ビットコインETF、ウォール街にとって始まりに過ぎない【Future of Bitcoin】

ビットコイン現物ETFやその前のビットコイン先物ETFについて息をつかせない報道が続いているが、誰もが重大な点について見て見ぬふりをしている。

ビットコインETFは、投資の最先端であるかのような印象を与えながら、実際には手数料を徴収する簡単な方法であり、私やあなたがビットコイン(BTC)を所有することをこれまで以上に難しくし、DeFi(分散型金融)がもたらす脅威に対処する方法をウォール街が見つけ出すまでの間、問題を先送りにしている。

実際、今回の強気相場が始まる直前に発表された調査レポートでは、アメリカ人の約3分の1(32%)がDeFiプラットフォームを利用したことがあることが明らかになった。さらに、中国(26%)とインド(25%)の人口の4分の1がDeFiプラットフォームを利用したことがあるという。年初からのTVL(預り金)とDeFi取引高の伸びを考えれば、この数字がさらに大きくなっても不思議ではない。

あざとい態度の豹変

暗号資産(仮想通貨)業界のベテランなどは、ビットコイン現物ETFの必要性やその意義に長い間疑問を呈しており、サトシ・ナカモトがビットコインのホワイトペーパーを書き、最初の暗号資産を生み出した理由そのものに反するとさえ主張してきた。

とはいえ、ほとんどの人は単純な事実を見落としている。ビットコインがウォール街を必要としている以上に、ウォール街がビットコインを必要としている。

ビットコイン現物ETFは、暗号資産がビジネスモデルに与える影響を恐れていることを金融大手が認めたことの現れであり、国家が暗号資産の出現により、グローバル経済において権力と支配力を喪失することを恐れていることと同じだ。

金融大手は以前、暗号資産を潰そうとして失敗した。例えば、JPモルガンのジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOは先日、ビットコインを喫煙に例え、詐欺が横行しているので自分では決して買わないが、他の人が買う権利は守ると述べた。ダイモン氏は、ビットコイン価格は100万ドル(1億5000万円、1ドル150円換算)に達するとまで予想した。

今年初めにはビットコインをペット・ロック(石をペットに見立てた玩具)に例え、昨年末にはもし自分が政府関係者なら「暗号資産業界を閉鎖する」と議会で証言していたこととは打って変わって、劇的な態度の転換だ。

今、何が起こっているのか理解できるだろう。

万事休す

このような姿勢をとった理由は2つある。ひとつは、ダイモン氏とその同世代の人々は1980年代に株式市場のデジタル化を経験しており、現在進行中の変化の大きさを理解している。彼らは、(年配の)忠実な顧客を維持するために、ゴールポストをできるだけ遠くに置きたいのだ。

その一方で、銀行の幹部たちはまた、中央集権的な企業をオープンプロトコルに置き換える移行の過程で相当の儲けが出ることを知っており、できるだけ長く利益を得たいと考えている。

金融会社は、避けられない事態を遅らせると同時に、若い世代が自分たちのニーズによりよく応える、より低コストで即時性の高い優れたプラットフォームに軸足を移す前に、顧客から最後の1ドルまで搾り取ろうと全力を尽くしている。

個人が自分の資産を自分で管理できるようになれば、手数料は不要になる。さらに、保有者が自らの保有資産を完全にコントロールできるようにもなる。暗号資産を通じて、人々はこれまで金融機関だけが提供していたさまざまなサービスに、金融機関を介さずにアクセスできるようになっている。

資産運用会社がビットコインを買い占め、取引所での供給量を減らしている規模は、最高に荒唐無稽と思えた予測をも上回っており、ETF発行会社はすでに次はイーサリアム(ETH)に狙いを定めている。もしETFの発行がそこで終わると思うなら、ETFに転換する前のグレイスケール(Grayscale)のGBTCと同じような仕組みの暗号資産を保有するさまざまなファンドのことを思い出してほしい。

思い出される過去の記憶

1971年にナスダックがスタートしたとき、多くの人はその可能性を見落としていた。1991年までに、ナスダックはアメリカの株式取引高の半分近くを占めるまでに成長。現在ではNYSE(ニューヨーク証券取引所)に次ぐ世界第2位の取引所となり、世界の大半の取引所は立ち会い取引所を閉鎖するか、かろうじて維持している。

ダイモン氏は1982年、祖父と父の跡を継ぎ、株式ブローカーとして金融のキャリアをスタートさせた。同氏は、ウォール街へのフィンテックスタートアップの侵入について語ったことがある。

ダイモン氏はまた、ナスダックの立ち上げと、ブローカーがトレーディングフロアから離れ、コンピューターの前に座わるというトレンドの火付け役となった、1984年のSuperDOT(NYSEが電子ルーティングを全面的に見直したシステム)のローンチによるNYSEのデジタル化によって引き起こされたイノベーションとその結果生じた激変をよく覚えているだろう。

しかし今回は、こうした進歩の恩恵は選ばれた一部の人たちではなく、多くの人が享受できる。

50年前のほとんどのフロアトレーダーは、終わりの時が来るとは思っていなかっただろう。今回、ダイモン氏をはじめとする守旧派は、手数料の引き下げ、アクセスの拡大、コントロールの拡大を目の当たりにし、自分たちのキャリアの始まりに何が起きたかを思い出したに違いない。

彼らは我々が進もうとしている道筋を理解している。いくら二枚舌を使っても進む道は変えられない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Chenyu Guan/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Spot Bitcoin ETFs Are Just the Beginning for Wall Street