Web3ロイヤルティプログラムは優れた政策のための「トロイの木馬」【コラム】

「悪い事実が悪法を作る」と法律の世界では言われる。暗号資産はまさに今、良い事実を必要としている。暗号資産が政策決定者の間で共感を得るためには、政府や資産家を脅かすような事実やストーリーを強調すべきではない(「法定通貨をなくせ!」とか「銀行を打倒しよう!」とか)。

そうではなく、シンプルで価値があり、消費者指向の、日常的なストーリーを強調する必要がある。すべての人にメリットをもたらし、個人の権利を侵害することなく、コミュニティを強化するテクノロジーのはずだ。奇妙に思えるかもしれないが、この最も明確な事例が、Web3ロイヤルティプログラム(ポイント制度など、優良顧客化のための施策)だ。

Web3ロイヤルティプログラムのメリット

Web3ロイヤルティプログラムは、従来のロイヤルティプログラムに比べて数多くのメリットがある。だがその中で最も政策決定者の共感を得るのは、所有権、コントロール、相互運用性だ。

Web3ベースのロイヤルティプログラムの場合、ユーザーは、ポイント、会員ステータス、ブランド関連のNFTを真の意味で所有することができる──それらは「ロイヤルティトークン」という形態を取っている。ユーザーはさらに自らのトークンを移動、取引、販売できる。しかもブランドが適切と考える方法で。

つまり、企業は自社のロイヤルティトークンの移動に制限をかけることができるため、ロイヤルティプログラムの運営や参加者を細かくコントロールできる。ブランドは定められた要件に応じて、どのウォレットがトークンを受け取るかを選ぶことができる。

これは、Web3ロイヤルティトークンが証券ではないと示すことに役立つ。必ずしも利益のために取引できるわけではないからだ。消費財だ。

相互運用も簡単

Web3ロイヤルティプログラムのもう1つのメリットは、ブランドがプログラムの相互運用性を実現できること。つまり、ロイヤルティトークンは、特定のプログラムに参加したいあらゆるブランドによって獲得、換金が可能になる。

ただし、相互運用性の例はすでに存在しているが、Web2テクノロジーのために限界があり、コラボレーションは手動で行われ、時間がかかりる。つまり、ブランドAはブランドBと合意を締結し、コラボレーションのために高価なシステム統合を図らなけれならない。

Web3ロイヤルティプログラムでは、コラボレーションはブランドの望みに応じて、部分的、あるいは完全にパーミッションレスになり、参加したブランドは、他の参加ブランドと提携できる。

つまり、似たような顧客層を抱え、競合しないプロダクトやサービスを展開するブランドは、事前に調整などをほとんど、あるいはまったく必要とせずに、互いにプロモーションを展開し、互いのブランド価値を活用できるようになる。

例えば、ユーザーがゴールド会員の証であるNFTを提示することで、レストランはあるプロダクトのゴールド会員に対して期間限定で割引を提供できる。

普及のための「トロイの木馬」

Web3ロイヤルティプログラムが成功すれば、慣れ親しんだ方法で新規ユーザーが暗号資産に参入し、業界全体にプラスの影響をもたらすだろう。

まず、さまざまなインセンティブを通じて、暗号資産やブロックチェーンテクノロジーをローリスクで体験してもらうことができる。一般的なユーザーにウォレットに親しんでもらうために、実世界でのメリット(お気に入りのショップでの割引など)を提供することほど、わかりやすく、効果的なものはない。

Web3ロイヤルティプログラムは、ウォレットを広く普及させ、明確なメリットのある、わかりやすい方法でブロックチェーンベースのツールを使うよう促すことによって、人々がテクノロジーを理解し、使用することを一段と簡単にする。

さらに、Web3ロイヤルティプログラムはブロックチェーンテクノロジーの価値を実世界の中で示すことができる。これらのプログラムは世界に革命を起こそうとしているのではなく、すでに確立されたプログラムに、ブロックチェーンテクノロジーによってのみ実現可能なメリットを加え、強化するものだ。

優れたストーリーが優れた政策に

規制当局や一般の人たちが、Web3ロイヤルティプログラムを通して暗号資産について考えてくれれば、規制の枠組みはすでに存在しているため、暗号資産業界全体にメリットが生まれる。

ロイヤルティプログラムは、十分に確立された法律と規則の中で動いている。消費者保護やプライバシー規格も含まれている。Web3ロイヤルティプログラムを管理することに未解決の問題は少なく、新しい法律の必要性も小さい。

Web3ロイヤルティプログラムは「脅威ではない」。DeFi(分散型金融)をはじめとする他の暗号資産のユースケースとは違い、国や伝統的金融システムの権力を脅かさない。消費者を経済的に傷つけることもない。そのためWeb3ロイヤルティプログラムは、政治的に受け入れられやすく、規制も一段と簡単となる。

Web3ロイヤルティプログラムはさらに、企業にも向いている。企業に競争、協働、そして顧客を惹きつけのための価値あるツールを提供する。「ビジネスにとって有益」と一般に理解されるツールを厳しく取り締まることはできないだろう。

Web3ロイヤルティプログラムのストーリーが幅広く受け入れられれば、一般ユーザーはWeb3テクノロジーを使いこなし、より身近なものに感じるだろう。ユーザーがWeb3ロイヤルティプログラムを所有でき、コントロールできる力を実感するにつれて、業界全体にメリットをもたらす暗号資産政策を一段と支持してくれるようになる。

ジョッシュ・ローゼンブラット(Josh Rosenblatt)氏:ブロックチェーンベースのロイヤルティプログラムを手がけるCo:Createの共同創業者兼COO。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Web3 Loyalty Programs Are a Trojan Horse for Good Crypto Policy