「ゴールデンクロス」は重要なのか?

暗号資産に投資している人たちの多くは、ビットコイン(BTC)が「ゴールデンクロス」に近づくにつれ、興奮を高ぶらせている。ゴールデンクロスとは、短期移動平均線(多くの場合50日)が長期移動平均線(多くの場合200日)を上方に突き抜けることを表す。

ゴールデンクロス目前

ゴールデンクロスは、テクニカルアナリストがしばしば使う一般的な指標で、強気相場が新しく生まれてきているサインと考えられている。私自身もテクニカルアナリストであり、移動平均線がクロスすることには間違いなく注目している。

このクロスはなぜ示唆に富んでいるのか? 今この瞬間をより大局的に見ることができ、「どのような短期的変化が値動きを加速させたのか? この先も続くのだろうか?」といった疑問を提起するからだ。

しかし、予測ツールとしてどれほど優れたものなのだろう? 移動平均線のクロスを見つけて「これは強気だ」と宣言することと、実際にそうなのかは、まったく別物だ。

ビットコインの歴史を振り返ると、最も目を引くことはゴールデンクロスが起きた回数がきわめて少ないことだ。2015年1月1日以降、50日指数平滑移動平均線(EMA)が200日EMAの上にクロスしたのはわずか6回しかない。

EMAは、直近の価格に重みを持たせるもの。一方、単純移動平均線(SMA)はすべてのデータポイントが均一の重みを持つ。どちらを使うかは個人的な好みの問題だ。

ゴールデンクロスは、イーサリアム(ETH)ではさらに珍しく、2017年以降、3回しか起きていない。

ビットコイン価格(茶)、200日EMA(黄)、50日EMA(紫)
出典:TradingView

しかし当記事執筆時点、ビットコインはゴールデンクロスから2.4%、イーサリアムは2.1%離れているだけで、どちらもゴールデンクロスが間もなくのような(編集部注:その後、両方とも価格が下落している)。

今重要なことは、2つの暗号資産は関心を払うべき何かに近づいているのか、それともこれは単なる1つの話題に過ぎないのかという見極めだ。その結果は、興味深いものとなっている。

上昇を示す強気指標か?

過去の50日/200日ゴールデンクロスを見ると、ビットコインはその後の7日間で4.4%上昇し、30日間で9.6%上昇した。だだし、何かと比較しないと確かなことは言えない。

7日間と30日間という期間で見ると、ビットコインはどのような値動きになっているだろうか? 7日間は1.6%、30日間は7.5%の上昇。つまり、ゴールデンクロス後よりも数字は低い。ゴールデンクロスには、確かに歴史的に強みがある。

ゴールデンクロス後の30日間での上昇が最も大きかったのは、2019年の4月〜5月にかけて、67%上昇した時。逆に最悪の値動きとなったのは、2018年5月〜6月にかけて、18.2%下落した時だ。

ETHの価格(緑)、200日EMA(紫)、50日EMA(黄)の推移
出典:TradingView

イーサリアムに関しては、ゴールデンクロスは強気サインになっていない。ゴールデンクロス後の平均的な7日間と30日間の値動きはそれぞれ、2%と8%の下落。一方、全期間での7日間と30日間での平均的な値動きは、1.5%と7.3%の上昇となっている。移動平均のクロスをきっかけにするのではなく、シンプルに、購入して保有する戦略の方がイーサリアムの場合は理に適っていた。

伝統的資産クラスの場合

驚くことに、ゴールデンクロスは伝統的な資産クラスでも、かなりまれにしか起きていない。例えば、3つの主要な米株式市場インデックスである、S&P500、ダウ・ジョーンズ工業株価平均、ナスダック総合指数を見てみよう。

S&P500でゴールデンクロスが発生したのは、2015年以降で3回、他の2つの指標では5回。ゴールデンクロス後の30日間はいずれも上昇している。上昇はナスダックが1.5%と最も大きく、S&P500は1.15%、ダウ・ジョーンズは1.13%。とはいえ、どれもあまり興奮するようなものではないだろう。

結局のところ、検討した5つのうち4つ(イーサリアム以外)で、ゴールデンクロス後の30日間に価格が上昇していたことは印象的だ。パターンが存在するなら、パターンを特定するためにさまざまな暗号資産にも同じプロセスを適用することは合理的だろう。

とはいえ率直に言って、暗号資産にとってのゴールデンクロスの重要性について、私は確信できていない。伝統的な50日/200日平均というタイムフレームは、暗号資産よりも伝統的金融においてより妥当性があるだろうというのが私の見解だ。最終判断は時間が下すことになるだろう。

さらにゴールデンクロスの珍しさは、さらなる注目に値することを意味するのか、まったくそうではないのかという点についても疑問を感じざるを得ない。答えはおそらく、その中間にあるだろう。

すべてに共通して言えることは、1つの指標だけを単体で見るべきではないということだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: Bitcoin’s ‘Golden Cross’ Explained