伝統的金融が混乱するなか、ビットコインは安全な避難先として台頭【コラム】

伝統的金融(TradFi)で混乱が広まるなか、暗号資産(仮想通貨)のパフォーマンスは好調で、ビットコイン(BTC)も輝きを取り戻している。シルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が破綻し、クレディ・スイスの買収が決まるなか、暗号資産は安全な避難先となっているようだ。

3月8日、シリコンバレー銀行が危機に陥っているとの噂を受けて、暗号資産も混乱に巻き込まれた。ドル連動型ステーブルコインのUSDコイン(USDC)の準備資産のうち33億ドルがシリコンバレー銀行に預けられているとの発表を受けて、USDCはドルペッグを失った。

そこから、暗号資産投資家は主要取引所でポジションを売却。ビットコインは2万2410ドルから1万9500ドルへ下落。イーサリアム(ETH)は1560ドルから1368ドルへ下落し、200日間移動平均線を一時的に下回ってから回復した。

3月10日までには、2008年以降最大となるシリコンバレー銀行破綻のニュースが金融メディアを席巻。影響が広範に伝播することを恐れ、銀行株は大幅に下落した。S&P Regional Banking Index(KRE)は取引期間約5日間に28%下落し、まだ回復していない。

S&P地方銀行インデックス

3月12日、米連邦準備制度理事会(FRB)と米連邦預金保険公社(FDIC)は、さらなる銀行取り付け騒ぎを防ぎ、影響伝播の不安を鎮めるために、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の預金の全額保護を発表。この措置は大規模な破綻を阻止するには十分だったが、それでも預金者は何十億ドルもの預金の引き出しを続けた。

皮肉なことにこの混乱の大きな勝者はリスク資産。特にビットコインやイーサリアムなどの暗号資産だった。

M2マネーサプライと暗号資産価格

株式市場と暗号資産の相関関係は常に変化してきたが、暗号資産価格を予測するのに最も一貫した判断材料は、世界的なマネーサプライだった。今回の一連の銀行トラブルによって、中央銀行は紙幣を増刷して事態を収集するための新しい理由を手にした。

M2マネーサプライと暗号資産の時価総額のグラフ(下図)を見ると、流動性が暗号資産の需要にどのような影響を与えているかがわかる。11日以降の上昇が信用できるものなら、中央銀行は金融危機を回避するために紙幣を増刷しなければならないと暗号資産は告げている。

グローバルM2のトレンドからの偏差(白)と暗号資産の時価総額計昨年比%(青)
出典:Refinitiv Datastream

当然ながら「M2の増加 = ビットコイン上昇」という決定論的な見解を簡単に受け入れることはできない。FRBがインフレや高い失業率に対処しなければならないことは変わらない。3月10日に発表された雇用者数統計は予想を上回るもので、そのわずか4日後に発表された消費者物価指数ではインフレ率が0.5%上昇していた。

利上げ予測

これらの相反するデータは、FRBがインフレ上昇と銀行危機にどのように対処するのかという疑問を提起する。利上げはおそらく問題を悪化させるだけで、さらに多くの銀行破綻を引き起こすだろう。

3月6日以降の利上げ予測を見てみると、状況が急速に変化していることがわかる。

この先8回のFOMCにおける0.25%の利上げ予測
出典:Bloomberg World Interest Rate Probabiities

2023年も長期的な利上げ政策が続くと幅広く予想されていたが、事態は劇的に変化し、この先、最終的には方針転換となるかもしれない。現時点では、どんな政策も可能性がある。22日に発表されたFRBの予測は、中央銀行がいかに効果的にマクロ経済状況を舵取りしつつ、金融機関を守ることができるかを予測している米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの自信を測る格好の材料となる。

暗号資産はこうした混乱の中で着実に上昇し、今は多くの投資家から、次の金融危機に対する防波堤と見られている。だが暗号資産は、経済の下り坂から完全に逃れることができるだろうか?

銀行危機、インフレ、さらなる利上げが、多くの人が不可避と考えているハードランディングをもたらした場合、ビットコインは脱出カプセルとなるだろうか?

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Emerges as Safe Haven as Traditional Finance Faces Turmoil