ルフトハンザ、ナイキ……ロイヤルティ・プログラムを変革するブロックチェーン

進化するロイヤルティ・プログラム

大手ブランドや最も成功した起業家たちは、なぜブロックチェーンを活用したロイヤルティ・プログラムの再構築を模索しているのだろう。

購入特典などのロイヤルティ・プランは1790年代から存在したが、アメリカン航空は1981年に「AAdvantage」マイレージプログラムを導入し、現代のロイヤルティ・プログラムをスタートさせたと言われている。

以降、アメリカ人の80%が少なくとも1つのメンバーシップ・プログラムやロイヤルティ・プログラムのメンバーになっている。Z世代でもその数字は同じくらいで、70%が特別な報酬や特典を得るためにこうしたプログラムに参加している。

では、40年以上にわたって実証されてきたと思われるこのプログラムで、なぜ大手ブランドや成功した開発者たちが、ロイヤルティや特典の提供をさらに強化するためにブロックチェーンソリューションの活用を模索しているのだろうか?

消費者1人当たりの参加ロイヤルティプログラム数
(LendingTreeが2022年に実施した2082人を対象とした調査より)

2023年、これまで標準的と思われていた特典を提供するために、ブランドが消費者からより多くを求めようとしたため、消費者からの反発が見られるようになった。

例えば、デルタ航空は最低レベルの特典を利用するために必要な最低利用金額とフライト回数を引き上げたことで猛反発を受け、謝罪声明を出した。

CRM大手セールスフォース(Salesforce)のマーク・マチュー(Marc Mathieu)氏の言葉を借りれば「ブランドは上得意客から最大の価値を引き出そうとするのではなく、上得意客に報い、特別感を与える方法を考えるべきだ」という事態になった。

それをさらに一歩進めるために、さまざまな行動に報酬を与える、ブランドが所有・運営し、ソーシャルやエクスペリエンスに親和性のあるシステムがあったら? そこでブロックチェーンの登場だ。

ブロックチェーンに最適なユースケースのひとつが、ロイヤルティと報酬(リワード)だが、それにはいくつかの大きな理由がある。

  • 透明性: ブロックチェーン上のすべての取引は、許可を得た関係者であれば誰でも透明性を持って閲覧できるため、ユーザー間の信頼を高めることができる。
  • セキュリティ: ブロックチェーンは暗号化技術を使用しており、いったん取引が台帳に追加されると、変更や削除ができない。
  • 相互運用性: ブロックチェーンは、異なるロイヤルティ・プログラムの相互運用を可能にする。顧客は異なるプログラムの特典を移行・統合できる可能性があり、ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上につながる。

メリットは他にもあるが、これらの機能は消費者に新たな機会をもたらし、先進的な考えを持つブランドにとってはロイヤルティ・プログラムをマルチユースなエコシステムに成長させ得る。

ブランドの活用実例

ブロックチェーンを活用したロイヤルティ・プログラムに取り組んでいるブランドを見てみよう。

■ルフトハンザ

ヨーロッパの大手航空会社ルフトハンザは、搭乗券をスキャンするなどのアクションでNFTを集め、フライトのアップグレードや空港ラウンジの利用などの特典を利用できるアプリケーション「Uptrip」を導入した。まだベータ版ではあるが、すでに2万人以上が登録している。

■ナイキ

ナイキは、保有者がさまざまな特典を得られるデジタルスニーカーコレクションを発表した。「Our Force 1」のデジタルスニーカーは、20ドル以下で手に入る。

保有者は、お気に入りのビデオゲームキャラクターの足元に追加できるアセットを手に入れるだけでなく、人気オンラインゲーム「フォートナイト」のシークレットレベルを開くこともできる。さらに、スポーツゲーム専門ゲームブランド「EAスポーツ」とのコラボレーションも発表された。

さらに保有者は、保有者だけしか手に入れられない実物のスニーカーも購入できる。発売と同時に、約10万個のデジタルシューズが購入された。

■Blackbird

起業家のベン・レヴェンタール(Ben Leventhal)氏は、ブラックバード(Blackbird)という新しいベンチャーを立ち上げた。ブラックバードは、暗号資産FLYを利用したポイントシステムを通じて、レストランと顧客がともに関係を築くことを可能にする。

レヴェンタール氏は、ニューヨークでのパイロットテストの後、拡大を計画しており、レストランが自分たちの最高の顧客が誰なのかを改めて知り、そのデータを同じような考え方をするレストランと共有できることに重点を置いている。ブラックバードは、アメリカン・エキスプレスやアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)といった投資家からシリーズAで2400万ドルを調達した。

上記のブランドのほかにも、LVMHからスターバックスまで、ブランドはブロックチェーンベースのツールをどのように使えば顧客とより深くつながることができるかを模索している。

また、実績のある事業者や先見の明のある起業家が、伝統的なビジネスのオンチェーン化を支援することにチャンスを見出し、レガシーブランドや新興ブランドのニーズを満たすために業界が進化している。

Forum3、Co:Create、Mojito、Superlogicなどのサービスプロバイダーが、オンチェーンロイヤルティの新しい分野を切り拓いている。問題は、この新しい分散型パラダイムが、綻びが見られるWeb2の中央集権型データベースよりも優れているかどうかだ。

この新しいコンシューマーテクノロジーが広く導入されるには、ユーザーエクスペリエンスの問題、普及曲線、そして率直に言って、暗号資産にまつわるブランディングの問題を解決する必要がある。

消費者データのより優れたプライバシー保護、ブランドと消費者の双方の目標の共有、そしてパーミッションレスなブランド間のコラボレーションといった可能性を考慮すれば、注目すべき何かがあると言っていいだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto for Advisors: Innovating Legacy Programs with Blockchain