自民党「web3ホワイトペーパー」の狙いは?── PT事務局長・塩崎彰久氏インタビュー

自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチームが4月6日、「web3ホワイトペーパー〜誰もがデジタル資産を利活用する時代へ〜」を公開した。PTとしては昨年3月の「NFTホワイトペーパー」、12月の「中間提言」に続く提言で、6月に骨太方針2023がまとまるというタイミングを踏まえた発信。

coindeskJAPANは、公開に先駆けてweb3プロジェクトチームの事務局長を務める塩崎彰久議員にインタビューを行い、ホワイトペーパーの狙いとその背景にある思いを聞いた。

「JAPAN IS BACK」「疾風に勁草を知る」に込めた意味

今回のweb3ホワイトペーパーでは、「JAPAN IS BACK, AGAIN」というキーワードを掲げた。これは昨年、(デジタル部会の)NFTPTで議論をしていたときに、若手web3起業家から「かつて日本はweb3の中心になりかけていたのに、あれよあれよという間に転げ落ちて見向きもされなくなってしまった」と危機感を伝えられたことが出発点になっている。

しかし、そこからクリプト・ウインター(暗号資産の冬)がやってきて、トークンや暗号資産取引所FTXが破綻したりするなかで「結局、日本の規制は正しかったのではないか?」という話も出てきた。日本の起業家はそこまでダメージを被らなかった。海外で兵糧・弾薬が尽きかけているときに、日本はまだちゃんとやれる体力が残っている。

そのうえ、日本ではこれまで未参入だった大手プレイヤーも、このタイミングで参入し始めている。NTTドコモが6000億円を投入したり、大手金融機関がステーブルコインを始めたり、JRがNFTを発行したりといった動きがある。地方自治体の中にもNFTを発行するケースが増えてきた。従来の「クリプト村」にいなかった人たちも入ってきていることで、これまでとは違うトレンドを感じている。

ホワイトペーパーにある「疾風に勁草を知る」という言葉には、強い風が吹いた時にも地に根を張ってテクノロジーの本質を捉えたビジネスは生き残って、将来大きく花を咲かしていく、という意味が込められている。

これまで暗号資産業界を牽引してきたのはアーリーアダプターの人たちだったが、これからはマスアダプション(多くの人への普及)に移っていく時代だ。誰もがウォレットやデジタル資産を当たり前のように保有し、ビットコインやNFT、セキュリティトークンは特別な存在ではなく「当たり前」になっていく。そんな世界が目の前に実現しはじめている。

これからは「規制が緩いから何でもできる」とか、「税金が安いから儲けられる」といった点よりも、「明確なルールの存在する成熟したマーケットであること」のほうが、より魅力的になっていくだろう。

今回のweb3ホワイトペーパーは、そういった俯瞰のもとに作成した。一年前と今とは、明らかに時代のページが変わった。「クリプト・ウインターが終わった時、最初に春を迎えるのは日本かもしれない」。そんなメッセージを日本の起業家のみなさんに送りたい。

多岐にわたる提案内容

中身は多岐にわたっているが、短期的な点について説明すると、まずは国際的なルール策定について。

大きな流れとしては、海外は規制強化に向かっている。もちろん適切な規制は必要だ。しかし、なかには「暗号資産はけしからんから潰してしまえ」というスタンスの人もいて、そういう議論に流されないようにしなければならない。

今は日本が優位を発揮できるせっかくのチャンスでもある。われわれは将来性を見据え、技術中立的に、責任あるイノベーションを主導する立場を明確にすべきだという提言をしている。

税制改正についても、複数の提言を行っている。最大のポイントは昨年の税制改正で残った「他社発行の保有トークンについての課税問題」だ。自社発行トークンは期末時価評価課税の対象から除外するという方針が示されたが、他社トークンについてはまだ残っている。ここは「今年、確実に実現すべき」だと踏み込んで提言している。

DAOについては、「機動的なDAO設立・運営に適した法人・組合形態がない」という問題がある。ここも早急な法制化を目指し、議員立法も検討すべきだとしている。提言では、合同会社をベースにLLC型のDAO特別法を制定し、会社法上の規定や金融商品取引法上の規定を一部変更して適用する案を掲げている。実現すれば世界初ではないか。

トークン審査については、具体化・可視化を進めるべきだと提言した。トークン審査時の留保条件の開示にも課題があり、JVCEAがトークンのリスクを把握していたとしても、その情報が非開示のままだと結局、消費者保護につながらない。

セキュリティトークンについては、セカンダリーマーケットが整っておらず、取引があまり行われていないという問題がある。そこで、PTS(私設取引システム)での円滑な取引に向け、日本証券業協会やSTO協会が自主規制ルールの策定などの取り組みを進めるべきだと提言している。

偽の「無許諾NFT問題」についても提言をしている。これは日本のコンテンツに対する権利侵害を防ぎ、消費者保護にもつながるテーマだ。経済産業省が要請すると、きちんと削除対応をする海外プラットフォームもあるという。提言ではそうした働きかけや、業界団体によるコンテンツ権利情報の記録を引き続き推奨していくべきだ。

金融機関については、ビッグプレイヤーのweb3参入が進んでいる。しかし、銀行や保険会社がweb3領域に参入する場合、法令上の付随業務への該当制や高度化など、会社の認可審査について、説明が必要な範囲が不明確という課題がある。提言では審査の迅速化や指針の具体化とタイムリーな公表を継続的に行っていくべきだ。

NFTビジネスについては、多くの提言をしている。ポイントのひとつは「NFTを使ったファンタジースポーツが賭博に該当するのか」という問題だ。ここはガイドラインをしっかり作って、どこまでが良くて、どこまでがダメなのかの線引をきちんとするべきだ。

投資ビークル・スキームの多様化についても触れた。投資事業有限責任組合(LPS)が、暗号資産・トークンを取得・保有することになる事業に投資できないという問題を解決するため、経産省や金融庁が実態調査を行い、暗合資産交換業該当性の整理をするべきだ。

中期的な論点

もう少し遠くを見据えた「中距離」の論点は、発展を見据え、議論を開始・深化すべきものだ。

たとえば、デジタル資産の私法上の取り扱いには不明確な部分があり、権利移転や対抗要件などの点で問題が指摘されている。こうしたポイントについては、国際的な動向をフォローして、課題整理をすべきだと提言した。

ほかにも、web3を活用したコンテンツが海外展開できるようにするための業界支援、多様化するweb3事業へのライセンスの整理、消費者保護、ウォレット、マネーロンダリング・テロ対策、自治体支援や投資DAOルールなども取り上げている。

昨年のNFTホワイトペーパーで取り上げた施策の進捗についても触れている。これは、言いっぱなしで終わらせず、ずっと注目しているというメッセージを示す意味がある。今回のweb3ホワイトペーパーについても、定期的に進捗を確認していく方針だ。

このように、政策としては大きいものから小さいものまで多岐にわたるため、バラバラに見ていると全体像が把握しにくいかもしれない。しかし、全体としてのナラティブは「日本には非常に強い追い風が吹いている」という点だ。

暗号資産をめぐる状況は目まぐるしく変わっているため、この追い風がいつまで吹いているかはわからない。それでも、いまはマスアダプションに向けて勝負するタイミングだろう。そういったメッセージを、さまざまな提言の背景にある、通奏低音として感じていただきたい。

舞台裏にあった変革

web3PTは昨年10月以降、すでに18回の会合を開いている。毎週開催していることもあり、メンバーには政治家として、他の誰よりもこの分野の話を多く聞いているという自負がある。

NFTPTのときに始めた、「新しい政策づくりのプロセス」も効果を発揮している。これは政治家・官僚・専門家でチームを組んで、専門家や官僚にもすべての会合に参加してもらい、議論を深めて、政策提言を書くところまで持っていくという仕組みだ。

従来なら、政治家が聞いた話を「官僚がペーパー化」し、その文言を微修正して提言にまとめるということが多かったと思う。もちろんそれでうまくいくこともあるが、変化が早くさまざまな分野で展開するweb3の世界では事情が異なる。

議論を始める当初は、役所にも十分に知見があるとは言えず、担当省庁も多岐にわたるケースが多いからだ。そういった分野では、政治が強いイニシアチブを取らないと議論が進んでいかない。

そこで我々は、まず政治家(国会議員)と専門家(弁護士)で文案を作り、それを役所にぶつけるという方式にしている。事実誤認の有無や実現可能性など、役所とも幅広く喧々諤々の議論をしたうえで、最後に文章をまとめるという形だ。文案にまとまるまでに、より多くの人の力が得られるスタイルになっている。

この方式を採用できたのは、平座長(平将明衆議院議員・自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム座長)が大きな方向性を示したうえで、細かな運用方法は任せるという方向でリーダーシップを発揮してくれているからだ。

専門家として協力してくれている弁護士8人の存在も大きい。彼らは政策提言を書くという、普段とは一味違う仕事にも積極的に取り組んでくれている。

弁護士としてビジネスの現場から法律相談を受けるなかで、「このルールはおかしいのではないか」と疑問を感じたり、「こうした方がいいのではないか」といったアイデアを日々蓄えている。今回の提言にスピード感があるとすれば、それは専門家の協力をいただいて、どの本にも書いていないような最先端実務の法的論点までを反映できているからだろう。良い政策を作るには、最先端実務から得られる専門家の知見と、政治家が持つ大局観を組み合わせることが必要だと思う。

国会議員のPTメンバーも、金融や技術などの専門的知見があり、新しいことへのチャレンジをいとわないメンバーが揃っている。VRやメタバースが話題になればウェアラブルゴーグルを使ってみようとか、NFTが話題になればウォレットを作ってみようといった体験を積極的に行っている。

私も「メタマスク」や「オープンシー」を使ってNFTを取引し、ツイッターアイコンをNFTにしてみた。偽アカウントにひっかかって、イーサリアム(ETH)を失ってしまうという痛い経験もしたが、よい政策提言を書くにはそういった体験も重要だと考えている。実際に挑戦してみないとわからないことも多いからだ。

「マスアダプション」のタイミング

個人的に、日本はリスクを取ってでもイノベーションを進めていくべきだ、という思いが強い。私は1999〜2000年にスタンフォードに留学し、そこでインターネットが世界を変えていく最前線の波に触れた。イノベーションの力をどうやって社会に取り込んでいくのかは、これからの政治の大きなテーマだろう。

デジタル資産は、いまあるインフラとも組み合わさっていくなかで、今後一気に浸透していく可能性がある。ビッグプレイヤーの参入も意味が大きく、一見動きが遅いようにみえても、それは非常にスケールが大きな構想を仕掛けている、というケースも少なくない。

ホワイトペーパーや提言などで情報発信を続けていると、最先端の情報も我々のもとに集まってくるようになった。今後はデジタル資産の使い勝手を良くするソリューションがたくさん登場してくるだろう。マスアダプションが起きるのは「意外に」早いかもしれない。

|インタビュー・テキスト:渡辺一樹
|編集:coindesk JAPAN編集部
|写真:小此木愛里