FTX破綻が招いた、世界最悪の暗号資産政策【コラム】

ワシントンDCでの政策決定について考えるときは、他のあらゆる組織と同じように、政府も人間で構成されていることを覚えておくことが重要だ。人間はしばしば、感情が合理的な意思決定の能力を弱めてしまう複雑な生き物だ。

私は少し前から暗号資産業界に対する規制当局からの執行措置の集中砲火を受けて、アメリカで暗号資産政策を政治問題化する危険な兆候があると懸念してきた。懸念は変わらないが、米政界との人脈が豊富な2人の人物のおかげで今では、その懸念はもう少し繊細なものになっている。2人は感情、特に怒りと困惑が暗号資産業界に対する取り締まりの大きな要因となったことを説明してくれた。

米国憲法のような民主的な仕組みに織り込まれているにせよ、オープンソースソフトウェアのコミュニティが使うコンセンサスメカニズムに組み込まれているにせよ、明確かつ神聖なガバナンスルールの大切さを思い出させてくれた。

懲罰による規制

この5カ月間の「サム・バンクマン-フリード氏のせい」と感じられたさまざまな出来事のなかで最も象徴的なものは、懲罰的な規制だ。クラーケン、コインベース、パクソス、バイナンスなどに対する取り締まりは、FTXの創業者バンクマン-フリード氏を罰したいという欲求が大きな要因となっている。FTXが昨年11月、驚くほど急速に破綻したことは暗号資産業界を激震させた。

前述の情報筋の1人は、バイデン政権関係者や民主党と共和党の双方の政治家の考え方を次のように説明してくれた。「彼らの家に上がり込んで、多額のお金をちらつかせて、彼らに恥をかかせておきながら、大きな報いを受けずに済むと思ったら大間違いだ」と。

これはFTXが破綻する以前に主に民主党員だが一部の共和党員も含めた政治家たちが、FTXから合計7400万ドル(約98億円、1ドル133円換算)を超える寄付を受け取り、バンクマン-フリード氏との関係を築いた事実を指摘したものだ。

暗号資産業界関係者で、バンクマン-フリード氏の数々の不正を軽視する人はおらず、ほとんどの人が規制の厳格化を望んでいる。しかし実際には残念ながら、バンクマン-フリード氏のせいで明確な規制の枠組みを整備するチャンスは遠ざかり、米証券取引委員会(SEC)などの規制当局が思うがままに取り締まりを続けている。何よりもイライラさせられることは、執行措置が気まぐれで、違反とされた行為に対してあまりに不釣り合いなことだ。

執行措置による規制といった話ではない。「懲罰による規制」という狂気に満ちた新しい時代に突入したようだ。

暗号資産業界に関わる何百万人もの投資家、従業員、開発者たちが、自分たちの知らない、ましては認めたわけでもない数人の詐欺師の罪の報いを受けているという事実どころではない。

アメリカ脱出

最も大きな問題は、ブロックチェーン開発者がある国を他の国よりも好む物理的・地理的な理由がほとんどないため、アメリカは今、この本質的にボーダーレスなテクノロジーの方向性を形成する能力をすべて失おうとしていることだ。暗号資産業界に対して、アメリカほど敵対的な姿勢を示している先進国は他にない。

AI(人工知能)の時代の今、かつてなく重要になっている暗号資産とブロックチェーンのイノベーションが、よりフレンドリーな国を求めてアメリカを離れようとしているとの見方が広まっている。無法国家にいる悪者からこのようなテクノロジーを遠ざけることをアメリカが望んでいたなら、特に敵対的政策は逆効果以外のなにものでもない。

だが、この復讐心に燃えたような状況は、感情に突き動かされた過剰反応の多くと同じように必ず落ち着くはずだ。怒りは間違いなく、政策に対するより成熟したアプローチに取って代わられる。とはいえ、暗号資産投資、起業家精神、イノベーションをアメリカが惹きつける可能性にすでに与えられたダメージは深刻だろう。アメリカのあらゆる業界のリーダーたちは、暗号資産ビジネスのアメリカからの脱出について警告している。

現在の状況が「暗号資産に対する戦争」であろうと、単なる意図的な攻撃に過ぎないものであろうと、暗号資産ビジネスの関係者は一連の刑事告訴や民事告訴について、どのような活動が合法なのか違法なのかの明確な法的指針がない状態では、アメリカで事業を継続することはリスクが高すぎるというメッセージだと捉えている。

メッセージは2つの意味で大きな痛手だった。規制措置があまりに順序立っていた、偶然には思えなかったこと。さらにホワイトハウスも暗号資産業界を厳しく批判するレポートを発表したことだ。1年前に発表された大統領令を覆すようなものだった。

さらに民主党の進歩派のリーダー的存在であるエリザベス・ウォーレン上院議員が「Anti-crypto Army(アンチ暗号資産軍団)」を結集する政治キャンペーンを開始したことも事態に拍車をかけた。

誰が統治者を統治するのか?

このような悪質だったり、滑稽だったりする人間の欠点から、フランスの哲学者モンテギューは「三権分立」の考え方を生み出した。リーダーたちの間違いや腐敗から社会を守るための統治原則だ。この考え方は米国憲法に記されている。

さらには、ビットコインのホワイトペーパーで確立されたブロックチェーンのアイデアにもつながっている。マネー、資産、情報を管理するために「信頼できる第三者」に依存しないシステムが必要というアイデアだ。仲介者や代表者を信頼しなければならないことは、システムがプログラムではなく、人間によって運営されるという問題に常にさらされることになるからだ。

国家をデジタル「ネットワーク国家」に置き換えるという過激な主張をしているわけではない。だがこうした新しいテクノロジーが人々に分散型の代替経済システムへの脱出という選択肢を与え、間接的に政治家に能力を高めるよう圧力をかけることになると考えることは興味深い。

「暗号資産に対する戦争」によって、アメリカとその市場民主主義モデルが経済的・技術的リーダーシップを失うリスクがかつてないほど高まっていることは心配だ。しかし少なくとも、テクノロジー自体は、最悪の結果を回避するために政治システムに自己修正力をもたらす可能性があることを心強く思うことができる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:AIが生成したサム・バンクマン-フリード氏の画像(DALL-E/CoinDesk)
|原文:Thanks Sam! How FTX Led to World’s Worst Crypto Policy