ビットコインETFでは、ビットコインは決して「あなたのもの」にはならない

アメリカで承認されたビットコインETFはここ数週間、取引高やフロー指標から判断して、驚くほどの人気を集めている。しかし、ビットコインETFは、ピアツーピア取引を促進し、伝統的な仲介者を回避するという、ビットコインの真の有用性とは無縁だ。

暗号資産本来のメリットとは無関係

ビットコインETFの投資家は、ビットコイン価格へのエクスポージャーを得るだけ。決してビットコイン(BTC)を所有しているわけではない。

ETF参加者は、誰もが金融の所有権と主権を体験できるという、ビットコインが本来、象徴するものから利益を得ることはない。この理想は、ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトが15年前にビットコインのホワイトペーパーを書いたときに目指したものだった。

ビットコインETFの大きな問題点は、古いテクノロジーの上に構築された時代遅れの金融システムの機能を複製しているに過ぎないことだ。

仲介業者に依存することで、ビットコインETFは何十年もの間、金融の一部となってきたカウンターパーティリスクを再び呼び起こす。リーマン・ブラザーズや、最近ではFTXやシリコンバレー銀行がそうだ。これらは、伝統的なプレーヤーが顧客の資産を誤って管理し、一瞬で数十億ドルを消し去ったほんの数例に過ぎない。

暗号資産(仮想通貨)は、現在アメリカ人の9%しか満足していない、この欠陥だらけの古臭いシステムから抜け出す方法だ。ビットコインETFの投資家は、カウンターパーティリスクに直面するだけでなく、アメリカ中心の金融システムの枠組みの中に閉じ込められている。

一方、暗号資産の中核的な特性は、誰でもパーミッションレスネットワークにアクセスでき、比類のないレベルの分散化のメリットを受けられることだ。ETFには国境があるが、暗号資産はパーミッションレスであり、この2つは根本的に対立している。

秘密鍵を所有しない

重要なことは、ビットコインETFの投資家は暗号資産で本当に重要な「秘密鍵」、つまりユーザーがデジタルトークンの唯一の所有者であることを数学的に証明するアルゴリズムで生成された秘密のコードを所有していないことだ。

秘密鍵を所有することは、人々が暗号資産の世界と交流し、ビットコインを所有し、分散型金融に関与し、所有権と自由を持って分散型アプリを活用する唯一の方法。秘密鍵は金融の未来、そしてインターネットの未来への入り口。それはETFが決して提供できないものだ。

暗号資産の有用性に反するだけでなく、ビットコインETFが安全なセルフカストディという独立した選択肢よりも高価なことも忘れてはならない。

ビットコインETFでは、原資産を所有しないにもかかわらず、0.2%〜1.5%の手数料を支払う。さらに、セキュリティの必要性は、暗号資産を導入する個人と同様に企業プレーヤーにとってもきわめて重要だ。

顧客の資産を保護する責任を負う、ETFに携わる金融仲介機関は、FTXのような大惨事を避けるために、適切なセキュリティとガバナンスのフレームワークを採用しなければならない。

ビットコインETFに賛成

ということは、ビットコインETFは暗号資産にとって悪なのだろうか? とんでもない。暗号資産ウォレットを手掛ける私の会社Ledgerは、アンチETFではない。暗号資産の公の最終目標から逸脱しているが、ETFは複数の面でビットコインに貢献するだろう。

第一に、新規参入者にビットコインへのエクスポージャーをもたらすだけでなく、ビットコインを大きく普及させる可能性を秘めている。

実際、アメリカ国内で盛んに行われているビットコインETFの広告は、ETFがビットコインにとってこれまでで最も強力なマーケティングツールであることを浮き彫りにしている!

そのうえ、ビットコインが金融システムの最も高度な領域に受け入れられるようになったため、懐疑論者がビットコインを違法行為の道具と切り捨てることも難しくなった。

第二に、ビットコインETFは、過去何年にもわたって中央集権的取引所がそうであったように、暗号資産の「約束の地」であるセルフカストディへの入口としての役割を果たすに違いないと私は信じている。

何百万人もの人々がETFでビットコインに触れ、デジタル所有権の利点を学び、最終的に真のセルフカストディを選ぶという好循環が展開されるかもしれない。

興味深いことに、2004年以降、最初の金ETFが承認された結果、金の個人所有は妨げられず、むしろ人気を博した。

金融の自由への第一歩

ビットコインETFはまやかしの一種だが、非常に現実的なものであり、暗号資産の真の所有権と主権を約束するための足がかりとして利用すべきだ。

懐疑論者の信念に反してビットコインの未来は、単にETFのような投資商品に保管され、メインストリームの投資家がエクスポージャーを得るだけの投機的な資産になることではない。むしろ、デジタル所有権のルールを書き直し、価値交換を再構築するパラダイムシフトだ。インターネットが何十億人もの人にとって、情報交換の在り方を変えたように。

人々は今やっと、暗号資産革命がもたらすユースケースの幅広さを理解し始めたばかりだ。1990年代後半には、インターネットの真の可能性がほとんど理解されていなかったのと同じように。

この規模の革命はマラソンであり、短距離走ではない。ビットコインETFは、暗号資産が可能にする金融の自由への広範な道のりの一歩に過ぎない。メインストリームのユーザーが資産に対する真の主権を持つようになって初めて、暗号資産の真の可能性が実現するだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Ledger社が手掛ける暗号資産コールドウォレット
|原文:A Bitcoin ETF Will Never Be Your Bitcoin