オプティミズム「スーパーチェーン」はレイヤー2の勝者か

- Optimismは、主要レイヤー2ネットワークの1つで、独自ブロックチェーンの構築を目指すクライアントや企業に、自社技術「OP Stack」の採用を促している。
- その戦略の一環として、OPトークンを助成金として大規模に提供。関係者は、助成金はさまざまなプロジェクトがOP Stackを使って開発をスムーズに進めることに役立つと述べた。
- とはいえ、Optimismがレイヤー2競争の勝者となったかどうかを結論づけるのは時期尚早だろう。
このところ精彩に欠けた感のあったイーサリアム・ブロックチェーン。最新アップグレード「ペクトラ」完了後に、イーサリアム(ETH)が20%上昇したことで、トレンド転換を期待する声も出てきている。
すでに旧聞に属する感もあるが、ペクトラ以前ではイーサリアム・レイヤー2(L2)における「ブロックチェーン・イン・ア・ボックス」の登場が1つのトレンドとなっていた。つまり、自分たちのコードを複製して、新しい(=類似の)レイヤー2ネットワークを立ち上げることを促すパッケージ化されたブロックチェーン・ソリューションの登場だ。
現時点では、あるプロジェクトが先行者として抜け出しているようだ。そして、ブロックチェーン開発ではよくあることだが、舞台裏で資金がどのように動いているかが重要な要素となる。
OptimismとOP Stack
主要L2ネットワークの1つであるOptimism(オプティミズム)は、独自ブロックチェーンの構築を目指す企業やクライアントに対して、同社の技術「OP Stack(OPスタック)」の採用を促している。OP Stackはオープンソース・ソフトウェア・ライセンスの下で提供されている。
2023年、OP Stackを使った最初の大型クライアントとなったのは、米暗号資産取引大手Coinbase(Coinbase)のBase(ベース)だ。さらにUniswap(ユニスワップ)、Kraken(クラーケン)などもOP Stackを採用。2024年1月にメインネットローンチを発表したソニーグループの「Soneium(ソニューム)」もOP Stackを使っている。
これは、広くブロックチェーン業界の進化においては重要な展開だ。イーサリアム・エコシステムにおいては、取引を迅速かつ安価にする取り組みとして、L2ネットワークは位置づけられている。
イーサリアムは、ビットコイン(BTC)に次ぐ時価総額No.2のブロックチェーン。そしてスマートコントラクト・ネットワークとしてブロックチェーン業界を牽引している。つまり、プログラムを実行し、アプリケーションをサポートするネットワークであり、DEX(分散型取引所)やレンディング・プラットフォームの基盤として支配的ポジションを占めている。そしてL2ネットワークは、イーサリアム上に存在する補完的なネットワークとして、取引を迅速かつ低コストで実行し、その結果をベースチェーンに戻す。最終的な決済はベースチェーンが実行する。
Optimism財団による戦略の一環として、採用を促すためにOPトークンを大規模な助成金として提供することがあげられる。関係者によると、トークンはさまざまなプロジェクトがOP Stackを使った開発を始めることを後押しし、また、OptimismのSuperchain(スーパーチェーン:OP Stackで構築され、相互接続されたチェーンの総称)や、OptimismのガバナンスシステムであるCollective(コレクティブ)への貢献にもつながる。
最終的な目標は、ライバルが挽回不可能な規模に到達することであり、1980年代にビデオテープ技術としてVHSがベータを圧倒したような事例に近いだろう。
Krakenへの助成金
例えば、Krakenへの助成金はかなりの規模となっており、CoinDeskが報じた通り、約4250万ドル(約61億円、1ドル144円換算)に相当する2500万OPトークンが提供された。KrakenのL2ネットワークは「Ink(インク)」と名付けられている。
Worldcoin(ワールドコイン)から名称変更したWorld(ワールド)やUniswap、ソニーの担当者は、助成金の額についてのコメントを控えた。だが、KrakenのInk責任者アンドリュー・コラー(Andrew Koller)氏によると、他のプレーヤーも大量のトークンを受け取ったという。
Optimism財団の関係者は、助成金の額の開示は各プロジェクトに任せていると述べた。
業界として透明性をアピールする中で、助成金について明らかにしないことには疑問の声もある。
Optimism財団の広報担当者はCoinDeskに対し、同エコシステムはその財務状況について透明性を維持していると述べ、Krakenとの取引は「パートナーシップ基金」の一環で、「チェーンの初期開発を支援するために特定のプロジェクトに提供される」と説明した。
Optimismの財務および助成金の内訳
2024年9月30日付のデータでは、約8億4100万OPトークンがこの種の助成金とされ、そのうち約4億8000万OPトークンがすでに割り当てられていた。残りは約3億6100万OPトークン。
OP StackでL2ネットワークを構築している小規模なプロジェクトもトークンを受け取っている。Celoのガバナンスフォーラムは、OP Stackでの構築にあたって最大650万OPトークンを受け取ることを発表しており、ビットコインに焦点を当てたBOBプロジェクトが本記事執筆時点で交渉中していた案件は50万OPトークン規模とのことだ。
BOBへのトークンは、OptimismのDAOの一部であるGrants Council(グランツ・カウンシル)が提供したもので、Optimism財団とは別の基金だ。規模拡大を目指すプロジェクトは、同カウンシルに助成を申請することができる。
また、各プロジェクトはRetroactive Public Funding Goods(RPFG:レトロアクティブ・パブリック・ファンディング・グッズ)という基金にも助成申請が可能だ。本記事執筆時点でRPFGは860万弱のOPトークンを保有していた。「OptimismおよびSuperchain全体のオンチェーン・インパクトに対して報酬を提供する」とオプティミズム広報担当者は述べた。KrakenのInkのようなプロジェクトもRPFGの資金を受けることができる。
では、Optimismはレイヤー2競争に最終的に勝利したのだろうか。助成金戦略の効果はあったのだろうか。
Optimism財団の広報担当者はCoinDeskに対して「この業界における多くのエコシステムと同様に、私たちは助成金をプロジェクトや開発者を支援する手段と考えている。全体にとってROI(投資収益率)に寄与する、共通の成長マイルストーンを達成することによって割り当てが得られる。私たちは全員で協力してイーサリアムの未来をスケールアップしており、Superchain内のチームが成功すれば、イーサリアム・コミュニティ全体に利益をもたらす」と述べた。
OP Stackはレイヤー2の勝者か
同財団のグロース責任者ライアン・ワイアット(Ryan Wyatt)氏はCoinDeskのインタビューで、「OP Stackがレイヤー2スケーリングにおける事実上の標準として採用され始めていることは非常にうれしいことだが、それを勝利と呼ぶべきかどうかはわからない」と述べた。
OPトークンは2024年第3四半期に65%も下落したものの、Polygon(ポリゴン)のMATIC(70%下落)、Arbitrum(アービトラム)のARB(72%)といった他の主要L2トークンに比べるとまだ下落幅は小さい。
ワイアット氏は「レイヤー2を立ち上げるなら、OP Stackを選ばざるを得ないという状況にまで達しているかどうかを判断するのは、まだ尚早だろう。しかし、大企業や大手金融機関がこの分野に参入して、レイヤー2を立ち上げようとする場合、『なぜOP Stackを選ばないのか』という方向に向かうはずだ」と続けた。
Arbitrumの主要開発企業Offchain Labs(オフチェーンラボ)のようなライバル企業は、自社技術の採用を促すために異なる手法を取っている。
Offchain LabsのCEOスティーブン・ゴールドフェダー(Steven Goldfeder)氏はCoinDeskに対して「対外的な発表を優先する戦略もあれば、実際のオンチェーンの成功と指標を優先させる戦略もある。私たちの戦略は、実際のユーザーと開発者を後押しし、新しいものから既存のものまで、多様で興味深いユースケースを支えるリアルなテクノロジーを構築することだ」と述べた。
KrakenのInkがOP Stackを選んだ理由について、Ink責任者のコラー氏は「エンジニアリングのリソースを最も効果的に使えるかどうかが決め手」と述べた。
「セキュリティやプロトコルのアップグレードを心配したり、自分でそれを管理するよりも、リソースを効率的に使って良質なUXやツールを提供し、クライアントをオンチェーンに移行させ、アプリケーションを作り上げたい。これが本当に重要な点だった」とコラー氏は語った。
さらに「ユーザー体験に焦点を当てるために、複雑なブロックチェーン運営について心配しなくなかった。それが、Optimismを選んだ明確な理由だ」と付け加えた。
|翻訳:T.Minamoto
|編集:増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Is Optimism’s ‘Superchain’ Winning the Ethereum Layer-2 Race?