロックチェーンを複数のチェーン「シャード」に分割することで、スケーラビリティを向上させる「プロト・ダンクシャーディング」などが含まれる。

さらに、イーサリアム・バーチャル・マシーン(EVM)を改善するためのいくつかの小規模なアップグレードを含むEVM Object Formatへの変更も近い将来に予定されている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:What Is the Ethereum Blockchain’s Shanghai Hard Fork, and Why Does It Matter?