ダサい開発者イベントに潜む本当の価値とは── ETHDenverが体現する真のコミュニティ【コラム】

イーサリアムブロックチェーンでスマートコントラクトやDeFi(分散型金融)に携わる開発者にとって、おそらく今、最も重要なイベント「ETHDenver」が先週、閉幕した。私も参加したかったが、悪事を公にする過酷な4カ月を過ごし、疲労困憊していた。

ありがたいことに、多くの人がイベントの動画をアップしていたので、私もその場にいたかのように楽しむことができた。しかし残念なことに、投稿の多くは一般的にはダサいと思われているETHDenverに対する無邪気な戸惑いと冷笑のような何かを表していた。

ETHDenverの荒削りな感じは、愚かさや無秩序に見えるかもしれないが、真のコミュニティがイチから何かを作り上げたいという共通の関心によって引き寄せられ、まとまっていることを強く示している。そうしたコミュニティこそが、現在のような低迷期を乗り切ることができる。

また控えめに言っても、参加者の多くは他人のことなど気にしないほどリッチなことも事実だ。

毎年恒例のふざけた歌

多くの暗号資産カンファレンスに比べて、ETHDenverや関連するイベントはややいい加減で、少し奇妙な印象を受けることは確かだ。例えば、毎年参加している「The Song a Day Guy」ことジョナサン・マン(Jonathan Mann)氏。彼は毎年、このイベントのためにダサくて、素人っぽい曲を作って演奏しており、ツイッターでは毎回、彼に批判的な声が寄せられる。

しかし、ETHDenverであなたを不快にさせるものは、ふざけた歌だけではない。

昨年、私が参加した時は、駐車場を改修した場所で開催され、トイレはほとんどが故障していた。座席の約3分の1からはメインステージを見ることができず、会場の後ろで話をしている人たちの声が登壇者の声をかき消していた。2階のテーブルにはときおり、500枚のピザが届けられ、動けないほどの大行列となった。

だがそれでも、素晴らしいイベントだった。

バグではなく仕様

ETHDenverは、一般の人の目にも触れるようなほとんどの暗号資産イベントとは異なり、素晴らしいパンクロックかヒップホップのライブのような鋭さとエネルギーを持っている。

マーケティング会社や巨大な予算が暗号資産イベントを支配するようになった今でも「DIY」的な雰囲気がある。ROI(投資利益率)ではなく、真の精神に突き動かされている。適当さや荒削りな部分はバグではなく仕様だ。

荒削りな感じや適当さ、まとまりのなさはある種の人たち、特に金融関係者やそうした怪しげな呼称に憧れる人たちにとっては確かに興醒めだ。いわゆる機関投資家は、共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏のダンスから、イーサリアムエコシステムの真剣さについて、あまり安心できないだろう。

しかし、それこそがポイントだ。イーサリアム支持者は間違いなく、文句を言っていない。優れたパンクのライブと同じように、ジョナサン・マン氏のオープニングパフォーマンスは、素人を静かな毎日へと追い払うことが狙いだ。

さらに、2021年に詐欺師たちに恥ずかしいほどの投資をしていた強欲な人たちもいる。もしこのカルチャーを理解できないなら、ここで行われるそれ以外のことも理解できないだろうとの暗黙の了解がある。

そして、莫大なお金が動く業界で外見を気にしない余裕の姿勢こそ、最高の強さの表れかもしれない。

暗号資産界の皮肉屋ガブリエル・ハイネス(Gabriel Haines)氏が言った通りだ。

「ドン引きするほど恥ずかしい奴だとお前に思われているかどうかなんて、俺が気にすると思っているのか? 俺は肝が据わっている。妻と一緒にステージに上がってディズニーの歌を歌える、地球上で最も威勢のいい男なんだ!」

多額の資金を手にしている余裕

そうした無関心さは、もうひとつの重要な事実を示している。すなわち、ETHDenverの参加者の多くは大衆に親しまれることも、大衆にとって魅力的であることも、ほとんど、あるいはまったく必要ない。なぜなら、お互いを知り、すでに十分に連携している活発なコミュニティだからだ。

さらにETHDenverに参加するような人たちは、暗号資産、特にイーサリアムに長く携わっており、個人あるいは組織として、かなりの資産をすでに手にしている。自分たちの持っているイーサリアム(ETH)が2ドルで手に入れたものなら、2021年や2022年のバブルや暴落でさえも取るに足りないものだ。

対照的に、この3年くらいで業界を席巻するようになった洗練された演出過剰なイベントは、短期的な盛り上がりを促進するために成果や業績の華やかさのアピールに重点を置いている。

2018年、ニューヨークで開かれた米CoinDesk主催の「Consensus」会場に起業家アーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)氏が3台のランボルギーニを駐車したのは、彼なりのパンクロックの表れだった。しかし彼のジョークを理解した人はおらず、IQの低い見せびらかしは、多くの暗号資産イベントで常態となってしまった。

暗号資産イベントで今や標準となっている洗練された演出は、ほとんどの場合、リアルな現在の実績ではなく、将来を期待してベンチャーキャピタルが支える興奮と成功のシミュレーション。人々が必要とするものを開発するよりも、表面的な盛り上がりに多くの労力が費やされている。そうした努力は、パートナーシップや成長を生み出すことを目的としているのかもしれない。あるいは、誰かに価値のないトークンを売りつけたいだけかもしれない。

出資を求めることほど、気まずいことはない。しかも一度だけでなく、何度もスーツに身を固め、PR部門が練り上げた戦略に身を委ねることになる。

ETHDenverはそうした自虐的な責務から完全に自由。だからこそ実際、非常にクールなイベントになっている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Danny Nelson/CoinDesk
|原文:ETHDenver Looks Cringey to You Because Ethereum Has an Actual Community