2023年のイーサリアム:展望と課題

迫るステークド・イーサの引き出し

これがイーサリアム開発者たちが取り組む最も差し迫った課題となるだろう。

昨年9月に実施された「Merge(マージ)」によって、イーサリアムブロックチェーンのコンセンサスメカニズムがプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行して以降、イーサリアムブロックチェーンではブロックを承認してブロックチェーンに追加する作業にマイナーではなくバリデーターを使うようになった。

そしてMergeを前にバリデーターたちはブロック承認プロセスに参加する条件を満たすために、PoSのビーコンチェーン(Beacon Chain)に32イーサリアム(ETH)をステーキングした。

バリデーターたちは、プロセスに参加する前にステーキングしたイーサリアムと獲得した報酬は、現在3月に予定されている次のアップグレード「シャンハイ(Shanghai)」までは、ロックアップされた状態になると知らされていた。

ビーコンチェーンの運用が開始された2020年12月以来、報酬を獲得してきたバリデーターたちは、ついにその報酬やステーキングしたイーサリアムを引き出すことができるようになる。

「引き出しの準備は整ったも同然」とイーサリアム財団の開発者マリウス・バン・デ・ウィジュデン(Marius Van Der Wijden)氏は語り、残るは引き出しを可能にするプログラムの試験だけだが、それも「2月〜3月にはおおむね完了するはず」と付け加えた。

プロト・ダンクシャーディングは秋か?

イーサリアム開発者たちが取り組んでいるもう1つのアイテムは「プロト・ダンクシャーディング(proto-danksharding)」だ。

「シャーディング」とは、ブロックチェーンをよりスケーラブルにする方法で、ブロックチェーンを複数のチェーン(シャード)に分けること。開発者たちはシャーディングを高速道路に新しい車線を追加することに例えてきた。より多くの車が高速道路を利用できるようになり、渋滞の緩和によって(理想的には)より速く走ることができるようになる。

同じことがイーサリアム取引にも言える。シャーディングによって、ブロックチェーンが処理できるネットワークアクティビティは増加し、ガス代(取引手数料)は減少、より高速な取引が可能になる。

ダンクシャーディングは、ネットワークをシャードに分割するという同じコンセプトだが、取引のためにより多くのスペースを提供する代わりに、一時的に専用専用のデータを加えて、より多くのデータを処理できるようにする。

しかし、3月のステーキングされたイーサリアムの引き出しと同時に実施することはあまりに野心的過ぎると、イーサリアム開発者たちは考えた。

ステーキングされたイーサリアムの引き出しを可能な限り早く実現することが優先事項であり、プロト・ダンクシャーディングは秋に予定されているアップグレードまで延期することで同意した。

イーサリアム財団のエンジニア、パリトシュ・ジャヤンティ(Parithosh Jayanthi)氏は、プロト・ダンクシャーディングは「2023年に開発者たちが取り組む最もエキサイティングなもの」になると語り、「何百万人ものユーザーをオンボーディングし、イーサリアムにスケーラビリティをもたらす可能性」があると続けた。

検閲と中央集権化の問題

米財務省外国資産管理局(OFAC)は2022年8月、イーサリアムミキサー「トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)」を制裁対象とした。それ以来、イーサリアム開発者たちはその意味を理解する作業に追われてきた。

アメリカ国外にいるバリデーターはその制裁に従う必要はないと主張する人もいれば、外国資産管理局のルールのもとでどんなブロックチェーン活動が許されるのか困惑している人もいる。

当記事執筆時点、この24時間でイーサリアムブロックチェーンに追加されたブロックの65%は、トルネード・キャッシュに関わった取引を検閲しており、コミュニティメンバーたちは、検閲の増加という流れを逆転させようとしている。

現状、イーサリアムエコシステムのメンバーは、OFACの制裁遵守について異なる考え方を持っている。

トルネード・キャッシュの関わった取引をブロックチェーンに追加することを禁止するものだと解釈する人もいれば、それは検閲にあたると考える人もいる。イーサリアムコミュニティの中では、原則と規則の折り合いをどのようにつけるかをめぐって議論が巻き起こっている。

「エコシステムは2023年、検閲耐性とクライアントの多様性にもっと関心を払う必要があると思う」とジャヤンティ氏は語り、「そのどちらも、2023年のプロトコルのロードマップでは十分に取り扱われていないため、プロトコルが満足のできる程度に対処できるまでは、コミュニティが率先して対応してくれることを願っている」と続けた。

検閲の問題は、中央集権化の懸念も引き起こした。大半のバリデーターが、トルネード・キャッシュを除外するような形で取引をブロックチェーンに追加する方法を選択したからだ。

「きわめて分散化した状態を実現できるイーサリアムプロトコルを構築するために、私たちは必死に努力した。しかし、あらゆる所に中央集権化を押し進めるような力が存在しており、大いに注意を払う必要がある」と、イーサリアムのクライアント(ソフトウェア)Tekuのベン・エディントン(Ben Edgington)氏は語った。

「イーサリアムを分散化した形で運営するよう、人々に強制を強いることはできない。だがそうでなければ価値がなくなってしまう」とエディントン氏は指摘する。

デブコンなどのイベント

最後に、イーサリアム開発者、市場参加者、政策決定者、その他のコミュニティメンバーは、さまざまな国際的イベントに集結し、新しいアイデアでコラボレーションするだろう。

イーサリアム開発者向けの最大級のカンファレンス「デブコン(Devcon)」は、開催地は未定だが、2023年も開催が予定されている。2022年はコロンビアで開催されたデブコンは、世界各地でイノベーションや意見を共有するイーサリアムファンにとって、最大級のイベントになっている。

他に注目するべきイベントとしては、7月17日〜20日に開催が予定されているパリのEthCC。昨年は、レイヤー2企業がさまざまなロールアップソリューションを発表した。

Ethereum.orgも、世界中で集会やハッカソンを企画しており、イーサリアムファンたちが仲間と会うチャンスを提供している。

そして米CoinDesk主催のConsensus(コンセンサス)は、4月26日〜28日にテキサス州オースティンで開催予定。イーサリアムをはじめ、ブロックチェーン、暗号資産、Web3関連のさまざまなテーマについて議論する。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Ethereum in 2023: Here’s What to Look Forward To