岸田首相訪問のケニア:財政不安で暗号資産と米株取引が増加、政府はクリプト税制に本腰

岸田首相が今月に訪問したケニアは、アフリカ大陸の経済をけん引する大国の1つだが、財政不安と経済見通しの下方修正などを背景に、資産の一部を暗号資産(仮想通貨)や米国株などに交換する動きが中間層や富裕層の間で目立ってきた。ケニア政府内では、暗号資産取引に対する規制と新たな税制度の整備を視野に入れた議論が本格化している。

暗号資産の発行や取引、宣伝を全面的に禁止するエジプトなどとは異なり、大陸の東側に位置するケニアはこれまで、暗号資産に対して中立的なスタンスを保ってきた。国の財政不安と自国通貨安に加えて、暗号資産や米国株取引に興味を示す個人投資家が増え続けるなか、政府は暗号資産取引に対する新たな税制を策定する準備作業を進める。

新たな財源確保と暗号資産をめぐる法律案

ウィリアム・ルト大統領に出迎えられる岸田総理
ウィリアム・ルト大統領に出迎えられる岸田総理/外務省HPより

岸田首相がケニアのウィリアム・ルト大統領と会談を行った数日後、ケニア財務省は、暗号資産とNFTを含むデジタル資産の移動(売買)に対して3%の税金を課す新提案を公表した。同国の財政赤字額が依然として高いレベルにあるなか、この提案は6月に本格的な協議が予定されている。

また、この税制案とは別に、ケニアでは暗号資産の取引に関連する法案が議論されている。昨年11月に誕生した「クリプト法案」とも呼ばれるこの法律案は、暗号資産をケニアの金融システムで機能する1つのデジタルマネーに位置づけようとする試み。

同法案が施行された場合、暗号資産を1年未満保有した場合は所得税が課せられ、それ以降はキャピタルゲイン税が適用されることになる。ケニアの所得税は現在、10%~30%のレンジが設けられている。

ナイロビに本社を置き、ブロックチェーンを活用した株取引アプリを開発する「ヒサ社(Hisa)」のCEO、エリック・ジャクソン氏は「暗号資産に関する法律を制定しようとする流れのなかでは、大きな一歩」と述べ、暗号資産取引に対する法律・ルール作りは早期に行うべきと話す。

ケニア中央銀行は昨年、暗号資産のピー・ツー・ピー(P2P)取引にはリスクが伴うと国民に警告する一方で、暗号資産取引の法律制定や規制整備を視野に入れた新たな委員会を発足させた。同委員会には、中央銀行に加えて、金融規制を司る政府機関のキャピタル・マーケッツ・オーソリティ(CMA)や、同国の公的年金基金の運用などを統括するRBAのメンバーも参加している。

「ビットコイン」のグーグル検索で上位国のケニア

アフリカ大陸の北端
アフリカ大陸の北端/撮影:佐藤茂

メルトウォーター(Meltwater)が今年発表した「グローバル・デジタルレポート2023」によると、人口約5300万人のケニアでは16歳~64歳のインターネットユーザーの12.4%(約660万人)が暗号資産を保有している。また、個人トレーダーが1年間に暗号資産を購入した平均額では、ケニアは16.08ドルで、南アの341.8ドルとモロッコの33.07ドルに次いで3番目に大きい。

一人当たりの年間購入平均額は比較的に低いが、ケニアの年齢中央値は20歳で、高齢化が進む日本(中央値は48歳)とは対照的で、スマートフォンとデジタルウォレットを使いこなし、米ドルに連動するステーブルコインやビットコインなどの暗号資産を利用しようとするZ世代は多く存在する。

シンガポールのトリプルA社(TripleA)によると、ケニアでは暗号資産のピア・ツー・ピア(Peer-to-Peer:P2P)取引量が多く、特に「ビットコイン」のグーグル検索数では世界トップ10に入るという。

アフリカのWeb3ニュース「NODO」の取材でも、ナイロビの暗号資産コミュニティやWeb3コミュニティが、若いZ世代を中心に広がり続けていることが確認できる。また、アフリカのブロックチェーン・スタートアップに特化したベンチャーキャピタルの動きも活発だ。ケニア、ナイジェリア、南アフリカでは現に、決済や国際送金、取引サービスを手がけるスタートアップの数が著しく増加している。

中間層で増える米株取引

早朝のナイロビ市
早朝のナイロビ市/撮影:佐藤茂

米国株などに小額投資できるアプリを展開するヒサ(Hisa)を利用するユーザーは現在、約2万5000人。その多くはケニアの中間層だ。ジャクソンCEOによると、アメリカの株式やETF(上場投資信託)に資金を振り分けるユーザーが4月頃から、増加傾向にあるという。

「ドル高・シリング安に対してヘッジしようとする個人投資家の動きが、より顕著になってきている。ケニアの財政見通しは依然として不透明感が強い。シリング安と高インフレをヘッジするためにも、投資家はより多くの資金を米株や米ETFなどの米ドルベースの資産に振り分けている」とジャクソン氏は話す。

ヒサ社はアプリのユーザー数を年内に10万人まで拡大する計画を打ち出しているが、「現在の市場環境が継続すれば、10万人という目標は十分に可能だ」とジャクソン氏。

ケニアのインフレ率(CPI)は1月から3月までの間、9%を上回っていたが、4月には7.9%まで低下。ケニア・シリングは現在、1ドル=約137シリングで、5年前は1ドル=99シリングだった。ジャクソン氏は、インフレは落ち着きつつあるものの、シリングは年末まで130~140シリングのレンジで推移すると予測している。

コーヒーと紅茶、電子マネーが支えるケニア経済

ナイジェリア・ラゴスのスラム地区で働く漁師
ナイジェリア・ラゴスのスラム地区で働く漁師/撮影:佐藤茂

55の国・地域が存在し、約14億人の人口を抱えるアフリカ全体の経済を見るとき、大陸を東・西・南・北の4つに分けると整理しやすい。

エジプトやモロッコなどがけん引し、中東の影響を受ける北アフリカ。産油国のナイジェリアやガーナがある西アフリカ。南アフリカ共和国がリードするアフリカ南部。そして、ケニアやエチオピア、タンザニアが存在する東アフリカ。

経済規模(GDP)では、ナイジェリアがアフリカでは最大で、南アが2位。ケニアは3番目に大きく、GDPは約1180億ドル(約16兆円)。日本のGDPがドル換算で約4.9兆ドル(約660兆円)とすると、日本の41分の1になる。

コーヒーと紅茶の産地でも知られるケニアは、農業が国の経済の約3割を占め、工業は2割弱。サービス業は5割以上を稼いでいる。ケニア企業の時価総額ランキングでは、ナイロビに本社を構える通信大手のサファリコム(Safaricom)が圧倒的に大きく、次いで金融サービスのエクイティ・グループ・ホールディングス(Equity Group Holdings)とケニア商業銀行(KCB)が追うかたちだ。

サファリコムはケニア人の多くが毎日利用する電子マネーの「エムペサ(M-Pesa)」を運営する企業でもあり、スマートフォンが加速度的に普及し続ける同国の経済基盤を支える。

日本のアフリカ戦略と米バイデン政権の狙い

岸田首相とルト大統領との会談が行われ、日本のアフリカ諸国を含む「グローバルサウス」戦略が注目されている。日本よりも先を行くのがバイデン政権のアメリカだ。今年4月にはワシントンでケニア政府との2国間戦略会議(ダイアログ)が開かれた。

アメリカは戦略パートナーシップを通じて、ケニアとの貿易と投資をさらに拡大させ、ケニアに100万人の新たな雇用を創出すると、米国務省が4月24日に声明文を公開している。また、パートナーシップの2つ目の柱として、安全保障などの軍事面における協力体制の強化もあげた。

中長期的に著しい経済発展が期待されるアフリカ。治安的にも過ごしやすいケニア・ナイロビには、商社を含む複数の日本企業の駐在員が滞在している。しかし、バブル経済が崩壊した1990年から続く「失われた30年」の間、アフリカでは中古のトヨタ車が人気を集めているものの、日本企業の存在感は薄らいできた。

既に暗号資産の分野では、国をあげたデジタル金融戦略を強めるスイスが、アフリカでのベンチャー投資を強化している。今後、金融システムを含む社会インフラの整備が加速するこの大陸で、欧米企業によるさらなる投資や市場参入が予想される。多くの日本企業においても、この大波に乗る可能性が高まってくるだろう。

「アフリカの状況は40年~50年前の日本に似ている」と、ビジネス書に記されることが多い。ただ、ナイロビやラゴス(ナイジェリア)、ケープタウンで生まれる多くのテックスタートアップは、欧米や日本のスタートアップのように、AI(人工知能)やブロックチェーンを積極的に活用したプロダクトを開発して、大陸のデジタル化を一気に進めようとしている。


佐藤 茂:アフリカ・Web3ニュース&ディスカバリープラットフォーム「NODO」でチーフ・コンテンツ・オフィサーを務める。Bloomberg、Dow Jonesで金融・ビジネス記者を務めた後、Business Insider Japan・副編集長を経て、2019年にcoindesk JAPANの編集長に就任。2023年1月から現職。カリフォルニア州立大学卒業。

|テキスト:佐藤茂
|画像:佐藤茂、外務省HP