Web3の次のトレンドは「Consensus」のステージ上にはない【コラム】

4月末に開催された「Consensus by CoinDesk 2023」で、ヤット・シウ(Yat Siu)氏はメインステージでのパネルディスカッションが迫っても、ステージ裏に姿を表さなかった。

もう1人のパネリスト、マヤ・セハヴィ(Maya Zehavi)氏とモデレーターを務めた私はステージ裏でマイクを装着してもらいつつ、スタッフが刻一刻と不安になっていく姿を見守っていた。

NFTやメタバースなど、Web3関連への積極的な投資で知られるアニモカブランズ(Animoca Brands)の共同創業者兼会長で、メタバース界の重鎮であるシウ氏となんとか話をしようと、大勢の人が押し寄せ、シウ氏は動きが取れなくなっていた。

感慨深い体験

やっとのことでシウ氏を見つけたスタッフの1人が状況を連絡してきた時、私はすごいことだと感慨深く感じていた。ほんの3年前には、Web3もNFTも重要視されていなかったからだ。

ブロックチェーンゲームは流行しておらず、シウ氏がファンに囲まれることはなかった。シウ氏のように、早い段階からWeb3の可能性を信じていた人たちは大規模なカンファレンスの隅の方で、自分たちだけで集まっていた。

私がそうした状況を知っているのは、私自身もWeb3が大きな注目を集める以前から関わっていたからだ。CoinDeskでアクシー・インフィニティ(Axie Infinity)の記事を初めて書いたのは2020年8月。多くの人は早いと考えるだろう。実際、デイリーユーザーが500人に満たなかったことを思えば、早かった。1年後、ユーザー数はピークに達し、約300万人を記録した。

しかし私に言わせれば、遅かった。今思えば、Web3は2018年には形になり始めていた。この年、アクシー・インフィニティがスタート、アニモカブランズがダッパーラボ(DapperLabs)やオープンシー(OpenSea)など、その後にWeb3大手となっていくプロジェクトにシード投資を行い、ブロックチェーン・ゲーム・アライアンス(Blockchain Game Alliance:BGA)が結成された。

これらは特筆すべきことだ。ブロックチェーン業界は当時、ブロックチェーンゲームを確かなユースケースというよりは、矛盾したブロックチェーンの活用例と考えていた。2021年3月、BeepleのNFT「Everydays」が6930万ドル(約94億円、1ドル135円換算)で取引されるなど、確かな裏付けが得られてようやく、NFTは誰もが知る用語になった。

カンファレンスは遅すぎる

そして2023年になった今、これからはWeb3の時代だと、私はかつてないほど確信している。Consensus 2023で、メタバースとゲームに特化したセッションを揃えたCoinDeskの決断も私が強気でいる大きな理由の1つだ。Consesusは、暗号資産業界の現状を1年に一度確認する権威あるイベントであり、この業界の伝説となっている人物や、ときにはカオスな状況を垣間見せてくれる。

メタバースとゲームについては、長い時間をかけて作られてきたものに正当性が与えられたといえる。だが同時に、そのことがイベントやカンファレンスは遅れた指標であることを思い起こさせる。メインストリームになる前に次のトレンドを見極めようとしている者として、ステージに登場するプロジェクトはすでにレイトステージにあると考えるようにしている。

批判的になるのは簡単だ。しかし、それも実際にカンファレンスのプログラムづくりを任されるまでの話。私は今年、Consensus 2023のメタバースとゲームのステージのプログラムづくりを担当した。このような大規模イベントは大勢の人を集める必要があり、かなりの魅力や相当のユーザーがいなければ、まだうまく行かないかもしれない初期段階のユースケースに貴重な時間を割くことがどれほどリスキーなことかは理解できる。

私は3日間のプログラムを準備するにあたって、スカイ・メイビス(Sky Mavis)のジェフリー・ザーリン(Jeffrey Zirlin)氏、ザ・サンドボックス(The Sandbox)のセバスチャン・ボーゲット(Sebastien Borget)氏、ユガラボ(Yuga Labs)のスペンサー・タッカー(Spencer Tucker)氏、そしてもちろんシウ氏といった業界の大物をラインナップしつつ、ここ数年で私が出会った、まだあまり知られていないが大物たちと同じくらい影響力が強く、刺激的な人たちやプロジェクトも紹介することを目指した。

小さなうねりに耳を澄ませる

例えば、Cloudwhite。アクシー・インフィニティのメタバース「Lunacia」で2番目に多くのバーチャル不動産を保有している。同社はデジタル所有権や検証可能な希少性の価値を、アタリ(Atari)、ワーナーミュージック、グッチのような有名ブランドがトレンドに乗るはるか以前から認識していた。高学歴だったわけでも、多額の資金を持っていたからでもない。子供の頃に熱心なコレクターとして、ポケモンカードを集めたり、Beanie Babiesを売ったりしていたからだ。

以前は「Twobabour」という名前で知られていたアナンド・ヴェンカテーシュワラン(Anand Venkateswaran)氏にも登壇してもらった。2021年3月に6930万ドルで取引されたBeepleのNFTの買い手のうちの1人として知られるTwobadourだが、それに先立つ2019年にあるNFTを10万ドル(約1350万円)で購入したことはあまり知られていない。

現在のNFT価格を考えると、10万ドルは大したことがないように思えるかもしれないが、当時、市場はまだ未成熟だったことを考えると、ほぼ誰も注目していないなか、強い信念が必要なクレイジーな行動だったと思う。

こうした人物が早い時期に発揮した大胆さは、雑談のネタにピッタリだが、ニュースになる前にトレンドをキャッチしようとしているなら、昔を振り返っているだけでは意味はない。

当記事で紹介した人は皆、今年がConsensus初登場。つまり、大物への第一歩を踏み出したのは何年も前だ。だからこそ多くの人がステージに登壇しなかったConsensus 2023の参加者に耳を傾けていたことを願う。

コーヒー待ちの列で熱心に売り込みをしていた人物、パーティーで大風呂敷を広げていた人物が、次のシウ氏、Cloudwhite、Twobadourになる可能性は大いにある。ステージ上で注目を集める人たちを無視することは確かに難しいが、大舞台の下の動きにも耳を傾けるべきだ。「暗号資産の冬」の間に聞こえていた小さなささやきが、次の強気相場には轟音を立てているかもしれない。

リア・キャロン-バトラー(Leah Callon-Butler)氏:Web3とオープンメタバースに特化した投資コンサルティング企業Emfarsisのディレクター。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:アニモカブランズの共同創業者兼会長ヤット・シウ氏(Shutterstock/CoinDesk)
|原文:The Next Big Web3 Trend Wasn’t on Stage at Consensus