米議員の「アンチ暗号資産軍団」は暗号資産の政治化の始まり【コラム】

アメリカは中間選挙の年を迎え、選挙キャンペーンで暗号資産(仮想通貨)が焦点となるのも時間の問題だろう。

共和党の大統領候補として有力視されるフロリダ州知事のロン・デサンティス氏は3月20日、連邦政府が管理する中央銀行デジタル通貨(CBDC)のフロリダ州内での使用を禁止する法案を発表した。

その直後、共和党のテッド・クルーズ上院議員も2人の共和党議員と共同で、連邦政府によって金融監視ツールとして使えるような、消費者が直接利用するタイプのCBDCを米連邦準備制度理事会(FRB)が開発することを禁止する法案を提出した。

民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は、選挙キャンペーンのアカウントから「Anti-crypto Army(アンチ暗号資産軍団)」を結成するとツイートしている。

暗号資産は政治的なものではないと考えていたとしたら、それは打ち砕かれた。暗号資産は政治色を帯びている。

政争の具に

デサンティス知事は、法案は「バイデン政権によるCBDCを通じた金融セクターの武器化からフロリダ市民」を守るためのものだと発表し、暗号資産を政党間の争いとした。「中央集権化された銀行デジタル通貨は、監視とコントロールのためのものだ」とデサンティス知事は主張する。

クルーズ議員は政党間の争いとする代わりに、金融プライバシーの重要性と、国家保障の問題としての米ドルの国際的優位に関するものとした。これはウォーレン議員のアンチ暗号資産的立場の中核でもあり、興味深い。ウォーレン議員の取り組みには、新しいアンチマネーロンダリング法案や制裁回避の取り締まりなどが含まれている。

だからこそ民主党のウォーレン議員のアンチ暗号資産軍団は効果的に思える。共和党議員も仲間に加わっていることで、ウォーレン議員のアンチ暗号資産キャンペーンは左寄りのキャンペーンではなく、「アメリカのため」を謳ったキャンペーンの様相を呈している。

このようなキャンペーンならウォーレン議員はおそらく、さらに多くの共和党議員を仲間にできるだろう。マネーロンダリングを防ぐための手段とされており、マネーロンダリングを支持しているように見られることは議員としては避けたいはずだ。

CBDCとプライバシー

暗号資産の政治化がとりわけ興味深いのは、CBDCと、現在の銀行危機を背景としたビットコイン(BTC)に関してだ。

ウォーレン議員はCBDCには賛成しており、昨年にはテレビのインタビューで次のように答えている。

「ビットコインの代わりに、まったく違うタイプのデジタル通貨について議論することができる。政府が認め、電子的に価値の移動が可能で、(中略)その価値を裏付けるものがあるようなデジタル通貨だ」

さらに、「デジタルの世界で改善することもできるのでは?と聞かれれば、その答えはYESだが、それならCBDCを試してみよう」と続けた。

共和党 vs 民主党

歴史が参考になるとするなら、CBDCが今年の選挙戦で政治的議論に含まれることになれば、共和党 vs 民主党の問題となるだろう。保守派はすでに、アンチCBDCの立場を明確にし始めている。

CBDCの導入によって、政府が法律に従う普通のアメリカ人を監視・検閲することが可能になるからだ。

リベラル派は親CBDCとなるだろう。民間の暗号資産はマネーロンダリングを可能にし、CBDCのように、政府が保証する救済は確保されないからだ。

もちろんCBDCをめぐる議論は、党派を超えたものとなるべきだ。CBDCが金融取引の無制限な監視を可能とするなら、すべてのアメリカ人にとって、それを防ぐことが優先事項となるべきだ。プライバシーはきわめて重要なものなのだから。

ビットコインと暗号資産の問題

銀行業界が現在抱える問題を背景にビットコインと暗号資産に関しては、別の論争が生まれている。だがCBDCほど明確にはなっていない。銀行が破綻するなか、ビットコインは現行のシステムから脱出するための手段として台頭している。FRBの経済舵取りの失敗が、このトレンドに拍車をかけている。

共和党のクルーズ議員はビットコイン好きで、左派はビットコインを嫌悪すると考えている。リベラルな政府によってコントロールできないからだ。しかしビットコインが銀行システムや米ドルシステムから自由になるための手段だとすれば、それは反アメリカ的と捉えることもできる。これは厄介な問題だ。

実際には、選挙キャンペーンで政治家たちに寄せられる暗号資産に関する質問は「何に使うのか?」になるだろう。

そして、民主党議員がCBDC、あるいは何らかの政府公認デジタル通貨について口にした途端に、共和党議員は普通のアメリカ人を監視しようとしているとして反アメリカ的だと呼ぶだろう。

一方、共和党議員がビットコインに好意的な発言をすれば、米ドルの覇権、優位、存在を脅かすとして、民主党議員は非アメリカ的だと批判するだろう。

おそらく実際には、それほど明確な話にはならないだろうが、まもなく選挙シーズンがやって来ることは間違いない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:「アンチ暗号資産軍団」結集を誓った民主党のウォーレン議員(Council Bluffs Town Hall 10/Wikimedia Commons)
|原文:Sen. Warren’s ‘Anti-Crypto Army’ Is Just the Beginning of Crypto’s Politicization