AIがWeb3をブレイクさせる──GPU不足がWeb3をメインストリームに牽引

GPU不足が、Web3インフラのメインストリームへの普及を牽引するだろう。

AI(人工知能)のトレーニングには、NVIDIA A100やH100など、高性能GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)が必要。だがGPUが必要なのは、わずかな期間だけで、さらにGPUは非常に高価で供給量が限られている。このため多くのスタートアップにとって、GPUは手の届かない存在となっている。

さらに、多くの人たちはディープフェイク画像が人々や経済にもたらすダメージを心配し、社会を破壊しようとするターミネーターのような邪悪なAGI(汎用AI)に対する恐怖など、AIの安全性について深刻な懸念を抱えている。AGI(Artificial General Inteligence)は、「シンギュラリティ」と呼ばれる、人類の知性を超える自律的なシステムの実現を意味する。

DePINがもたらすアクセスと安全性

分散型物的インフラネットワーク(DePIN:Decentralized Physical Infrastructure Network)、具体的には演算とストレージの物理的なネットワークはそうした懸念に対するソリューションを提供し、2つの理由から、AIとWeb3をメインストリームなものにする。アクセスと安全性だ。

誕生してから10年近く経つにも関わらず、Web3の利用は、数少ない暗号資産支持者たちに限られている。この事実は、Web3はWorld Wide Webよりも急速に普及すると期待していた人たちを困惑させている。しかも、オリジナルのウェブプロトコルは何もないところから始めなければならなかったのに対して、分散型Web3プロトコルは、既存のウェブのメリットを利用できたにもかかわらずだ。

しかし、メインストリームユーザーはまだ、分散型ソーシャルネットワークに参加したり、分散型ファイルストレージのようなプロトコルを使ってはいない。そこまで強い必要性がないからだ。

Web2プラットフォームは大規模な監視や操作が行われているという認識が広まっているにもかかわらず、多くの人にとって、それらのサービスは「問題なく」機能し、強力なネットワーク効果がユーザーを固定化している。

AIがWeb3をブレイクさせる

AIの台頭は、Web3インフラにとって、大ブレークのきっかけとなるだろう。Web3プロトコルは、AIスタートアップが直面するGPU不足とデータ関連の課題にソリューションをもたらすからだ。DePINはAI開発を変容させ、その過程で、Web3プロトコルに最初のメインストリームユーザーを参加させるだろう。

AIスタートアップの創業者たちは、不十分なユーザーエクスペリエンス(UX)を通じてトークンを購入しなければならない点など、現状、メインストリーム・ユーザーによる利用を阻んできたハードルを乗り超える技術的能力と動機を持っている。創業者たちは成功のために、高品質で高価、入手の難しいGPUを必要としているからだ。

「GPUのためのAirbnb」とも呼ばれるAkashなどのプロトコルは、GPU保有者が手持ちのGPUを貸し出すための分散型マーケットプレースを提供する。このようなプロトコルは、高コストのリソースをより小規模なプレイヤーにアクセス可能にすることでAIイノベーションを民主化し、ハードウェア保有者は不労所得を受け取ることができる。

AIスタートアップの創業者たちは、必要なGPUへのアクセスを手にするためにWeb3プロトコルにやって来るが、そうしたプロトコルは新しい機能を実現しており、創業者たちはそのまま使い続けることになり、Web3は効果的に競争力を向上させることになる。

Arweaveのようなファイルストレージプロトコルは、永続的なデータストレージ利用に一括払いモデルを提供することで、データ寡占をディスラプトする。AIのトレーニングデータに永続的なストレージを使うことで、機械学習はオープンで検証可能なものとなり、AIモデルに対する信頼が高まる。

オープンソースで信頼性を高める

現状では、OpenAIのChatGPTやグーグルのBardなど、大手企業のAIプロダクトが先頭を走っているが、AIはオープンソースバージョンが競争上の優位を持つ可能性がある。

AIが、リンゴと野球のボールのような2つの丸いアイテムの違いを認識できるのは、人間の入力によって何千回も教えられているからだ。私たちは皆、CAPTCHA(Completely Automated Public Turing test to tell Computers and Humans Apart:認証時に文字を入力したり、画像を選択する簡単なテスト)に入力する時に自転車や信号機、橋などが含まれたボックスを選択することで、知らないうちにAIモデルのトレーニングデータを作成している。

このようなトレーニングデータが企業によって独占的に管理されている場合、それを信頼することはできるのだろうか?

AIのユースケースは、オープンで公開されたトレーニングデータがより信頼できるだけでなく、より質が高いという点でユニークだ。オープンモデルは情報を交換し、学習を加速させることができ、次のバージョンをより良いものにする好循環が生まれる。

さらに、サム・アルトマン(Sam Altman)氏によるWorldcoinプロジェクトが追求している研究分野、zkML(ゼロ知識の機械学習)のようなオープンソースのフレームワークは、AIモデルが特定のデータセットでトレーニングされたことを証明する暗号化技術による証明を提供し、アウトプットの信頼性を高める。

AIがディストピア的な権威主義的未来につながることを危惧する人たちもいるが、DePINは、信頼できるコードと、それを実行する物理的なインフラネットワークの双方に防御手段を提供する。

競争力を手にいれる

もしスタートアップの創業者たちが、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のような大手インターネット企業が管理するインフラ上でアプリを開発すれば、競合に収益の大部分を支払うことになるため、競争が難しくなるだけでなく、カウンターパーティーリスクを負うことにもなる。

もしWeb3アプリが成功すれば、依存している先のアマゾンやグーグルから競争相手とみなされ、必要とするインフラから切り離されるかもしれない。DePINなら、より信頼性が高く、攻撃に強く、はるかに安価なインフラを創業者たちに提供できる。

AIスタートアップにとってのDePINのメリットは、トレーニングデータやハードウェアへのアクセスだけにとどまらない。

例えば、一時的に5000億ドル(約70兆円、1ドル140円換算)規模の市場リアクションを引き起こした「ペンタゴン爆発」写真のようなディープフェイクがますます一般的になり、オンラインコンテンツの信頼性が損なわれることに対して、Web3プロトコルは公開鍵暗号化技術によるソリューションを提供する。

私たち暗号資産分野の人間にとっては、暗号化技術による署名のメリットは明白に思えるが、AI悲観派はまだこのソリューションを理解していない。公開鍵暗号化技術は、来歴を証明し、コンテンツの信頼性を評価するために使えるユニークで偽造不可能な署名を提供する。

GPU不足のポジティブな結果

GPU不足は結果的に、スタートアップの創業者にDePINプロトコルを使用する動機を与える可能性があり、これらのプロトコルによって解き放たれる機能は、そうしたプロトコル上で開発されたアプリがWeb2の既存アプリに勝利することをサポートする。

分散型インフラを使って開発されたAIアプリには、レイテンシを短縮できる最適化されたジョブ・ルーティング、マイクロペイメントを通じたより高速で低コストのコマース、あらゆる種類のスマートコントラクト機能、ディープフェイクやスパムをフィードから排除するためのデータの自動フィルタリングといったメリットを提供する。

DePINは、AIスタートアップに対して、より良いアクセスと機能を一段と低コストで提供し、開発と競争のための肥沃な土壌をもたらす。これらの新興AIアプリケーションのユーザーは、多くの場合気づかないうちに、Web3プロトコルのユーザーになっていくだろう。

この舞台裏での統合は、ユーザーに分散型ウェブのメリットを紹介し、Web3普及の従来のハードルを克服するのに役立つような、シームレスな体験を提供する。AIとWeb3は競合するものではなく、お互いを必要とする存在だ。

エイミー・ジェームズ(Amy James)氏とデボン・ジェームズ(Devon James)氏:Web3 Working Groupの共同エグゼクティブディレクター。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:FritzchensFritz/Creative Commons(CoinDeskが加工)
|原文:Web3 Can Actually Compete in the Computer Chip Race