DeFiは終わった。我々は気づいてさえいなかった

DeFi(分散型金融)は8月1日、終わってしまった。実際にプロトコルが破綻したわけでも、トークンが暴落して無価値になったわけでもない。その可能性も確かにあったが。仲介者のいない貸し手、取引所、取引ツールが相互につながったエコノミーは、厳密に言えば、まだ動き続いている。

しかし、DeFiを前進させてきた精神、通貨の世界から権力者による仲介を排除し、公平に基本的かつ複雑な金融商品への容易なアクセスを提供するという夢は終わってしまった。そしてそれは、米証券取引委員会(SEC)のせいではない。DeFi自身が引き起こした。

高レバレッジの危険なローン

システム的に重要なカーブ・ファイナンス(Curve Finance)をはじめとする複数のDeFiプラットフォームに対する一連の攻撃の後、カーブの創業者マイケル・エゴロフ(Michael Egorov)氏は7月31日、自身が借りた数億ドル相当の個人的なローンが清算の危機に瀕し、不安定な立場に置かれた。

数カ月前、エゴロフ氏は最も利用されている分散型取引所(DEX)のひとつであるカーブの立ち上げに貢献したことで得たカーブダオトークン(CRV)で大規模なレバレッジをかけていた。オープン・レンディング・プロトコルのアーベ(Aave)上の1回のローンだけで、エゴロフ氏はCRVの総供給量の約34%を担保として差し入れ、6300万ドル(約76億円)相当のステーブルコインを借り入れた。さらには他でも、4億6000万CRV(総供給量の47%)を担保に、1億1000万ドル(約157億円)を借りた。

30日に少なくとも3つのカーブ取引プールがハッキングされたことで、これらのローンには下落圧力がかかり、CRVが一定の価格(~0.35ドル)を下回れば、エゴロフ氏のローン担保はプログラムによって売却されていただろう。そうなれば、CRV価格は下がり続け、他のローンも清算に追い込まれ、CRVはさらに下がるという悪循環に陥る可能性が高かった。

いわゆる「デス・スパイラル」だ。CRVはDeFiエコシステム全体で担保として使用されており、その影響はDeFiセクターを潰してしまう可能性もあった。

しかし、エゴロフ氏が8月1日夜、トロン(TRON)の創設者であるジャスティン・サン(Justin Sun)氏のような富裕なトレーダーたちと水面下で取引を行ったため、そうした事態にはならなかった。エゴロフ氏は借金の一部を返済し、CRV価格を押し上げることができた(当記事執筆時点、約0.60ドルで取引されている)。

アーベのCEO、スタニ・クレチョフ(Stani Kulechov)氏などのプラットフォーム創業者が市場に介入することを求める声もあった。介入といっても、プロトコルを停止させるのではなく、アーベの保険基金を利用するか、極端な状況下で作動するセーフティ・モジュール(アーベにステーキングしている人たちが実際に支払うシステム)を利用することもできた。

間違っていた?

エゴロフ氏のようなDeFi界の大物が救済されるのは今回が初めてではないだろうし、暗号資産(仮想通貨)の世界で判断ミスが誰かを追いつめることも初めてではないだろう。

さらに言えば、エゴロフ氏はおそらく、何も悪いことはしていない。彼は複数の融資プラットフォームのルールに従って、本質的には、より大きなIT分野で人気のある、税金を最小限に抑える手法の暗号資産バージョンを行った。

ピーター・ティール(Peter Thiel)氏のような「ペーパー・ビリオネア」が、フェイスブックのようなスタートアップを設立したり投資したりして築き上げた株式を担保に、銀行に行って現金のローンを借りることができるのであれば、暗号資産業界の創業者たちも同じことをして何がいけないのだろうか?

しかし、DeFiが終わりかけたことを考えると、難しい質問をする価値がある。

なぜエゴロフ氏は、CRVの総供給量の半分以上を持つことを許されたのか? この状況は、平等主義を掲げるはずのDeFiの目的とは表面的にはまったく相反している。

なぜ誰ももっと早く介入しなかったのか? なぜこのようなきわめて重要なプロトコルが危険にさらされることが許されたのか? なぜアーベやFraxlend(エゴロフ氏のローンは少額だったが、貸し倒れのリスクは大きかった)のようなレンディング・プロトコルは、担保にできるトークンの数や割合に上限を設けないのだろうか?

おそらく最も重要なことは、私の同僚であるシャウリヤ・マルワ(Shaurya Malwa)記者が示唆したように、なぜ「リッチな開発者」は災難が襲う直前まで行動を起こすことを待ったのだろうか? このような状況が、大きな秘密だったわけではない。

リサーチグループのGauntletは、Aave V2のCRVを凍結する正式な提案は通過しなかったものの、早くも1月の時点で、エゴロフ氏の高レバレッジのポジションについて警告を送っていた。ParaFi、Framework、1kxを支えるベンチャーキャピタルは、今年エゴロフ氏を訴えたほどだ。それは、彼の危険なローン取引のためではなく、初期の支援者としてカーブ開発を手がけた企業の株式とCRVをより多くもらえるべきと考えたからだ。

前述の疑問へのシンプルな答えは、DeFiだから、だ。DeFiは技術的にイノベーティブで、オープンソースで相互運用可能な一連のプロトコルをベースにしているにもかかわらず、伝統的な金融セクターと同じ根本的な問題を抱えている。

強欲が横行している。偽善が常態化している。

ダブリン大学のポール・ディラン=エニス(Paul Dylan-Ennis)准教授が言うとおり、DeFiのモットーは、民主的に開発することではなく、「うまくいっている限り」開発することだ。

エゴロフ氏の状況は、DeFiのハルマゲドンに至らなかったとはいえ、DeFiセクターにとって単なる「面汚し」以上のものだ。DeFiが何年もの間、内部では終わっていたことを示している。

ヒーロー物語ではない

この文章は、非常に重要なプラットフォームを救うためにエゴロフ氏が動き、業界関係者(必ずしも常に連携しているわけではない)が結集したことについてのヒーロー物語として書くこともできる。

エゴロフ氏は8月1日、不良債権を支えるために奔走したが、それはある意味、取引のマジックだった。彼はソファのクッションの下から見つけたようなお金でステーブルコイン、513万FRAXのローンを返済した。エゴロフ氏はコメントの求めに応じなかったが、確かに彼は事態の深刻さを理解していたし、彼が持ち堪えたことを個人的にもうれしく思う。

ジャスティン・サン氏は、無価値になってしまう可能性も大いにあった約290万ドル(約4億1400万円)相当のCRVと引き換えに、アーベのポジションから200万ドル(約2億8500万円)相当のテザー(USDT)をエゴロフ氏に渡した。無私無欲の行動と言ってもいい。彼は称賛されるべきだろうか? 彼はいつでも、救助に駆けつけることを厭わないようだ。

しかし、どれも英雄的ではない。もしDeFiがこれまでと本当に違ったものであったとしても、いまや少数の強大な金持ちによって運営されている。もしDeFiが本当に挑戦的なものであったとしても、「イールドファーミング」で儲けるどころか、取引手数料やインパーマネントロス(DEXに預けた資産が価格変動により損失を出すこと)のような理解しがたいものに飲み込まれることの多い普通の暗号資産保有者にとっては、いまやほとんど役に立たないものになっている。

暗号資産関連メディアやクリプト・ツイッターでは、この業界で何か問題が起きたとしても「今日も混乱した1日だった」と論じる傾向がある。私たちは皆、オンラインでばかり時間を過ごすことで慣れてしまい、7000万ドル(約100億円)の損失さえ実感できなくなっている。経済的な痛みなど、本当に現実なのだろうか?

絶えず存在する犯罪や災難に対する軽薄な態度は、暗号資産が文字どおり、フェイクなインターネットマネーであることからも納得がいく。暗号資産にそれ以上の意味を持たせようとすることは間違いだったのだろうか?

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:カーブ創業者マイケル・エゴロフ氏(Michael Egorov、CoinDeskが加工)
|原文:DeFi Died and We Didn’t Even Notice