ETF承認の熱狂は、ビットコインにはウォール街が必要なことを示した

暗号資産(仮想通貨)の世界が待ち望んでいた瞬間だ。米証券取引委員会(SEC)はついに、アメリカ初のビットコイン現物ETF(上場投資信託)を承認した。

このメインストリーム向け投資商品は、ウォール街からの脱却というビットコインの当初の目標と相反するものだろうか? もちろん、そうだ。

そして、そのようなETFが暗号資産の成長には必要なのか? こちらもイエスだ。暗号資産業界は、単独ではメインストリームに到達することができずにいた。

明らかな矛盾があるにもかかわらず、暗号資産コミュニティの多くが、ビットコインETFを何年も待ち望んできたのはそのためだ。

SECは次々と申請を却下してきたが、最近になって潮目が変わった。何がビットコイン価格を押し上げているのか確かなことは誰にもわからないが、ETFをめぐる強い高揚感はかなり確かな要因だろう。

ビットコインは2023年に160%近く上昇し、ここ半年だけで50%上昇した。この急上昇はETFへの期待によって引き起こされたと広く認められている。

サトシ・ナカモトが目指したもの

ここで、多くの人が見て見ぬふりをしている問題について話をしよう。

ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトは、金融機関への依存を減らすために、世界初の暗号資産を開発した。ビットコインの発明は、2008年の金融危機とそれに関連した銀行システムに対する信頼の崩壊を受けたものだった。

ビットコインのホワイトペーパーの一番最初の文章は、「金融機関を通さずに、ある当事者から別の当事者へのオンライン決済を可能にする、純粋なピアツーピア版の電子現金」を思い描いている。

言い換えれば、ビットコインは「ETFではないもの」を目指して作られている。

ETFは、投資家が株式市場を通じて従来の証券口座でビットコインに投資できるようにするものだ。ETFを申請している機関投資家には、ブラックロック(BlackRock)、グレイスケール(Grayscale)、フィデリティ(Fidelity)など、まさにサトシ・ナカモトが排除したかった「金融仲介者」が含まれている。

そして、暗号資産マキシマリストお気に入りのフレーズに「not your keys, not your coins(鍵を保有していない限り、あなたのコインではない)」がある。

これは基本的に、例えば自分のウォレットではなく暗号資産取引所のウォレットにビットコインを保有している場合、そのビットコインは本当の意味で自分のものではないことを意味する。

ETFは、さらにもう1段階の乖離をもたらす。ETF投資家は実際のビットコインを買っているわけではなく、ビットコイン価格に投資しているだけだ。

そして最後に、サトシ・ナカモトは「仲介コストは取引コストを増加させる」と警告した。ビットコインETFは確かにこの問題を解決しない。その代わりに管理手数料がかかり、たとえ競争によってすでに一部の発行企業の手数料が下がっていると言っても、グレイスケールの手数料は最高で1.5%にのぼる。

では、なぜ暗号資産の世界はETFに興奮しているのだろうか? ETFは、そのために我々が戦ってきたとされる「分散型の未来」からかなり遠い。

価格上昇とメインストリーム普及

もちろん、単純な答えは価格だ。一部の例外を除いて、この業界の大部分はいまだに暗号資産価格の気まぐれな動きに非常に弱い。

市場が低迷すれば、ベンチャーキャピタルは関心を失い、スポンサーや広告予算は減少する。消費者向けのサービスは、新規ユーザーの獲得が難しくなる。さらに、さまざまなアルトコインはビットコインに追随して上昇したり下落したりする傾向がある。

今回のビットコインの上昇は、大手金融機関とSECのおかげと言えるだろう。しかし、業界はあまり文句を言っていない。

メインストリーム普及に関する議論もある。つまり、現物ETFが承認されれば、暗号資産取引所に口座を開設したり、スマートフォンでウォレットをセットアップしたり、自宅のコンピューターでノードを実行したりすることが面倒な新規投資家が殺到することになる。

より基本的なレベルでは、ブランド力のある機関投資家が市場に参加することで、暗号資産を詐欺と結びつける投資家を安心させることができるかもしれない。

ETFのおかげで、暗号資産コミュニティは、2023年に続出したサム・バンクマン-フリード氏関連のニュースから解放され、比較的ポジティブなメディアの注目を数週間享受している。

信頼の証

ETFが本当にもたらすものは、より高い信頼性だ。この場合、ウォール街の関与は政府の承認が条件となる。SECが「市場操作」の懸念から何年もETFを拒否してきたにもかかわらず、今回、ようやく承認したことは、ビットコインを最も激しく批判してきた1人であるSECのゲーリー・ゲンスラー委員長が、不本意ながらも暗号資産をある程度受け入れたことを示している。

理論的には、暗号資産は政府から独立しているため、SECの存在はそれほど大きなものではないはずだ。しかし現実には、「クリプト・ツイッター」コミュニティは、ゲンスラー委員長の言動のほとんどに注目している。

とはいえ、ゲンスラー委員長の業界に対する明らかな反感は、規制の明確性の欠如や業界の主要プレーヤーに対する訴訟の数々となって表れているが、業界を消滅させたわけではない。

また、世界の他の地域、特にアジアで暗号資産がブームになることを止めたわけでもない。しかし、その代償は大きい。

SECの訴訟に何年も巻き込まれる暗号資産会社もある。また、世界最大の経済大国であり、資本と人材の主要な供給源であるにもかかわらず、アメリカを完全に避けることを選択する企業もある。

暗号資産には、ある程度の政府の承認が必要だ。またウォール街の関与も必要だ。暗号資産の未来は西部開拓時代のようなものではなく、世界で最も厳格な規制を持つ日本、香港、シンガポールのようなものだ。

分散型プロジェクトを構築することはそれだけで十分に難しいが、敵対的な規制当局、慎重な投資家、警戒心の強い消費者が存在することになる弱気市場ならなおさらだ。ウォール街のカルチャーが暗号資産業界を定義するのではなく、より多くの暗号資産プロジェクトが成功するための信頼性のお墨付きとなることを願う。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:ETF Euphoria Shows Bitcoin Needs Wall Street After All