ポリゴンの秘密の取り引き:バリデーターとなった大手企業に数百万ドルを提供か
  • スポーツベッティング(賭け)を手がけるドラフトキングス(DraftKings)は2022年、ポリゴン(Polygon)ブロックチェーンの運用をサポートするネットワークバリデーターとなることに公に同意した。
  • オンチェーンデータによると、ポリゴンはドラフトキングスに数百万のMATICトークンを提供し、ほとんど前例のない形で巨額の利益を上げることをサポートした。
  • にもかかわらず、ドラフトキングスはバリデーターのパフォーマンスを維持できず、先月ネットワークから追い出された。

ポリゴン・ラボ(Polygon Labs)は2022年3月、技術基盤の「普及にとって重要なマイルストーン」を発表した。 ドラフトキングスがそのネットワークバリデーターの1つを実行し始め、「大手上場企業がブロックチェーンガバナンスに積極的な役割を果たす初めての例となる」と発表したのだ。

ポリゴンがそのとき明らかにしなかったこと。それは、ドラフトキングスが非常に収益性が高く、有利な条件でこの任務を請け負うことになることだ。それから20カ月、ポリゴンは使い物にならなくなったバリデーターへの補助金で数百万ドルもを失うことになった。

米CoinDeskは、これまで報告されていなかった2社の金銭面に関する取り決めを理解するために、ポリゴンのバリデータープログラムに関連する数十のオンチェーン記録を調査。ポリゴンのステーキングエコシステムに詳しい元従業員やバリデーターオペレーターにもインタビューを行った。

オンチェーンデータから、ドラフトキングスは2021年10月の「戦略的ブロックチェーン契約」開始時にポリゴンから直接、数百万ドル相当の暗号資産(仮想通貨)を受け取っていたことが明らかになった(ドラフトキングスがこの250万MATICに対して、ポリゴン側に支払いを行ったかどうかはわからない)。

ドラフトキングスはその後、ポリゴンネットワークの他のバリデーターがほとんど享受していない特別なステーキング関係を通じて、さらに数百万ドルを得た。両社ともこのような金銭的なつながりを公表していなかった。

Web3企業がメインストリームブランドに対して報酬を支払い、マーケティングパートナーシップや技術的なセットアップなどを通じて、暗号資産エコシステムに参加してもらうことは前例がないわけではない。

しかし、メインストリームに採用されているというイメージを築くために費やした資金について公に議論することを彼らは躊躇する。ポリゴンがドラフトキングスを特別扱いしていることを示すオンチェーンデータは、このような取り決めを知るための貴重なヒントとなる。

ポリゴンとドラフトキングスの代表者は、機密保持契約を理由に、バリデーター契約の資金面での取り決めについて取材に応じることを拒否した。

ドラフトキングスはポリゴンネットワークの100のバリデーターの中で、あるポリゴン幹部が言うところの「対等なコミュニティメンバー」ではなかった。ブロックチェーンデータによれば、同社は「ブロックチェーンガバナンスに積極的な役割を果たす」ために多額の報酬を受け取りながら、自らの責任を果たしていなかった。

ドラフトキングスのポリゴンバリデーター

ポリゴンのバリデーターであることには責任が伴う。設計上、一度にネットワークにコンピューティング能力を提供できるのは、企業、ステーキングサービス、暗号資産取引所など100ほどのエンティティに限られる。

彼らはプラットフォーム上でトランザクションの検証作業を行う。ネットワークは彼らの努力に報いるため、MATICと呼ばれるポリゴンのネイティブトークンを自動的に送る。これがステーキングと呼ばれるプロセスの鍵だ。

バリデーターは、MATICを担保として「ステーキング」し、誠実な検証作業を行う。より多くのMATICをステーキングすることで、報酬としてより多くのMATICを得ることができる。バリデーターを持たないMATIC保有者は、自分のトークンを他のバリデーターに「デリゲート(委任)」することができる。ほとんどのポリゴンバリデーターは、委任されたトークンから得られる報酬に対して5~10%の手数料を請求する。

ドラフトキングスのバリデーターは違っていた。十数名の小口デリゲーター(委任者)は、報酬としてMATICを1つも受け取ることができなかった。

ドラフトキングスのデリゲーターの1人、ボリス・マン(Boris Mann)氏は、「要はセットして忘れたということだった」と語った。彼はドラフトキングスがステーキング報酬の全額を手数料として受け取っていたことに気づかなかったため、800ドル(約12万円、1ドル150円換算)ほどを手にすることができなかったと考えている。

ドラフトキングスのバリデーターは、ポリゴンのネットワークで最大規模に成長した。その最大のデリゲーターはポリゴンだった。ポリゴンは、ドラフトキングスがより多くのステーキング報酬を獲得できるよう、6000万MATICをデリゲートしていた。

ポリゴンは、ドラフトキングスに利益を奪われることを気にしていなかったようだ。むしろ、それこそが目的だったようだ。

異例のデリゲートと100%の手数料

ポリゴン財団が、あるいはどんなブロックチェーンの運営者でも、独自ネイティブトークンを他のバリデーターにデリゲートすることは珍しいことではないとステーキング業界に詳しい人々は言う。

トークンをバリデーターにデリゲートすることで、財団はバランスシートに直接打撃を与えることなく、ブランドパートナーに報酬を支払い、ネットワーク貢献者に報いることができる。パートナーは、デリゲートされたトークンを使用することによって発生するステーキング報酬から利益を得る。

「財団は当然、ブロックチェーンのネイティブトークンを大量に保有している」と、ポリゴンでバリデーターを実行している暗号資産ステーキング会社Stakinの共同設立者エドゥアルド・ラヴィダール(Edouard Lavidalle)氏は言う。

「彼らは、パフォーマンスと分散化を気にしながら、保有するトークンをステーキングし、ステーキングを分散させる必要がある」

しかし、ポリゴンがドラフトキングスにデリゲートしたステーキングの規模と、ドラフトキングスが報酬の100%を受け取るという取り決めは非常に異例だ。

11月14日(ドラフトキングスのバリデーターがネットワークから削除された1カ月後)には、ポリゴン財団が管理する1つのウォレットが、ネットワークにステーキングされた全MATICの13%近くを握っていた。

このウォレットは4億5400万MATICを26のバリデーターに分散させていた。これらのトークンの50%強は、手数料を徴収しないバリデーターにデリゲートされたもので、つまりポリゴンがすべての報酬を手にしたことになる。

残りのほとんどは、バリデーターが最大10%の手数料を取っていた。ポリゴンのMATICをデリゲートされていたバリデーターの中で100%の手数料を請求していたバリデーターはたったひとつ(Stake Capital)で、デリゲートされていたステーキングの規模はドラフトキングスの数分の1だった。

(C. Spencer Beggs/CoinDesk)

このグラフは、ドラフトキングスのバリデーターがポリゴンからデリゲートされたMATICによってどのように利益を得ていたかを示している。ドラフトキングスは異例のデリゲート規模で100%の手数料を受け取っていた。

昨年のほとんどの期間、ドラフトキングスのバリデーターは6550万MATICをステーキングしており、その91%はポリゴンからデリゲートされていた。残りのほとんどはドラフトキングス自身のMATICで、300万MATICはステーキングの報酬で獲得し、250万MATICは2022年3月の取引開始時にステーキングしていた。

ブロックチェーンのデータによると、ドラフトキングスは2021年10月初旬にポリゴン財団から、当時は320万ドル相当のMATICを受け取っていた。数週間以内に、2社はドラフトキングスがポリゴンベースのNFTマーケットプレイスをホストすると発表した。また、ドラフトキングスはバリデーターの実行にも門戸を開いた。

その5カ月後に実際にバリデーターの実行を始めたとき、ドラフトキングスは投資家に対し、ポリゴンのネットワークで報酬を得るために「保有するデジタル資産をステーキングする」と発表した。ドラフトキングスはポリゴンからトークンを受け取ったとは言っておらず、ポリゴンもトークンを送ったとは言っていなかった。

特別な関係

ポリゴンのドラフトキングスへの未公表のステーキング割り当て、そしてドラフトキングスがポリゴンにほぼ完全に依存していたことは、バリデーターが他のすべてのバリデーターと平等であるというポリゴンの説明を覆すものだ。

「ドラフトキングスは既存のバリデーターの中で対等なコミュニティメンバーとしてその地位を占め、コミュニティが運営する分散型コンセンサスネットワークを実現するという我々の願いを確固たるものにする」と、ポリゴンの共同設立者サンディープ・ネイルワル(Sandeep Nailwal)氏は2022年3月7日のプレスリリースで述べている。

この声明では、何百万ものトークンをドラフトキングスにデリゲートするというポリゴンの戦略については一切触れられていない。その時点で、すでに1000万MATICをドラフトキングスのために確保していたが、関係が終わるころには、その合計は6000万MATICにまで増えていた。

2022年11月から2023年10月中旬にバリデーターが追放されるまで、ドラフトキングスは合計320万MATICを引き出した。これは現在の価格で200万ドル強相当になる。この期間、ドラフトキングスは他のどのバリデーターよりも多くの報酬を獲得していた。これらの報酬は、ポリゴンの大規模なデリゲートがあったからこそ可能だった。ポリゴンからの6000万MATICがなければ、ドラフトキングスはその4%しか稼げなかったかもしれないと、validator.infoのデータは示している。

ドラフトキングスの収益は、ポリゴンのエコシステムにおける他のすべてのステーカーの犠牲の上に成り立っていた。ポリゴンネットワークは、年間限られた数のMATIC報酬しかステーカーに発行しない。ポリゴンからドラフトキングスにデリゲートされたトークンの少なくとも80%は、財団から直接提供されたもの、つまりそれまでにステーキングされていなかった。これらの新しくデリゲートされたトークンは、他のバリデーターが獲得できる報酬の量を薄めることになったた。

無用の長物への転落

ドラフトキングスがなぜポリゴンのバリデーターを放置したのかはわからない。しかし、オンチェーンでの手がかりは、ちょうど1年ほど前から両社のインフラ関係が変化し始めたことを示している。

2022年11月7日、暗号資産業界全体が混乱を迎えようとしていた。暗号資産取引所FTXで大規模な資金の穴が開いたという噂が渦巻いていた。FTXは数日のうちに破産を宣言し、創業者のサム・バンクマン-フリードCEOは逮捕され、後に詐欺罪で有罪判決を受けることになった。

この時点で、ドラフトキングスにはMATICの報酬が転がり込み続けていた。8カ月の間に、ドラフトキングスのトークン保有量は120%増加し、557万8691MATIC(当時630万ドル相当)にまで膨らんだ。ポリゴンの他のバリデーターで、同期間にこれだけの報酬を獲得したものはいなかった。そしてまた、他のどのバリデーターも、ポリゴンからデリゲートされた多くのトークンに対して100%の手数料を請求していなかった。

データサイトvalidator.infoによると、ドラフトキングスはリターンを増やすために、ほぼ毎日新しいMATICの報酬を計画的にステーキングしていた。そして、2022年11月7日に最後のステーキングを行った。それ以降、ドラフトキングスは報酬の引き出ししかしていない。

ドラフトキングスのバリデーターは、今年の9月まで1年近く稼動し続けたが、チェーンをチェックするという本来の仕事のパフォーマンスが低下し始めた。最初の警告、そして2度目の警告を受け、10月初旬には「最終通告」を受けた。自浄作用のあるポリゴンネットワークは、要件を満たしていないとして、まもなくドラフトキングスを追い出すことになる。

ポリゴンとドラフトキングスの別個のNFT契約はまだ有効だ。

ドラフトキングスへの「最終通告」

ポリゴンは10月19日、ドラフトキングスをバリデータープログラムから追い出し、その枠を暗号資産取引所Upbitに割り当てた。そして11月9日には、ドラフトキングスの廃止されたバリデーターから、6000万のMATICを手数料ゼロの別のバリデーターへと移した。

「私たちは、すべてのポリゴンバリデーターが従わなければならない標準的な手順に従って、私たちのバリデーターノードをポリゴンネットワーク上に復活させるために、第三者プロバイダーと協力している。これは、私たちの顧客に影響を与えることはない」と、この契約に詳しいドラフトキングスの従業員は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Wirestock Creators / Shutterstock.com
|原文:Polygon’s Secret Deal: Sending DraftKings Millions to Run Failed Validator