ポリゴンラボ、スターバックスのWeb3進出に6億円支払い:関係者
  • ポリゴンラボ(Polygon Labs)は、スターバックス オデッセイ(Starbucks Odyssey)の展開に400万ドル(約6億円、1ドル150円換算)を支払っていた。NFTを活用したロイヤルティ・プログラム「スターバックス・オデッセイ」は、暗号資産を使ったビジネス開発の先駆的事例として話題を集めた。
  • この取引は、ポリゴンがその後放棄した「大型で派手な」ビジネス開発戦略の顕著な事例だったとこの件に詳しい関係者は語った。

企業は通常、提供されたサービスに対して技術ベンダーに報酬を支払う。スターバックスがポリゴンネットワークで展開した、間もなく閉鎖予定の取り組みで暗号資産に参入したときは逆だった。

ポリゴンラボは、ポリゴンネットワーク上でロイヤルティ・プログラム「スターバックス オデッセイ」を構築し、ホスティングする契約の一環として、2022年にスターバックスに400万ドル(約6億円)を支払ったとこの件に詳しい2人の関係者は語った。

この支払いによって、スターバックスとの提携を希望していた少なくとも3つのブロックチェーンエコシステムの提案は水泡に帰したと3人目の人物は語った。

今回明らかになったこの取引は、暗号資産がアメリカの消費者カルチャーに華々しく登場した(そして、その後大失敗した)ストーリーの起源に背景を加えるものだ。先週、スターバックスは、18カ月続いたオデッセイを閉鎖すると発表した。

またこの数字は、暗号資産でビジネス開発を行うためのコストを物語っている。2022年、ポリゴンラボはナイキやスターバックスといった、ポリゴンの知名度を高めるような有名企業とのパートナーシップを模索した。ビッグブランドがポリゴンを暗号資産への参入のスタート地点として使えば、巨大な顧客基盤がそれに続くはずだった。

だが、そうはならなかった。

「この種の大型で派手な取引は、過去の名残りであり、以前のリーダーの戦略だ」とポリゴンラボの今の考え方に詳しい人物は述べた。ポリゴン・ブロックチェーンの主要開発会社である同社は現在、パートナーシップよりもイノベーティブなテクノロジーを構築することに重点を置いているとその人物は語った。

オデッセイの起源

ポリゴンとの契約は、おそらくお金目的だけではなかっただろう。スターバックスは、オデッセイを展開するためのWeb3パートナーを見つけることに純粋に興味を持っていたようだ。パートナー探しは、かつてスターバックスのチーフ・デジタル・オフィサーを務めたアダム・ブロットマン(Adam Brotman)氏が共同CEOを務めるマーケティング・コンサルティング企業のフォーラム3(Forum3)が主導した。

ブロットマン氏は、2022年の初めにポリゴンやソラナと話をしたと当時を知る2人の人物は語った。長年のビットコイン支持者であるサムソン・モウ(Samson Mow)氏は、スターバックスにビットコインのレイヤー2であるリキッド・ネットワーク(Liquid Network)を選ぶよう働きかけたとCoinDeskに語っている。

フォーラム3はポリゴンの技術を選んだとポリゴンの元スタッフは述べた。だがこの契約には、助成金だけでなく、フォーラム3がスターバックスのロイヤルティ・プログラムを立ち上げることを支援するための広範な技術およびマーケティングサポートも含まれていたとその人物は語った。

取り組みの始まり

フォーラム3が今年1月に発表したケーススタディによると、スターバックス オデッセイは、同社の人気ロイヤルティ・プログラムを暗号資産を活用して再構築しようとするものだ。会員はタスクを完了することで「スタンプ」(収集可能なNFT)を獲得でき、スタンプを使って、コーヒーをテーマにした体験への招待や限定グッズなどの特典を得ることができる。

このロイヤルティ・プログラムはスターバックスにとって収益になると約束されていた。スターバックスはスタンプを1つ100ドルで販売。チェーン上のデータによると、スタンプの二次流通から25万ドル以上を稼いだようだ。

オデッセイは会員であるスタンプ購入者にも利益をもたらした。会員は、スターバックスが開設したストアやNFTマーケットプレイス「ニフティ・ゲートウェイ(Nifty Gateway)」でスタンプを販売できた。

フォーラム3のケーススタディは、オデッセイはスターバックスとそのファンのために「測定可能な金銭的価値」を生み出すことができたと評価している。フォーラム3によると、最初のオデッセイNFTシリーズ(セイレーン・コレクション)は18分で完売し、すぐに4倍のプレミアム価格で取引された。

多くのNFTがそうであるように、オデッセイにはその価値の可能性を信じて、大きく投資するコレクター・コミュニティが生まれた。その1人がベンチャーキャピタル、Nascentの共同創業者ダン・エリツァー(Dan Elitzer)氏だ。

エリツァー氏は1月のインタビューで「我々が通常行う投資に比べると、それほど大きな額を投資したわけではない」と語った。それでもオデッセイが初の大規模なNFTロイヤルティ・プログラムとして存続すれば、オデッセイNFTは長期的な価値を持つと信じていたと同氏は述べた。

スターバックスがオデッセイを閉鎖すると発表する前から、NFTの価値はストレスにさらされていた。3月15日のオデッセイ閉鎖の発表前に販売されたセイレーンNFTのフロア(最低入札)価格は215ドルだった。19日、買い手は最大86ドルを提示し、売り手は最低165ドルを望んでいた。

以前はWeb3企業と自称していたが、同社のウェブサイトによると、その後はAI(人工知能)に軸足を移しているフォーラム3の代表者たちはコメントの要請に応じなかった。

オデッセイの終わり

スターバックス オデッセイは、招待制の「ベータ」プログラムとして18カ月間運営され、ニッチなファンを育てることに成功した。活気あるディスコードサーバーとともに、NFTを取引するカルト的な支持者を生み出し、支持者たちはソーシャルメディアでプログラムを盛り上げ、ポイント獲得の戦略を立てるためのTipsサイトまで作った。

先週、スターバックスが突然、オデッセイの終了を発表したとき、コミュニティは衝撃に包まれた。CoinDeskが確認したメッセージのスクリーンショットによると、メンバーは悲しみや怒り、切ない思い出のメッセージを交換し合っていた。

暗号資産コンサルタントで、オデッセイのメンバーでもあるブライアン・ケイン(Bryan Kayne)氏は「時間とお金を費やしてきた者として少し動揺していることは確かだが、全体的には大企業の方針転換について理解しているし、スターバックスがコンセプトをテストしてくれたことをうれしく思っている」とCoinDeskに語った。

スターバックスの担当者は、CoinDeskへのメールで「我々は、このプログラムの将来に我々が学んだことを適用することを楽しみにしている」と述べた。だが、その将来について、またWeb3での取り組みを継続するかどうかについては詳しく説明していない。

「ポリゴンとの関係、そしてポリゴンがスターバックス オデッセイに貢献してくれたことを高く評価している」と担当者は続けたが、ポリゴンとのビジネスパートナーシップをめぐる金銭については言及しなかった。

旧ポリゴン、新ポリゴン

スターバックスとの取引は、ライアン・ワイアット(Ryan Wyatt)氏のリーダーシップの下、ポリゴンが追求した高飛車で、ビッグネームを前面に押し出した取引スタイルの典型だった。2人の関係者によると、ワイアット氏は2022年初頭から2023年半ばまでポリゴンラボのプレジデントを務めていたが、更迭された。

「現在のポリゴンラボを見ると、この9カ月の間にマーケティング的価値よりも、ZK(ゼロ知識証明)技術やオンチェーンにより直接的なインパクトを与える取引に焦点を当てるテクノロジー企業にシフトしている」と関係者は述べた。

このシフトはまた、暗号資産に触れていないオーディエンスを対象に、Web3プロダクトを構築することの難しさを反映している。何人かのユーザーとオデッセイ支持者たちは、オデッセイは暗号資産ウォレットを持っていない人やブロックチェーンを理解していない人、つまり多くの人(すなわち、ほとんどのスターバックス顧客)に向けて作られたと語った。

スターバックスとの取引に携わったポリゴンの元スタッフは、オデッセイが閉鎖されることに驚きはないと述べた。

「私の意見では、Web2を追求することは愚か者のすることだ」「暗号資産ネイティブのストーリーは、うまくやれば十分に大きい」

ワイアット氏は、現在勤めているOptimism Unlimitedの広報担当者を通じてコメントを避けたが、ポリゴンを去った後に行った講演では、スターバックスとの取引のマーケティング価値を強調していた。

「我々は、人々がポジティブなストーリーを求めている非常に良いポジションにいたので、多くの取り組みが大きな効果を発揮した」と同氏はポリゴンを去った数カ月後の2023年9月、暗号資産投資会社Variantとのインタビューで語っている。「有名ブランド」とのパートナーシップは、ポリゴンが「信頼性を確立する」ことに役立ったと同氏は語った。

ポリゴンがパートナーシップに助成金を組み合わせたことはよくあることで、そうしたことは暗号資産業界では一般的だったと元スタッフは語った。ワイアット氏も2022年12月にCoinDesk TVで同じように語った。

「すべてのプロトコルがお金を支払って取引をしている」

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:GoToVan/Wikimedia Commons, modified by CoinDesk
|原文:Polygon Labs Paid $4M to Host Starbucks’ Failed Foray Into Crypto: Sources