フェイスブックの社名変更は、暗号資産業界からのアイディアの横取りだ【オピニオン】

フェイスブックは10月29日、オンライン・バーチャル・リアリティへの軸足のシフトの一環として、社名を「メタ(Meta)」に変更すると発表した。これについては、言うべきことがあまりにもたくさんある。その大半は、フェイスブックにとっては耳の痛いものだ。

市場への提案として成功する可能性の低い、悪夢のようなPR作戦における苦し紛れの一手であり、アメリカやヨーロッパでの政治や市場において衰退する同社の影響力を復活させる可能性はほぼゼロに等しいだろう。

突っ込みどころが豊富にあるが、まずは身近なところから。「メタバース」は、ブロックチェーン業界からフェイスブックが横取りした流行りのコンセプトとしては2つ目だ。

真のメタバースを歪めて

マーク・ザッカーバーグ氏による最初の横取りは、ステーブルコインになるはずだったデジタル通貨構想のリブラ。今ではディエムと呼ばれるようになったが、それと同じくらい、今回のメタバースビジネスも上手くはいかないだろう。

(フェイスブックはリブラの立ち上げをあまりに失敗して、名前を変えなければいけなかったほどだ。ここに共通のテーマが見えてくるだろうか?)

リブラ、ディエム、Novi、カリブラ…。名前は何であろうと、漠然と暗号資産の雰囲気を盗み、フェイスブックにデータが流れ込む強力な経路を新たに生み出そうとする試みは、盗用しているモデルを支える原則に、真っ向から反するものであった。

同様に、本当の「メタバース」とはブロックチェーンのコンセプトであるが、フェイスブックのメタバースは、リブラがビットコインを曲解したものであったのと同じくらいに、大いなる曲解であることはすでに判明している。

ブロックチェーンメタバースの中核的アイディアは、中立で検証可能な台帳に保管された仮想資産の幅広い相互運用性である。様々なバーチャルギャラリーや(間もなく)ツイッターでノン・ファンジブル・トークン(NFT)を使用可能なものにしているのと同じブロックチェーンテクノロジーが、Decentralandから(理論的には)Second Life、Minecraftに至るまで、幅広い没入型体験プラットフォームで使えるバーチャル・リアリティ資産を表すトークンを作るために使われるのだ。

フェイスブックのオンライン・バーチャル・リアリティ(VR)は、何らかのNFT統合を伴うことになるが、より広範なビジョンをザッカーバーグ氏が展開する訳ではない。

先日の発表の大半は、アップルのApp Storeへのいら立ちと、オンラインのVR体験に重点を置いた、競争力のある同様のウォールドガーデン(前述の理由から、私はこれをメタバースとは呼ばない)を構築する計画に焦点を当てていた。例えば、バーチャルセーターをデザインするクリエーターから手数料を徴収するのだ。ザッカーバーグ氏は、プラットフォームでの手数料はしばらくは高いものになるだろうとさえ警告した。

「つまりは、魅力的なメタバースを生み出すためのイーサリアム vs フェイスブックの戦いということに。

開放 vs 閉鎖
透明 vs 不明瞭
非許可型 vs 許可型
コミュニティー所有型 vs ザッカーバーグ所有型

私はどちらに賭けるか決めた。一緒により良い未来を築こう。」

フェイスブック(前述の理由から、メタとは呼ばない)はしばらくの間、デバイスへの助成金提供を含め、赤字でオンラインVRビジネスを築いていくためだと、ザッカーバーグ氏は高い手数料の理由を説明した。

メタバースに見込みはあるのか?

これは、フェイスブックの軸足転換の危険な兆候の1つを表している。VR、とりわけ、ウォールドガーデン型コンテンツストアビジネスとして優れたものになるような持続的な形でVRを使いたいと思っている人は、ほとんどいないというのはある程度、明白だ。

フェイスブックの計画の中心となっているOculusのVRデバイスは、少なくとも3、4年に渡って、かなり優れたテクノロジーであることを示してきたが、その売り上げは芳しくない。

悪名高きMagic Leapなど、その他のVRやAR(拡張現実)企業は、プロダクトマーケットフィットを見つけられずに、資金を無駄にしている。普及促進のために多額の資金を費やすことが、大衆向けVRを成功させるためのフェイスブックの唯一の望みのようだ。

そのような支出も、今回のシフトがどれほど死に物狂いなものかを物語っている。これが明らかに長期的な計画ではなかったと言っているのではない。2014年のOculus買収時にはすでに、起こり得たのかもしれない。しかし、思った通りにはまったく行かなかった。

ザッカーバーグ氏も「私たちはこの先、メタバースが大規模に普及するまでに、何十億ドルもの投資を行うことを見込んでいる」と述べ、これまでにはうまくいっていないことを認めている。対照的に、2012年にフェイスブックが買収した後のインスタグラムは、ずっとはやく見返りがあった。

ユーザープライバシーについて、フェイスブックがどれほど真剣ではないかも、私たちは再び目の当たりにするかもしれない。Oculusを開発し、創業したのは、パーマー・ラッキー(Palmer Luckey)氏。

彼はイデオロギー的には権威主義者で、カメラ付きドローンや見張り塔など、スパイのためのハードウェアを販売する軍事請負企業のAndurilを創業したが、これらは間違いなく、Oculusでのエンジニアリング経験に影響を受けたものだ。この点をどう考えるかは、読者にお任せする。

自社ユーザーや法律を悪用していることで厳しい監視の目にさらされているのではない普通の会社ならば、すでに失敗したビジネスの名前に社名変更したりしないだろう。

顧客獲得のために資金を使うのは、新しいビジネスチャンスをつかむ可能性を高めるために、プライベートベンチャーキャピタルのお金を使うスタートアップの冒険的な行いだ。例えばウーバーが、相乗りユーザーを獲得するために、補助金を出すようなものだ。

それ自体で、勢いをほとんど持たないようなビジネスに命を吹き込もうとする巨大上場企業にとって、理にかなった戦略かどうかははっきりしない。

衰退するフェイスブックの決死の賭け

VRヘッドセットのようなハードウェア価格は、ザッカーバーグ氏が私たちにそう信じ込ませているのとは反して、普及を妨げる要因ではない。

テクノロジーの世界においては、「普及カーブ」と呼ばれるものが存在する。初期には、テック熱心な人たちが斬新なものにたくさんのお金を使い、安くなるに連れて、より多くの人が買うようになるということだ。

VRに関して言えば、普及カーブの最初の部分がまだ本当に起こってはいない。皆が自宅にいることを余儀なくされたパンデミック期間中でさえもだ。ヘッドセットを安くすることは、価格を気にしないはずの関心の高い顧客層における、明らかな関心の欠如を解決することはできない。

しかし、競合よりたくさんの資金を注ぎ込む独占的なアプローチは、ザッカーバーグ氏のお気に入りの人物で、新反動主義的な権威主義者ピーター・ティール(Peter Thiel)氏の戦略だろう。お馴染みの戦略に戻ることで、ザッカーバーグ氏は少し安心するのかもしれない。

さらには、フェイスブックの新しいVR部門、そして会社全体のバランスシートが枯渇するまでのこの先10年間、ザッカーバーグ氏が「お金を儲けるには、お金を使わなくてはならない」的なことを言うだけで、完全なる崩壊を免させてくれる、騙されやすく追従的なウェブ2.0投資家たちはまだ十分いるだろう。

それこそが、さらに大きな全体像なのだ。規制や法律面での懸念を置いておいても、企業としてのフェイスブックそのものはすでに、最盛期を過ぎているはずだ。

フェイスブックでも、同社の意義を数年先まで延長してくれたインスタグラムでも、アメリカでのユーザー数は、とりわけ若年層で減少している。残念ながらフェイスブックの未来は、政府がより軟弱で、国民もより貧しい、2流、3流の国々にかかっているのだろう。

そうなると、フェイスブックは最悪の衝動により自由に従うことができる。皮肉なことにメタバースの分野では、メタバースという言葉の起源である、1980年代にニール・スティーヴンスンが出したSF小説『スノウ・クラッシュ』のディストピア的でサイバーパンクな世界により近いものを作り上げるのかもしれない。

スティーヴンスン氏の描いたメタバースは、貧しい人たちが、自分たちが実際には手の届かないようなデジタル版の生活をしつつ、現実世界では、やつれた体が狭いアパートで弱っていくような、大企業が支配するスラム街だ。

つまり、フェイスブックが構築しているメタバースは、地獄のデジタル版なのだ。そこに連れて行ってくれるのに、ザッカーバーグ氏より適任な人はいないだろう。すでに多くの悪を、実世界に解き放った人物なのだから。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com)
|原文:Facebook Steals Another Crypto Idea for Its Nonsensical Rebrand