米CoinDesk、異例の見解表明──アメリカは暗号資産を潰して良いのか

犬の散歩をしていると、70歳代のハリーによく会う。元ニューヨーク市警察の刑事で、近くの散歩道で野良猫に毎朝エサをあげている。私たちは動物を介して仲良くなったが、ハリーと話が合うのはそこだけ。彼はQアノンの陰謀論を信じており、アメリカには次の内戦が間近に迫っていると考えている。彼はその「シグナル」を待っている。

私はハリーの話に積極的に応えることもあれば、聞き役に徹することもある。彼が私の犬たちに挨拶する間に暗号資産(仮想通貨)について話すこともある。私は数日前、銀行危機や規制強化によって暗号資産には厳しい時期になっていると彼に話した。

ハリーは即座に反応した。「中央銀行や政府が法定通貨の競合となる存在を本当に許すと思っていたのか?」と。

私は彼の言葉に凍りついた。彼がまくしたてる陰謀論に反論することは、もはや難しいと感じていた。

暗号資産への総攻撃

このわずか数週間だけでも、アメリカの規制当局や行政府がFTXの破綻から広がる影響を受け、「何かしなければ」という当然の欲求から国内の暗号資産プロジェクトを(完全に無力化はできなくても)打ちのめそうとしていると考えることは、ますます簡単になっている。

陰謀論として、これは信じやすいものだろう。元規制当局関係者をはじめ、確立された立場にいる人でさえ、現状を組織的な攻撃と捉えている。

暗号資産に対する現政権の敵意は、公式声明の中でも明らかになっており、さらに規制強化という実際の行為も伴っている。長年にわたってガイダンスや規制の明確化を求めてきた業界の声を無視した末に、米政府は暗号資産のあらゆる部分に総攻撃を仕掛けているようだ。

総攻撃には、コインベース(Coinbase)やクラーケン(Kraken)のような認可済みの暗号資産企業に対する米証券取引委員会(SEC)による一連の執行措置も含まれる。さらに先週は米商品先物取引委員会(CFTC)がバイナンス(Binance)を提訴した。バイデン政権は先週、「大統領経済報告」を発表し、暗号資産は有益なテクノロジーではないと主張、近年発生した一連の暗号資産関連の詐欺事件を強調していた。

理想主義とシニシズム

それでも組織的な悪意があると私が信じない理由は2つある。1つは理想主義に、もう1つはシニシズム(あらゆる物事を冷笑的に捉える態度)に基づくものだ。

まず、ここはアメリカ、チャンスと自由の国だ。暗号資産が象徴する経済的自由に対する意図的な攻撃は、アメリカの価値観に反する。

次に、ここはアメリカ、インフラが崩壊しつつある国だ。指導者たちは橋や線路を修理するために必要な取り組みすら、協調してまとめることができない。現存するインフラを維持することよりも、未来の金融インフラを破壊することに協調できると考えることはあまりに気が重い。

協調の欠如という主張を後押しするのは、バイナンスの提訴においてCFTCが暗号資産のイーサリアム(ETH)はコモディティだと主張する一方、SECやニューヨーク州司法長官は証券だと言っていることだ。

しかし現在広がっている規制強化が、暗号資産に対する組織的な敵対行為かどうかは重要ではないかもしれない。ハリーだけでなく、その通りだと確信している人たちがいる。アメリカは暗号資産を目の敵にしているという考え方は広がっている。

だから企業の中には、海外移転を検討しているところもあれば、銀行口座を失う、あるいは開設できないかもしれないと心配しているところもある。銀行関係者たちは、自らも規制当局のターゲットになることを恐れて、暗号資産関連イベントへの登壇を断っているほどだ。

バイデン政権の方針が大きく変わらない限り、アメリカがアンチ暗号資産的だという考え方はもうすぐ、覆すことが困難なほどに定着してしまうだろう。米政府の対応のほとんどが建設的ではなく、懲罰的だった事実がその大きな要因となっている。

規制当局やホワイトハウスは、暗号資産はアメリカにおいて将来性があると明確にする必要がある。そのためには、業界が求めてきた規制の明確さを与える以上に良い方法はない。

より適切なフレームワークの青写真は、上院の「責任ある金融改革法(Responsible Financial Innovation Act)」などで提案されている。暗号資産業界のほとんどが、そのような規制の明確さを歓迎するだろう。だが、規制当局や多くの政治家たちは、そうした明確さをもたらすことに乗り気ではないようだ。

存続の危機

CoinDeskは、特定の問題について公式の立場を取ることはほとんどない。過去に述べたとおり、特定の話題について公式見解を示すのではなく、報道の幅広さとバランスを大切にしている。

だがここで組織としての共通見解を示すことにしたのは、今回は自分たちの立場を明確にすべきと考えたからだ。編集責任者たちは、アメリカ政府の行為によって暗号資産が直面している脅威は、それが意図的か否かにかかわらず、潜在的に善であり、経済的エンパワーメントを実現するテクノロジーと業界を代表して態度を明確にする必要があるほど、存続を左右するものだと考えている。

政府による暗号資産への攻撃は、アメリカ国民を詐欺や不正行為から守るという目標を達成することはないだろうと私たちは考えている。

規制強化に対する初期の反応を見ると、イノベーションをアメリカ国外に押しやってしまう可能性がきわめて高い。そうなると、きわめて精通した内部関係者以外には、完全に不正な行為と、イノベーションを目指す確かな取り組みとが区別は難しいものになってしまう。

規制強化は現行の法律における当局の権限を超えたものであり、アメリカと暗号資産の世界を支える自由とイノベーションの精神に反しているサインに私たちは危機感を感じている。

Operation Coke Point 2.0

規制当局は、暗号資産企業が従来の銀行サービスにアクセスできないようにしているようだ。2008年の金融危機を受けた、厳格な銀行規制の立役者であるバーニー・フランク(Barney Frank)元議員は「規制当局がきわめて強力なアンチ暗号資産のメッセージを送ることを望んだため」、自らが取締役を務めたシグネチャー銀行はニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)によって清算に追い込まれたと主張した。NYDFSはそれを否定している。

しかしこの主張は、当局の最近の動きにも裏付けられているようだ。

ロイターは3月16日、米連邦預金保険公社(FDIC)はシグネチャー銀行の売却に関して、暗号資産事業の放棄を条件にしていると伝えた。FDICはこの報道を否定したが、売却が実施されると、実際に暗号資産関連の顧客は買収対象から除外された。

このようなやり方を、オバマ大統領時代に銃メーカーや給料担保金融業者などの“合法だが政治的に望ましくない企業”が銀行と取引できないよう圧力をかけた政策「Operation Coke Point」になぞらえ、「Operation Coke Point 2.0」と呼ぶ人たちもいる。こうした措置は、デュープロセスを回避するだけでなく、立法府からも法律システムからも厳しく咎められた過去の政権の過ちを繰り返すものだ。

驚くことに、現在のFDIC議長マーティン・グルーンバーグ(Martin Greunberg)氏は、元祖「Operation Coke Point」の立役者だ。

Operation Coke Pointは最終的に、数々の訴訟と公聴会に直面し、政府が権力を濫用したことでおおむね決着した。さまざまな訴訟を和解させるためにFDICは、顧客の選択について銀行に暗黙に口出しする慣行を終わらせるなど、合法企業に対する規制当局のやり過ぎを防ぐための内部改革を約束した。その約束がどれほど誠実なものだったのか、今となっては疑わしい。

CoinDeskは、最近の一連の出来事の裏側にある真のストーリーを明らかにし、暗号資産業界を苦しめるための組織的な取り組みだったのかどうかを見極めようと力を尽くしている。しかし、全貌が明らかになる前だとしても、政府権力の濫用が見られることは、警鐘を鳴らすには十分な理由だ。

無差別の大虐殺

暗黙のアンチ暗号資産の計略があるように思われることは、暗号資産の世界を餌食とした一部の詐欺師たちに対する法的措置とは区別されなくてはならない。

これまでの多くの先駆的テクノロジーと同様、暗号資産も詐欺師たちにとってきわめて魅力的なことは、私たちも十分承知している。ド・クォン氏やサム・バンクマン-フリード氏などの犯罪者たちが告訴され、おそらく投獄されることには拍手を送りたい。

CoinDeskでは、詐欺を止めることに積極的に取り組んでいる。CoinDeskの受賞歴のあるジャーナリストたちは、FTXの大規模な詐欺を暴くことに大きな役割を果たした。さらに私たちは、暗号資産レンディングを手がけるセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やクォン氏のテラが崩壊する以前から投資家に警戒を呼びかけてきた。

しかし、暗号資産開発者たちにツールを与えないことや、暗号資産サービス提供者にアメリカの銀行で米ドルを管理する能力を与えないことは、詐欺対策ではない。無差別の大虐殺を引き起こす爆弾のようなものだ。

規制に則った暗号資産発行のための明確なフレームワークを確立しないことも、消費者や警察が詐欺を防ぐことをより困難にする。最高に高潔な暗号資産プロジェクトが合法性を保つ手段をなくしてしまうからだ。

連鎖的なリスク

暗号資産を抑圧しようとするかのような取り組みは、大きな連鎖的効果も生んでいる。銀行関係者たちは規制当局との衝突を恐れ、暗号資産について公の場で語ったり、討論会に参加することに消極的になっている。中央銀行関係者に公の場で発言してもらうことなど不可能に近い。

その結果、業界の未来について語ることは、本当の真実と真のイノベーションが生まれる源ではなく、暗号資産支持の声を繰り返すだけになってしまうリスクがある。

さらに、暗号資産が政治化されるリスクもある。暗号資産コミュニティは多くの場合、党派政治を遠ざけ、自由と個人の自主性という精神を堅持することを好んできた。

実際、建設的で党派を超えた暗号資産法案がおおむね当たり前になっていた。共和党のシンシア・ルミス上院議員と民主党のカーステン・ギリブランド上院議員による包括的な法案がその顕著な例だ。しかし、政権がアンチ暗号資産的だという見方がオープンな協調を破壊しようとしている。暗号資産についての個人の意見はいずれ、支持政党によって左右されるようになるかもしれない。そんな状況には勝者はいない。

暗号資産には、抑圧や暴力に苦しむ世界中の人たちに金融サービスを提供する代替オプションとなるなど、実世界での実用性やメリットが確かにある。例えば、ロシアの侵攻後、ウクライナに即座に1億ドルの寄付を届けることを可能にしたのは暗号資産だ。より公式な政府のルートよりも、スピーディーに寄付を届けることができた。

さらに暗号資産は、大量のデータを使い、監視と検閲を主なビジネスとしてしまった企業の手にデジタルの世界の権力が危険な形で集中することに抵抗するためのツールをサポートする中核的な存在にもなっている。心配になるような監視資本主義の台頭は、現在、銀行規制当局が自らの権力を侵害しているように感じている議員の多くにとって明らかな懸念事項だ。

IT株と同じように、暗号資産の取引の大半を投機が動かしているが、その価格は同時に、現在のユーザーからのリアルな需要によっても動かされている。ビットコインネットワークでは毎日、何十億ドルもの価値が世界中を巡っている。

アメリカ的ではない

ビットコイン(BTC)や他の多くの暗号資産は、包括的で無差別な規制強化を機能的には無傷でサバイブするだろう。それこそが暗号資産のすべてだ。暗号資産システムは、デジタル時代に政府や企業の仕組みから独立して、個人の運命を個人がコントロールできるようにすることを目的に生み出された。

つまり暗号資産は、アメリカの精神の根本にある政府の力の抑制という原則を試すものだ。合衆国憲法で保障されている信教の自由、言論の自由などの権利は、世界中に自由を広めるための青写真。何百万人もの人たちの繁栄、幸福、富の拡大を手助けしてきた。

そうした権利が守られることは、今のアメリカ人の多くにとっては当然のように思われる。だが、かつては権力者によって、危険で不安定をもたらすものと考えられていた。今でも、アメリカにおいてさえ、権威主義者たちは昔の慣習を取り戻し、検閲と制限による安全という幻想を追い求めている。

そうした現実を考慮すれば、言論の自由や信教の自由と同じように、経済的自主性が民主的な社会において当たり前に守られるようになることは、何年もかかる壮大なプロジェクトになることは明らかだ。ではなくて、政府が本当にその進歩を妨げようとしているなら、その目的を公に宣言し、透明性の高い、民主的な手段で行うべきだろう。

陰謀論を信じる散歩仲間のハリーが間違っていて、バイデン政権が暗号資産を潰そうとはしていないことを願っている。もし、そうだとしたらホワイトハウスはその積極的な意図を明確に示す必要がある。

例えば、暗号資産に関する明白なガイドライン設置をSECに義務付ける党派を超えた取り組みを支持すべきだ。暗号資産に対する政府の強引な措置に対してシニシズムが噴出して広まっていることを考えると、それ以外に、アメリカから安全を求めて脱出する必要はないと暗号資産業界を説得する方法はないだろう。

ハリーが間違っていると、証明して欲しい。

ケビン・レイノルズ(Kevin Raynolds):米CoinDesk編集長

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:CoinDesk Editorial: It Sure Looks Like the U.S. Is Trying to Kill Crypto