テザー社のUSDT準備金の詳細──米CoinDeskが情報公開法に基づき、2年におよぶ裁判を経て入手

ステーブルコイン発行元のテザー(Tether)社は、2021年3月時点、4つの銀行、2つの投資管理会社、2つのゴールド預託会社とゴールド・ブローカー、そして姉妹会社ビットフィネックス(Bitfinex)に資金を保管していた。CoinDeskが入手した文書で明らかになった。

また、さまざまな事業体が発行したコマーシャルペーパー(CP)や証券も保有。発行元は例えば、カタール国立銀行、バークレイズ銀行、ドイツ銀行、エミレーツNBD銀行、ナットウエストグループなどだが、大部分は中国のさまざまな銀行や金融機関だった。

情報公開法に基づき開示を申請

テザー社が以前、準備金をCPに投資していたことはよく知られている。同社は2021年にCPに資金を投じたことを認めている。しかし、どの程度投資していたかは、これまで明らかになっていなかった。

中国農業銀行、中国銀行(香港)、交通銀行、中国工商銀行、招商銀行、中国建設銀行、中国光大銀行などがCPや証券を発行し、テザー社はトークンの裏付け資産として投資していた。

文書によると、2021年3月31日時点、テザー社はこれらの金融機関に355億ドル(約4兆9700億円)相当以上を保有していた。

文書は、2021年6月に提出された州の情報公開法への請求に対して、ニューヨーク州司法長官事務所(NYAG)が米CoinDeskに提示したもの。文書は2021年8月4日に作成されたようで、当時のテザー社の内実を反映している。

「USDT貸出」とその他の資産として、さらに51億ドルが記載されており、資産総額は406億ドルとなる。これは当時のUSDT流通高の408億ドルにほぼ匹敵する。

テザー社 VS ニューヨーク州司法長官事務所

文書は暗号資産業界で長い間議論や憶測の対象となっていたテザー社の準備金について、限定的だが貴重な情報を提供するものだ。

2021年2月にニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官がテザー社との和解を発表した時、司法長官は2017年と2018年にテザー社が発行するステーブルコインのUSDTが完全には裏付けされていない時期があったと語っている。NYAGとの和解から6カ月後に作成されたこの文書は、その主張を証明も反証もしていない。

だが、テザー社が裏付け資産をどこに保管しているかという疑問には、1つの手がかりとなった。長年、テザー社の銀行関係に関する情報は断片的にしか出ていなかった。

USDTは時価総額No.1のステーブルコインで、暗号資産取引所における取引手段として重要な役割を担っている。USDTは米ドルに対して価値が連動するように設計されており、テザー社は流通しているUSDTに対して、少なくとも同額の資産を準備金として保有していると主張している。

限られた情報

同社は長い間、USDTは完全に裏付けられていないという疑惑に悩まされてきたが、2019年4月にニューヨーク州司法長官事務所が、テザー社が会社役員および親会社を同じくする取引所のビットフィネックス(Bitfinex)に約8億5000万ドルを貸し出していたと発表し、そうした懸念は明確になったように思われた。

当時、テザー社は準備金の内訳を示す文書を初めて公開、半分近くがコマーシャルペーパー(CP)だった。米CoinDeskは情報公開法に基づいて、USDTの裏付け資産の詳細についての文書を要求した。

2021年にNYAGとの和解を発表した時、テザー社は準備金に関する情報を少なくとも2年間公開すると述べた。最初の公開は2021年5月で、2つの円グラフと簡潔な声明のみだった。

準備金の内訳

今回公開された文書の中の2021年4月7日付のポートフォリオに関するレポートには、同様の円グラフが含まれているが、はるかに多くの情報が含まれており、テザーの準備金の具体的な内訳が示されている。定期預金に関わる情報は一部編集されているが、テザー社が譲渡性預金、債券、特にコマーシャルペーパーで数百万ドルの準備金を保有していたことがわかる。

2021年6月4日付の文書によると、テザー社はバハマにあるAnsbacher、Capital Union Bank、台湾にある遠東国際商業銀行(Far Eastern International Bank)にも資金を保管していたが、大部分はバハマに拠点を置くDeltec Bank and Trustに保管。同年3月の時点で260億ドル以上だった。

CoinGeckoによると、2021年3月31日22時30分(米東部標準時)時点、408億ドル相当のUSDTが流通していた。

文書には、それぞれの金融機関が保有する資産の詳細が記載されており、テザー社が準備金の相当額をコマーシャルペーパーで保有していたことが確認できた。

Ansbacherが発行した別のレポートには、さらに詳細な情報が記載されており、Ansbacherに預けられたテザー社の資産の約85%がコマーシャルペーパーだった。残りの大部分の13.7%は社債、その他はハイイールド債、変動金利債、信用口座だった。

同様にCapital Union Bankが発行したレポートには、約88%が「流動資産」と記されているが、内訳は書かれていない。

これらの文書の一部には、NYAGと和解した直後の同社法務チームとNYAGとのやり取りが記載されている。

そのうちの1つによると、NYAGは和解後の同社のコマーシャルペーパー保有について疑問を抱いていたようだ。

一時的にドル連動を失ったUSDT

米CoinDeskは、約2年間の裁判を経て、2月に勝利を収め、今回の文書を入手した。

この記事の公開に先立ち、テザー社はNYAGが文書を公開したことを認める声明を発表。6月16日に発表された声明は次のように述べている。

「テザー社は、顧客の機密データが公開されることを防ぎ、ビジネス上の機密情報が悪意ある行為者に悪用される可能性を防ぐための手続きを開始した」

「しかし、透明性に対する我々の継続的かつ明らかなコミットメントは、我々のコミュニティが直面している真の問題から目をそらし、時間を無駄にする非生産的なアメリカの訴訟よりも、オープンさを優先するものであることを示している」

米CoinDeskは、文書についての詳細な質問をテザー社に送っているが、当記事執筆時点までに回答はなかった。

また、テザー社は声明の中で、NYAGが米CoinDeskに文書を公開した「同じ日」に、分散型金融(DeFi)プールで数百万ドル相当のUSDTが売却され、ドル連動が一時失われたことを「疑わしいと思った」と述べている。

事実、USDTは協定世界時15日7時前に一時的にドル連動を失った。NYAGの担当者がCoinDeskの弁護士に文書を渡した少なくとも5時間前のことだ。

米CoinDeskは6月12日に弁護士から、テザー社が公開阻止を意図した長い裁判を経て、ようやく文書を受け取ることになると知らされた。USDTがドル連動を失った数時間後、6月15日午前中にニューヨークで文書を受け取るまで、文書公開について編集スタッフ以外に共有していない。米CoinDeskは、我々の報道の完全性を支持する。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Tether’s Banking Relationships, Commercial Paper Exposure Detailed in Newly Released Legal Documents