大人になる時──暗号資産の未来に必要なことを伝統的金融の専門家に聞いた

暗号資産(仮想通貨)の未来は伝統的金融(TradFi)の投資家にかかっている。銀行や資産運用会社のことではなく、年金基金、寄付基金、財団、大規模なファミリーオフィスなど、大規模な資金を長期間、継続的に運用することを任された投資家のことだ。暗号資産がその変革的な潜在能力を発揮するには、これらの機関投資家からのお金が必要だ。

こうした投資家が暗号資産についてどのように考えているのかを理解するために、15人の投資家に話を聞いた。その中の誰ひとりとして、暗号資産に熱心と呼べる人はおらず、それぞれが数十億ドル規模のポートフォリオの運用管理を担っている。

私の質問は「2022年の出来事を踏まえ、どのようなことが暗号資産関連のチャンスに投資する確信を与えてくれるだろうか? どのようなチャンスなら投資を検討するか?」。さらに「規制の整備」という回答は避けるという条件もつけた。

回答からは、暗号資産の未来に役立つ5つの大切なポイントが見えてきた。

「暗号資産とブロックチェーンはなくならない」

2022年の暗号資産関連の出来事、つまりビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)をはじめとする暗号資産の下落、、信用危機やその伝播などが回答者たちの確信に影響を与えていなかった。

昨年の出来事に対する反応は楽観的なもの(2022年の出来事は…私や暗号資産にとってはそれほど意味を持たない)、運命論的なもの(自分たちがやっていることを十分理解していると関係者を信頼できるようになるほどに制度として確立するまで、暗号資産はあと数回暴落するだろう)、上機嫌なもの(暴落は大歓迎)など、さまざま。

さらに健全なエコシステムへとつながる「必要な下落」だったと考える人たちも複数いた。全般的に言って、2022年が暗号資産の終わりを意味すると考える人は1人もいなかった。

むしろ「暗号資産とブロックチェーンはなくならない」とした、ある基金の最高投資責任者の意見を概ね同じだった。だが、ある程度の資本を暗号資産に投資するためには、暗号資産の未来はこれまでとは違っている必要があるという点でも意見は一致していた。

「暗号資産は問題を探しているソリューション」

回答者たちによれば、暗号資産の未来には取引戦略への投資は含まれていない。大規模ファミリーオフィスのマネージングディレクターは「通貨としての暗号資産には興味がない」と強く主張。企業で年金運用の責任者を務める人物は、暗号資産取引は「向こう見ずなギャンブル」と考えていると語った。

回答者たちは皆、暗号資産への資産配分を支持する理由としてよく使われる、他の資産とは相関関係を持たない資産、価値保存の手段、インフレヘッジといった経済的根拠も却下した。ある回答者はこれらの主張は「仮説的」と結論づけた。

「暗号資産は大人になる時だ」

暗号資産の未来は、優れた暗号資産プロダクトではなく、優れた暗号資産企業にある。

回答者たちにとって2022年は、暗号資産の分水嶺となった1年だった。暗号資産を真に必要なイノベーションにつながる変革的なテクノロジーと考えているが、これまでのところ、暗号資産エコシステムは「ほとんど価値創造に貢献しない人たちにインセンティブを与える中身のない集まり」と考えている。

ある投資コンサルタントは暗号資産エコシステムを「技術面に精通した一部のユーザーで構成された趣味人の業界」と形容。「暗号資産の世界で注目されていることは、機関投資家にとっては重要なことではない」と指摘した。

機関投資家の資本を惹きつけるには、現状を変えなければならない。あるファミリーオフィスの投資家が言ったとおり、「暗号資産は大人になる時だ。暗号資産関係者たちは、他の暗号資産関係者向けにプロダクトを開発することを止めなければならない」。別の回答者は「今は夢を見て、楽観的になっている段階」と指摘した。

ファミリーオフィスでVC投資を担当する人物は、幻想から現実に移行するためには、エコシステムが「Web3エコシステムの外にある実世界の問題を解決するうえで、現行のソリューションよりも優れたソリューション(インフラとアプリケーション)」を構築し始める必要がある」と主張。それはつまり、より高速、より安価、より優れたユーザーエクスペリエンスなどだ。

回答者たちは、投資を検討するにはこれらのソリューションは定義可能かつ持続可能なビジネスモデルに支えられていなければならないと考えている。ちなみにそのようなビジネスモデルとはDAO(分散型自律組織)ではない。「DAOは事業運営の方法ではない。ガバナンストークンとは、一体何だ?」とある回答者は語った。

回答者たちは、暗号資産エバンジェリストやコンサルタントの「プロダクトとビジネスの違いをまったく無視した」プレゼンにうんざりしているおり、ある回答者は次のように断言した。

「今年、暗号資産のプレゼンを聞くときは話を遮って、ビジネスモデルについて聞くことにする。過去数年は、プロダクトとビジネスの違いが完全に無視されていた」

重要なことは回答者全員がビジネスモデルはスケーラブルでなければならないと考えていること。ある回答者にとっては「中央集権型のものよりも効率的な、一般の人向けの分散型プロジェクトや投資チャンス」を意味する。

別の回答者はもっと具体的。「獲得可能な市場最大規模が1000万〜1億人のプロジェクトや投資」であり、「暗号資産は一般への普及の契機となる瞬間を必要している」と強調した。

「暗号資産と基盤テクノロジーの世代交代が普及に必要」

未来はまだ遠い。回答者たちは投資の妨げになる複数の構造的問題を指摘した。例えば、持続可能でスケーラブルな暗号資産ビジネス構築の難しさやそれにかかる時間、中央集権的構造から恩恵を受ける旧来的組織からの抵抗などだ。

さらに、それほど明白ではないが、より大きな問題をあげた回答者もいる。機関投資家の現在の世界観だ。広範な暗号資産投資には、2段階の「世代交代」が必要と回答者たちは考えている。

伝統的金融の投資家たちの世界観は何十年にもわたって、CFA(米国の認定証券アナリスト)やMBAのカリキュラムとして体系化された規範の中に制限されてきた。ある回答者はそれを「暗号資産関連の投資を支持するものではない」と語り、「そのような考え方を排除できれば、5年のうちに、私たちが心から必要としているイノベーションを手にすることができるだろう」と続けた。

さらに投資家たちは、自国だけにとどまらず、新興市場、特にグローバルサウスに存在する大勢の非銀行利用者層が、多くのスケーラブルな投資チャンスの源であり受益者となることを認識する必要がある。ある投資コンサルタントは「ボストンの投資委員会は暗号資産について、グローバルサウスの若者たちと同じようには考えていない」と述べた。

「デューデリジェンスとして通用しているものはバカげている」

未来には、優れたデューデリジェンスも欠かせない。暗号資産関連の投資チャンスが安定したスケーラブルなビジネスモデルに基づいていると確信するには、厳格なデューデリジェンスが必要だ。

回答者たちは一般的に、未公開市場にはファンドを通して投資しているため、資産運用会社が実績のある、独自のデューデリジェンスプロセスを使い、暗号資産投資について十分に精査することを期待している。

だが、多くの著名ファンドや資産運用会社がセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やFTXの数多くの危険信号を見逃した(あるいは無視した)ことで、回答者たちは、ファンドのデューデリジェンスプロセスを全面的には信頼しなくなった。例えば、ある回答者は「デューデリジェンスとして通用しているものはバカげている」と語った。

カナダの年金基金の投資マネージングディレクターもその意見に同意し、「多くの人がひどく怠慢で、十分に深く掘り下げることをしない」と語った。

暗号資産関連の投資チャンスは、最も熟練した投資家でさえ持っていないような特定の知識が必要な、独特な課題を突きつけると回答者たちは認めた。カナダのケベック州の年金基金によるセルシウスへの投資や、カナダのオンタリオ州教職員年金基金によるFTXへの投資に触れつつ、アメリカの年金基金の最高投資責任者は「理解できないものをデューデリジェンスすることはできない」と指摘した。

回答者の多くは、運用責任者は過度のプレッシャーにさらされているとして、次のように語ったある企業年金基金の最高投資責任者の意見に同意した。

「多くの取引がきわめて速いスピードで進み、電話がかかってきたら、すぐに決断しなければならない。我々としてはFOMO(機会を逃すことの恐怖)は投資理由にならない」

別の回答者は「FOMOがうまく機能するのは、追い風が吹いている時だけ」と述べた。

今回の非公式な調査は、機関投資家は暗号資産投資戦略について弱気だが、明らかにスケーラブルで、実行可能なビジネスモデルに支えられている場合、変革を生み出すテクノロジーとしての暗号資産には長期的に強気であることを明らかにした。これらのテクノロジーベースのチャンスを活かすためには、投資家たちの世界観を変える必要がある。そしてデューデリジェンスの改善が必要だ。

暗号資産エコシステムはこれまで、伝統的金融の慣習に縛られてきた。しかし、ギルドから業界へと転換するために必要な、機関投資家からの資本を集めるための信頼を獲得するためには、暗号資産エコシステムはその縛りを背負わなければならない。

アンジェロ・カルベロ(Angelo Calvello)博士:機関投資家向けの投資戦略構築、管理のために深層強化学習を活用する資産運用会社ロゼッタ・アナリティクス(Rosetta Analytics)の共同創業者。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Etienne Boulanger/Unsplash
|原文:‘It’s Time for Crypto to Put on Big Boy Pants’: 5 Ways TradFi Investors Are Rethinking Crypto in the Wake of FTX