AIとDePINはWeb3を変える

暗号資産(仮想通貨)はインターネットマネーであり、インターネットはAI(人工知能)のためのものだ。

我々人類は、暗号資産のアービトラージやMEVボット、ソーシャルメディアのボットやアルゴリズムによるコンテンツフィード、生成AIによるアートやイラスト、そして我々の体験のバックグラウンドで動いているさまざまなWebアプリやその自動化ツールなどを認識することはほとんどない。

以前私は、AIは増えていく一方で、Web3は台頭しつつあるAIエコノミーのための正しい経済・金融の場であると述べた。もちろん、我々の多くもソフトウェアを多用しており、ソフトウェアサイボーグと呼ぶにふさわしい。

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私が立ち上げたジェネレーティブ・ベンチャーズ(Generative Ventures)は、2023年半ばから暗号資産、AI、フィンテックの交差点に焦点を当て、最先端の企業に投資してきた。

当社のマクロ的なテーゼは、投資を開始するのに十分説得力のあるものだったが、現場には現実があり、そのパターンも明らかになりつつある。

ここでは、すでに起きていることをさらに深く掘り下げ、このセクターを前進させるAIとDePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network:分散型物理インフラネットワーク)のトレンドについて説明したい。

オンチェーン/オフチェーン

最初の考察は、オンチェーンで起こることもあれば、オフチェーンで起こることもあるということだ。これは明らかなことだが、指摘しておく価値がある。

通貨の場合、ドルの銀行預金はオフチェーンで、ダイ(DAI)はオンチェーン。トークン化された現実資産はオフチェーンで、ラップドトークンやリキッドステーキングはオンチェーン。パスポートや運転免許証はオフチェーンで、POAP(ホープ:NFT化された参加証明)やNFTはオンチェーン。同じ概念(通貨、金融商品、アイデンティティ)を異なる場所で作ることができる。

AIも同様だ。AIはオフチェーンでありながら、ときおりWeb3に移動してアクションを起こす世界もあり得る。そのような場合、AIのためのオラクルやオン/オフランプのようなサービスが必要になる。

フィンテックをエンベデッド金融商品(PlaidやStripeなど)に駆り立てたのと同じ論理が、GPTに暗号資産市場で存在するために必要なAPIソフトウェアを与える可能性がある。

ChatGPTにとってのMoonPayは誰になるのか? そして、もしAIをトラストレス環境に引き入れるとしたら、どのようにしてAIを正直に保ち、そのアウトプットを検証するのだろうか?

市場には、ゼロ知識証明のような暗号テクノロジーを機械学習モデルの計算プロセスに取り込むことに取り組んでいるチームもある。

これによって、ある特定のロボットが本当にやるべきことをやったこと、バーニー・マドフ(大規模なポンジスキームを展開した詐欺師)のような人物にスプレッドシートで騙されていないことが証明される。

現在、このアプローチはまだ初期段階にある。しかし、将来的には、あなたが正しいブラックボックスとやりとりしていることを検証することの価値を理解できるようになるだろう。

また、LLMとニューラルネットワークを分散型インフラに移行する方法を考えている人たちもいる。

生成AIのムーブメントの多くは、暗号資産のようにオープンソースであるため、計算負荷を分散化するプロトコル上で多数のオープンソースモデルを展開・維持し、クラス最高の機械知能サービスを提供するインセンティブを生み出すことは概念的には可能だ。

この戦略を追求する有能なチームが複数あるにもかかわらず、これはまだ大部分がSFの世界だ。中央集権化されたAIチームでさえ、需要の形態や採算が取れる単位あたりの経済性を解明するまでには至っていない。現段階でこのようなサービスの提供をプロトコルやDAO(分散型自律組織)に分割することは時期尚早だと我々は考えている。

DePINの定義

AIテクノロジーを支えるもののひとつがDePIN(分散型物理インフラネットワーク)だ。最も単純なDePINは、より現代的なトークノミクスのアプローチではなく、コインプロトコルのインセンティブを使用する。

例えば、参加ノードはハードウェアストレージ、計算、GPU、またはトレーニングデータをネットワークに提供し、ビットコインのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)マイニングのように、自分のデバイスで行われた作業に対して報酬を得る。

ヘリウム(Helium)のように、ほとんどのDePINはコインのような機能から離れ、ブロックチェーンの上で実行されるdApp(分散型アプリ)のようなものになると我々は考えている。

Web3は、分散型ネットワークを展開するために中央集権型のクラウドサービスを活用したが、コストと需要を考えると、それが分散型AIに有効かどうかはわからない。

中央集権型AIプロバイダーは、プロトコルファーストの競合よりも効率的で、組織化されており、計算を多く必要とする。したがって、スケーラブルなDePINは、オンチェーン暗号資産AIにとって重要なリソースを解き放つと考えている。

DePINでもう1つ我々が気に入っているのは、AIをWeb3へとオンボーディングする点で、AIはDeFiとその自動化された金融商品、そしてサービスとしてのインテリジェンスへのアクセスを必要と考えられることだ。

遠い未来では、分散型の自動車が、さまざまなDAOによって維持され、トークンによってインセンティブを与えられたDePIN AIネットワークから、最新の自動運転モデルをダウンロードするかもしれない。この方向性を持った小規模の実験はすでに存在する。

さらに、さまざまな目標を持つAIエージェントの集団を接続し、標準化し、管理するためのフレームワークが出現し始めている。

Autonolasはそのようなプロジェクトの1つで、取引市場への参加やガバナンス手続きへの展開のためのボットを生成している。

単一のエージェントを理解したいのであれば、トークンのフィードバックループによってインセンティブを与えられ、DAOによってキュレーションされたアートを出力する生成的AIモデル、Bottoがある。

あるいは、トークンのインセンティブでデータサイエンティストのコンペを開催し、トレーディングソフトウェアブレイン向けのAIアルゴリズムを開発するヘッジファンド、Numeraiもある。

単純なもの、複雑なもの、そして計り知れないものなど、数多く登場してくるだろう。

AIサービスの範囲についても考察したい。あるシナリオでは、それはアプリケーションを改善するための狭い機能でしかない。例えば、保有するトークンや投資について会話する機能を備えるデジタルウォレットがある。

または、ウェブサイトに掲載された企業の年次報告書を、カスタマイズした財務GPTで照会できるようになるかもしれない。これは便利ではあるが、業界構造の変革は起きていない。

そうではなく、OpenAIが新しいiOSとなり、そのGPTストアが新しいアプリストアとなる世界もある。そうなると、OpenAIは、ウェブサイトに組み込まれた機械知能アプリケーションにアクセスするための主要な会話インターフェースとなる。

AIは単なる機能ではなく、さまざまな一般的な問題に対する解決策を提供する新しいプラットフォームとなる。このシナリオでは、暗号資産は多くのAI機能の1つとして包含される。

この場合、懸念されるのは、AIエージェントが基本的に集中管理され、単一のプロバイダーにカストディされることで、データ、プライバシー、ファイナンスにまたがる大規模な個人的リスクが生じることだ。

カストディは常にプリンシパル・エージェント(依頼人・代理人)問題につながる。エージェントはプリンシパルの利益と相反する行動をする可能性があるため、法律や規制によって受託者義務を強制しなければならない。ビッグテックの世界では、何らかの形で個人を保護するAI規制は避けられない。

AIエージェントとセルフカストディ

この危険に対するWeb3の対抗策は、情報のセルフカストディとAIエージェントのセルフカストディだ。おそらくGPTは中央集権化されたプラットフォーム上で生成されるが、学習モデルを暗号化ウォレットに引き込んで所有できる。

成功したオープンソースモデルが複数存在し、分散型インフラでうまく稼働しているものもある世界では、AIエージェントの暗号技術を使ったカストディと管理がWeb3の中核的な価値提案になると予想される。

現在、AI時代のデジタルメディアの出所を保証するプロジェクトは、この考えに近い。物事は本物であるべきであり、操作が及ばない状態でなければならない。

別の例としては、画像生成エンジンやLLMエンジンに付属したNFT発行システムが考えられる。これは、市場価値を持つAIの成果をサポートするものだ。

しかし、このようなアイテムをめぐる商取引は、NFT市場の低迷、AIのクオリティ、あるいはこのようなデジタル資産の実用性の低さのためか、今日でもごくわずかだ。

いかなる場合でも、起業家にとってこれは実に魅力的なデザインスペースだ。ジェネレーティブ・ベンチャーズを立ち上げて以来、我々は可能性を探求し、道を切り開こうとする技術者たちの創造的な多様性とエネルギーに驚かされ続けている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:How AI and DePIN Will Change Web3