DeFiは決して、終わっていない

ここ数日、DeFi(分散型金融)の終焉や衰退についての記事をいくつか目にした。

そのきっかけとなったのは、ハッキング攻撃と暗号資産企業の創業者によるお粗末なリスク管理。簡単に言うと、人気の自動マーケットメーカー(AMM)であるカーブ・ファイナンス(Curve Finance)の創業者が、カーブダオトークン(CRV)の半分近くを複数のDeFiレンディング・プラットフォームに担保として差し出し、予想外ではあったがある程度予想できたハッキング攻撃によってCRV価格が下落したことで、清算の危機に瀕した。

最初の記事はCoinDeskのダニエル・クーン(Daniel Kuhn)記者によるコラムで「DeFiは終わった。我々は気づいてさえいなかった」と述べている。2つ目はJPモルガンのレポートで、セクター全体が「縮小もしくは失速モード」にあると論じている。しかし、これらの指摘は真実からはほど遠い。

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実験の途上

私はDeFiが終わったとは思わないし、縮小しているとも思わない。

2020年夏のDeFiのイメージは確かに、そしてありがたいことに無くなった。不正行為や流動性、利回りの話が多すぎた時代だった。DeFiの夏の燃料となった「イールドファーミング」はやがて落ち着き、いくつかの分散型プラットフォームが市場のリーダーとして台頭。その多くが、拡大を目指して専門的かつ洗練されたサービスを提供した。

しかし、このセクターは完璧ではない。さらにクーン記者が指摘したように、あまりにも少数の人々の手に、あまりにも多くの権力が握られている。聞き覚えのある話だ。

このテクノロジーと過去のテクノロジーの違いは、DeFiが極端に金融化されていることだ。プログラマーたちが金融業者を演じ始めることは理想的ではない。

しかし、忘れてはならないのは、我々はまだこのテクノロジーを実験していることだ。どう使えばいいのかわからない。間違いもあるだろう。

我々がここ数年で成し遂げたことは、伝統的な企業や銀行のやり方、あるいは地理的な境界線にとらわれない、堅牢なシステムを構築することだ。このシステムは十分に安全であるために、マスターカード、ビザ、コカ・コーラ、アンハイザー・ブッシュ、ナイキ、スターバックス、BNYメロン、ブラックロック、フィデリティといった大手金融機関や大企業が、効率性の向上のためにテクノロジーの活用に資金と社内リソースを割いている。

このような初期の実験や企業の模索は、DeFiがプロフェッショナルなものになり得ること、そしてその市場の成長は、必ずしも「FOMO」(機会を逃すことへの恐怖:fear of missing out)に牽引される必要はないことを示している。

それでも、多くの人々の夢はすべての金融システムの完全な分散化だが、現実は決して、そこには届かないだろう。少なくとも我々が生きている間には。最も難しいことは、自己実行コードとそれを開発する人間のパワーバランスだ。

カーブもその一例。人間から人間を取り除くことはできない。しかし、それでいい。

困難な道のり

私たちは、2021年のDAOの夏で分散化の道をさらに突き進んだ。誰もがディスコードのリンクを通じて分散型自律組織(DAO)に参加し、ローンチされたばかりのトークンのために働き始め、組織に対する発言権を得られることが当たり前になった。もちろん、創業者と投資家が投票するまでは。そうなれば、企業のヒエラルキーに逆戻りしてしまう。

これは否定的な意味ではなく、常に機能しているように見えるわけではないにせよ、機能していると言いたいのだ。重要なことは、DeFiは今後も困難なものであり続けるということだ。DeFiが成長し続け、現実の世界や、暗号資産に自分から飛び込むほど自発的でなかった人々とぶつかり合うにつれ、さらに難しくなるだろう。

暗号資産をめぐる分断の一方の側には、米連邦準備制度理事会(FRB)が通貨供給量を決定し、銀行が通貨を管理し、政府が国民に投資できるものとできないものを指示する、伝統的な経済・金融・企業システムを維持したい人々がいる。このようなシステムでは、大手の上場企業が私たちのデータを管理することになり、私たちがそれに対抗してできることはあまりない。

もう一方の側の極端なところには、トークンの数に応じてすべてを投票にかけ、コンピューターコードで作られたお金で世界を動すことを望むトレーダー、開発者、プロトコル作成者がいる。

現実は、その中間に落ち着くことになるだろう。

何兆ドルもの不動産、未公開・公開企業、債務証券がまだ存在し、それらはすべて会計処理され、取引され、担保にされる必要がある。それらが一夜にしてオンチェーン化することはない。しかし、世界はそこに向かっている。

そして、オンチェーンで扱われる資産が増えれば、DeFiが融資、流動性、透明性を提供できるように待ち構えているだろう。カーブのマイケル・エゴロフ(Michael Egorov )CEOがシステムに従ってローンを組んだこと、世界が彼の危険な債務について知ることができたことは、すべてがオンチェーンで記録されていたから。そこは明確に指摘しておく価値があるだろう。多くの人が、彼の危険な行いを指摘したほどだ。このような危険性が公にされる金融業界は他にあるだろうか?

市場に任せる

DeFiのエコシステムとテクノロジーの成長は、振り子を動かし、中心をずらした。DeFiは透明性、効率性、仲介業者の排除、セルフカストディを提供しているため、これが金融システム全体の標準になる可能性がある。そうでなければ、銀行は、より多くの人々に参加する機会を提供する融資、借入、保険の世界で起きているイノベーションに負けてしまうだろう。

実験は完璧ではないが、だからこその実験だ。カーブの状況は不安なものだが、分散化へ向かうことは、市場に任せるしかないことを意味する。プロトコル、チーム、システムに必要な変化を起こさせよう。

DeFiは終わっているわけでも、終わりつつあるわけでもない。実際には、やっと日の目を見るようになってきたところだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:DeFi Definitely Isn’t Dead