[セキュリティ・トークン最前線]今後の進展は未来への“イマジネーション”が不可欠:自民党web3PT座長・平将明議員インタビュー

グローバルで現実資産(RWA)のトークン化が大きな潮流となるなか、日本でも「セキュリティ・トークン(デジタル証券)」が本格化してきた。セキュリティ・トークンに特化したブランドを立ち上げた会社もある。

セキュリティ・トークンが注目されている背景、日本の投資環境、セキュリティ・トークンへの期待などを年間特集企画「セキュリティ・トークン最前線」の第一弾インタビューとして、自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム(PT)で座長を務める平将明議員に聞いた。

2000兆円を超える個人金融資産

日銀によると3月末時点の個人金融資産は2043兆円(Shutterstock)

──「貯蓄から投資へ」は長く叫ばれており、昨年11月には新しい資本主義実現会議で「資本所得倍増プラン」が決定された。「資本所得倍増プラン」の最大の狙いと、最大の課題はどこにあるのか

まず、日本には個人金融資産がかなりのボリュームで存在している。約2000兆円で、世界最大規模。ただし、銀行預金の比率がきわめて高く、以前から言われているように「貯蓄から投資」へという流れをもう一度再確認する必要がある。今後、人口減少が想定され、働く人の数そのものが減っていくことがわかっているなかで「お金に働いてもらう」「お金を働かせる」ことはきわめて合理的なこと。もともとボリューム感があるうえに、そうした日本固有の事情もある。

銀行預金からいろいろ形で金融資産にシフトしていけば、結果的に家計所得も増えていく。また株式投資という形で産業振興にもつながり、ウィン・ウィン・ウィンという形で進めていくことが、新しい資本主義実現会議の中でも大きなテーマとして位置づけられている。

──「貯蓄から投資」は何十年も言われ続けているが、なかなか進まない。何が一番課題になっているのか

政治家の中にも、まだ投資のことを「博打」と呼ぶ人がいる。「投資」と「投機」は違うものであることを理解することが重要。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオを変更するときも、かなり批判を浴びたが、結局、ポートフォリオを変更してわずか5年で運用資産は140兆円から190兆円まで増えた。まずは「投資とは何か」という金融教育をしっかりやっていく必要がある。

一方で、怪しい話、特に暗号資産に関連した「この暗号資産は絶対儲かる」とか「これはまだ誰も知らないけど、第2のビットコインだ」みたいな話には騙されないというリテラシーを身につける必要がある。

実は、国会議員の金融リテラシーも決して高いとはいえない。国会議員が投資を経験していないことが実は課題かもしれない。とはいえ、さまざまな規制があり、例えば、私のように与党で成長戦略に関わっている人間は規制以上に自主規制している。私も正直なところ、株式を売買したことはない。その皮膚感覚のなさが致命的かもしれない。知識としては理解していても、皮膚感覚がない。

イマジネーションの重要性

──一方で、若者の投資トラブルが急増との報道もある。いわゆる「FIRE」に関する情報もしばしば目にする。こうした状況をどのように考えているか。また、対策として何が必要だろうか

消費者保護、投資家保護、金融リテラシー向上はかなり十分に取り組んでいかなければならないと思っている。ちょうど1年位前にWeb3が話題になり、AbemaTVでお笑いコンビにWeb3を解説する機会があった。いろいろ説明して、最後に「じゃあ、我々は具体的に何をしたらいいですか?」と質問されたので「少なくとも芸能界とか、身のまわりで、この暗号資産は絶対儲かるという話があっても絶対に乗ってはいけない」と答えた。コンビの1人は「そういう話はいっぱいある」と答えていた。今はその類の話がSNSで拡散しやすい状況にあり、あるいは確信犯的に騙そうとする者もいる。被害が拡散するエコシステムができてしまっている。なので、金融庁なども注意を喚起しているが、お役所の堅い口調で伝えるのではなく、若者が理解しやすい形で、被害が拡大しそうなエコシステムに直にメッセージしていくことも必要だと思う。

金融教育は非常に重要だが、既存の教育ではカバーできない。さらにAIが入ってきて、騙す方のスキルはどんどん上がっていく。AIが恋人のフリをして近づいてくるようなことも想定できる。テクノロジーの進化に役所も対応しつつ、どこで、どういう被害が生まれそうかというイマジネーションを働かせ、早め早めに手を打つことが必要。こういう被害が出ているから、こういう法律が必要だ、とやっていると3年くらい遅れてしまう。テクノロジーが進化したら、こういうことが起きるだろうというイマジネーションが今、規制当局や我々ローメーカーに求められている。

──イマジネーションという意味では「新しい資本主義実現会議」の資料や、 web3PTのホワイトペーパーを見ると「予見可能性」というワードがポイントとなっていると感じた

予見可能性はもう少し地に足のついた話で、民間企業が何かの分野に投資をする際に、国の政策が継続するのか、税制のインセンティブや補助金がいつまで続くのかなどをもっと明示する必要があるということ。そうでなければ、予見可能性が生まれてこないし、投資がしづらくなり、企業も迷ってしまう。

今は「クリプト・ウィンター(暗号資産の冬)」と言われつつも、グローバルに日本に注目が集まっているのは、まさにこの予見可能性が一因。新しいテクノロジーが入ってきて、まず盛り上がる国は「英米法」の国々。サービスができたら実装、問題が起きたら司法で解決というプロセスでルールが積み上がっていく。一方、日本は「大陸法」なので、まずレギュレーションありきで、そこに書かれていないことはグレーゾーンとなり、そのままでは大企業はコンプライアンスの問題で参入できない。ここが英米法と大陸法の国のスピード感の違いにつながる。先行するのは、いつもアメリカ、イギリス、まさに英米、そしてシンガポール、イスラエルなど。

ただし、1周回って、今、何が起きているかと言うと、特にアメリカでは、何も言われないからやった。司法でもまだ決着がついていないところに、規制当局が入ってきて「それはダメだ」となっている。後出しじゃんけんのような状態。一方で、歩みは遅いものの、日本は我々ローメーカーも理解したうえで一歩ずつ規制を整備してきた。一度決めたら、後からダメと言われる可能性はきわめて低い。予見可能性が成長にとって大きな要因となっている。

さらに、イノベーションをめぐる競争が激化するなか、税制や補助金も単年度あるいは2、3年ではなく、5年、10年の長いスパンで予見可能性を高めて、投資を呼び込むことが必要ではないかと考え、今回の成長戦略や骨太方針に意識して盛り込んでいる。

セキュリティ・トークンに期待すること

──「貯蓄から投資へ」という流れのなかで、セキュリティ・トークンに期待するところは

セキュリティ・トークンは、まだ進化の過程にあると思うが、まず実質的なアセットと結びついていることが最大のメリットだろう。同じようにブロックチェーン技術を使っている暗号資産と比べると、明確な裏付けがあり、安心感がある。また、ブロックチェーンを使うことで、従来よりも組成が簡単になり、ランニングコストが低くなるというメリットが生まれる。従来は大規模な、まとまった単位でしか投資できなかった案件が、小口化できる。1口5億円、10億円というようなプロジェクトも、極端に言えば超小口化して、1000円、1万円から投資できるようになる。

若い人たちがまだ限られた収入のなかで投資を考える時の選択肢が大きく広がることになり、投資家の裾野が広がる。一方で、資金を調達したい側も選択肢が広がる。つまり、投資と資金調達の多様化・小口化が進展する。そこが本質的な価値だと思う。

──そこへ向けての課題は案件のラインナップの充実だろうか

業界として、いろいろな案件にトライすることが不可欠になってくると思う。例えば、古民家再生のようなプロジェクトは、金額がそれほど大きくないにもかかわらず、現状では法的な費用とか仲介に入る証券会社などのコストがかかるため、プロジェクトとしては採算が取りにくい。セキュリティ・トークンを活用することで、分散型、自律型のフォーマットが整備されれば、そうしたプロジェクトはセキュリティ・トークンを活用できるようになる。小口のプロジェクトが今以上にやりやすくなる。現状は、証券会社が中心的な役割を果たしているが、将来的には証券会社を介さないセキュリティ・トークンが主流になる可能性さえある。今は黎明期なので、証券会社がコントロールして、リアルな価値と紐づけて、問題が起こらない仕組みを作り上げているが、将来的にはお金を集めたい人と、投資をしたい人が直接つながる形が考えられる。そうした未来像にどうつなげていくかが大事になるかもしれない。

また、現状ではセカンダリーマーケット(流通市場)がない。セカンダリーマーケットができれば、いつでも換金できるようになり、流通も広がり、購入もしやすくなる。さらにマーケットができると、価値が今以上に高まる可能性も生まれる。1口10万円で購入したセキュリティ・トークンに、もっと高い価値を見出す人が出てくるかもしれない。

セカンダリーマーケットができた時には、やや頭の体操的だがスマートコントラクトをベースにしているなら、転売されるたびにプロジェクトにお金が入る仕組みも作ることができるだろう。転売した人たちだけが儲かる仕組みではなく、リスクを取ってプロジェクトを手がけている人たちに利益が還流される仕組みを作ることもできる。今までの証券とは違う世界が生まれる可能性がある。

現状のセキュリティ・トークンは、まだ必ずしもブロックチェーンの可能性をフルに生かし切れていないだろう。だが、その先にはいろいろな未来が広がっているのではないだろうか。

──web3PTの中ではセキュリティ・トークンはどのような位置づけなのか

セキュリティ・トークンは、金融の規制の枠組みの中にあるものなので、比較的問題が少ないテーマだ。議論の余地があるとすれば、その未来像についてだ。「証券のデジタル化」を超えた話。前述したように、そうした未来にどうやってつなげていくか。まさにイマジネーションが必要なところだ。

一般的にブロックチェーンのメリットは、仲介者を必要としないことと言われている。極論すれば、セキュリティートークンが進化し、「証券会社が必要なくなる世界」において、自らはどのような役割を果たすのかを明確にしていくことが今、証券会社に求められているのではないか。新しいテクノロジーが入ってきたエコシステムの中で、どういう価値を見出していくか、そこが問われているのでないか。世界がどう変わるのかというイマジネーションであり、そのためには経営にダイバーシティ、インクルージョンが不可欠ということになると思う。

──セキュリティ・トークン、そしてセキュリティ・トークンに取り組む業界に期待することは

新しいテクノロジーを使って、新しい取り組みを進めていることには大いに期待している。その先にある未来像やブロックチェーンの本来的な価値、機能に注目したときには、もしかしたら既存の業務や今、一定の収益を確保しているポートフォリオがなくなるかもしれない。そのときにどう貢献できるかという発想が求められていると思う。Web3という大きな文脈の中で、どういう未来像を描くことができるのか。

例えば、今、セキュリティ・トークンは各社の独自ウォレットが使われているだろう。だが、いずれオープンなウォレットになっていくはず。そうなれば、ウォレットには暗号資産も入ってくれば、NFT、ステーブルコインも入っている。その時にどうなるか。証券会社が発行するパーミッション型のウォレットがずっと通用することはないのではないか。これから、どんどん変わっていくと思う。

|インタビュー・文:増田隆幸
|写真:小此木愛里