機関投資家、暗号資産の長期的見通しに強気:Consensus調査

先月の「Consensus 2023」において米CoinDeskは、招待制の投資マネージャー討論会を2件開催した。1つは機関投資家(年金基金、ファミリーオフィス、政府系ファンド、大学基金、財団)向け、もう1つはアセットアロケーター(ファンド・オブ・ファンズ、アセットマネージャー、年金コンサルタント)向け。

Alternative Investment Management Association(代替投資マネジメント協会:AIMA)のミシェル・ノイエス(Michelle Noyes)氏の助けを借りて、どちらの討論会にも同じ10の質問を投げかけた。リアルタイムで回答を取り、主に伝統的金融(TradFi)投資家である彼らが暗号資産についてどう考えているかを探ってみた(アセットマネージャーの約半数は「暗号資産ネイティブ」)。

強気な回答

FTXとセルシウスが破綻し、暗号資産では弱気相場が続いた後、機関投資家はその将来についてどのように感じているのだろうか?

機関投資家の約70%、アセットアロケーターの95%以上が暗号資産投資に好意的な見方をしており、驚くほど強気であることが判明した。

もう1つ、回答者たちの強気を知ることができたのは「暗号資産に対して機関投資家からの大規模な投資が見られるのはいつになるだろうか?」という質問に対しての回答。機関投資家の32%はすでにそうなっていると回答し、1〜3年以内は16%、3〜5年以内は36%だった(この回答者たちは、自らを長期的投資家と考えていることに注目)。機関投資家による大規模な投資が起こることはないと答えたのは、わずか4%にとどまった。

アセットアロケーターは、「すでにそうなっている」はわずか12%で、短期的見通しについてはさほど強気ではなかった。おそらく弱気相場で、AUM(運用資産残高)が即座に減少するという経験をしたためだろう。しかし、1〜3年以内は46%、3〜5年以内は30%となった。機関投資家と異なりアセットアロケーターは、自ら投資している資産に有利になるような回答をしている可能性もある。

懸念は規制の不透明性

どちらのグループも最大の懸念事項は、アメリカにおける規制の不透明感(機関投資家の72%、アセットアロケーターの76%)だったことを考えると、両グループとも比較的強気の回答だったことは驚きだ。

私は、どちらのグループも明らかに弱気、よくても中立で、見通しは暗くなっていると予想していた。調査を実施したのは、コインベースが米証券取引委員会(SEC)から、業務停止などの措置を検討していることを知らせる、いわゆる「ウェルズ通知(Wells notice)」を受け取ったり、ゲンスラーSEC委員長が米下院金融サービス委員会で証言した後で、規制の不透明感が当面続くと考えられていた。

一部の機関投資家は、サイバー詐欺や相場操縦についての懸念も表明。複数のアセットマネージャーは、複雑さとボラティリティを懸念していると回答した。

「暗号資産への投資、あるいは投資拡大のきっかけとなる可能性が最も高い出来事は何か?」という質問に対する回答からは、積み上がっている需要が浮かび上がった。

どちらのグループでもトップとなった回答は「アメリカでの規制フレームワークの明確化」だった(機関投資家の60%、アセットアロケーターの64%)。2番目は「確かな投資機会」となった(機関投資家の32%、アセットアロケーターの27%)。

暗号資産がTradFiから相当な規模の投資を集めたければ、成熟が必要だ。

デューデリジェンスの改善

FTX破綻など、2022年に起きた一連の出来事は、回答者たちの暗号資産投資に対する意識を変えることはほとんどなかったようだが、多くの機関投資家がデューデリジェンスプロセスをアップグレードするきっかけになったようだ。

機関投資家の85%が、取引の精査にもっと時間をかける(52%)、さらなる透明性を要求する(52%)、運用リスクをさらに掘り下げて検討する(48%)ことでデューデリジェンスを改善すると回答した(この質問は複数回答可)。

機関投資家がデューデリジェンスを改善したことは、FTXやセルシウスへの投資を評価損として計上したオンタリオ州教員年金基金やケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)の失敗から、暗号資産投資のデューデリジェンスは、少なくともTradFiでの投資と同じくらい厳しいものでなければならないという教訓を学んだことを示している。

アセットアロケーターも、デューデリジェンスプロセスを変える方針で、取引の精査にもっと時間をかける(36%)、さらなる透明性を要求する(42%)、運用リスクをさらに掘り下げて検討する(36%)となった。

しかし、注意も必要だ。27%は変更するつもりはないと回答している。アセットアロケーターがFTX破綻によって経験したことを考えると、なぜそうした回答ができるのか、疑問に思わずにはいられなかった。

ビットコインとは何か?

ビットコイン(BTC)に内在する投資メリットについてはここ1年間で多くが語られてきたため、「BTCをどう捉えるか?」と質問した。

  • 価値の保存手段(機関投資家の20%/アセットアロケーターの43%)
  • ポートフォリオを多様化させるもの(28%/30%)
  • インフレヘッジ(4%/0%)
  • 銀行インフラに対するヘッジ(12%/15%)
  • 準備通貨(12%/6%)
  • 交換の手段(16%/3%)
  • 感染症のようなもの(8%/3%)

機関投資家の回答は予想通りで、ほとんどの人がビットコインを「価値の保存手段」「ポートフォリオを多様化するもの」と考え、「銀行インフラに対するヘッジ」「準備通貨」「交換の手段」と考える人たちも一定数いた。

しかし、ビットコインを「インフレヘッジ」と考えるのは機関投資家のわずか4%、アセットアロケーターに至っては0%で、2021年にTradFiアナリストや暗号資産関係者、メディアが使っていたお決まりの表現は否定された。ビットコインを「インフレヘッジ」と考える人よりも「感染症」と考える人の方が多いとは、誰が想像できただろう?

この先1年の展望

最後の質問は「これからの1年で、最もエキサイトする投資テーマは何か?」。

両者の回答のトップになったのは「資産/現実資産のトークン化」でどちらも52%だった。少なくとも私にとって驚きだったのは、機関投資家の20%、アセットマネージャーの24%が「ビットコイン/イーサリアムのロング」と答え、機関投資家の16%が「ゲーム」と答えたことだ。

この調査は科学的手法に基づいたものではなく、回答は偏っているだろう。回答者はConsensusの参加者で、討論会に招待された人たちだった。

とはいえ、全体的に強気な回答は、暗号資産業界と暗号資産投資にとって幸先の良いものだ。だが、アメリカの連邦および州レベルの規制当局が、環境政策の専門家の言葉を借りると「声高で長期的そして合法的」なコンセンサス(合意)に達することが条件となる。

アンジェロ・カルベロ(Angelo Calvello)博士:機関投資家向けの投資戦略構築、管理のために深層強化学習を活用する資産運用会社ロゼッタ・アナリティクス(Rosetta Analytics)の共同創業者。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Consensus 2023/CoinDesk
|原文:Consensus Survey: TradFi Investors Remain Bullish on Crypto’s Long-Term Prospects