非金融リアルワールドアセット(RWA)のトークン化──世界と日本で広がる“資産運用革命”【N.Avenue club 2期11回ラウンドテーブル・レポート】

リアルワールドアセット(RWA)のトークン化が世界で拡大しつつある中、特に非金融領域──不動産、美術品、知的財産(IP)、カーボンクレジット、高級消費財(ワイン、時計ほか)──において、ブロックチェーンを活用した新たな資産管理・資金調達の動きが加速している。

国内でも、RWAトークン化への関心は高まりつつあり、各地でさまざまなプロジェクトが生まれている。

Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、法人会員制の国内最大Web3ビジネスコミュニティであるN.Avenue clubは5月29日のラウンドテーブルを「非金融領域におけるRWAトークン化」をテーマに実施。新たなビジネスチャンスと、日本企業にとっての実践的な可能性などを議論した。

N.Avenue club」は国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを通して、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指している。

ラウンドテーブルは、会員のみに向けたクローズドなイベントのため、ここではその一部をレポートする。

農産物市場のオンチェーン化目指すAgriDexが実現したコストカットの事例

〈AgriDexのエドワード・モンクトン氏〉

ブリーフィングセッションは、世界の農産物市場のオンチェーン化を目指すRWAプラットフォーム・AgriDexの創業者ヘンリー・ダックワース氏が登壇する予定だったが、急きょCSOのエドワード・モンクトン氏が代打出演。AgriDexの創業の経緯などを説明した後、その特徴について解説した。

AgriDexはソラナ(Solana)基盤のRWAプラットフォームで、様々な農作物をトークン化することで世界の農産物市場のオンチェーン化を目指している。分断されたさまざまなサプライチェーンをオンチェーン化してつなぎ、手数料と時間のかかる取引・決済をスピーディーに行えるようにしている。

モンクトン氏が例示した、ガーナにおけるカカオの貿易のユースケースでは、ユニリーバと小規模農家への支払いタームを短縮化、カカオを担保に入れることでキャッシュフローが改善でき、20万ドル・10%程度のコスト削減につなげたという。

ぷらっとホームが実験したWeb3による日本酒の品質管理

〈ぷらっとホームの鈴木友康氏〉

1993年創業のぷらっとホームは、1996年に国内で初めて自社Linuxサーバーを出荷開始するなど、日本のインターネットを作ってきたといえる企業だ。PCやサーバーをネットにつなげるだけでなく、IoTも手掛け、社会インフラから各種産業まで、あらゆる分野でセンサーなどコネクティビティを提供。その中でブロックチェーンに着目している。

実証実験で、日本酒の輸出に向けた物流にWeb3を活用。世界的に注目されている日本酒だが、課題は温度をはじめとした品質管理で、これをWeb2の技術で行うとコストがかかりすぎる。そこで日本酒を一瓶ずつトークン化(Thingsトークン)。日本酒にラベルを貼付、一定の温度を超えるとインクが黒から赤になって分かる仕組みにするなどして、低コストでの温度管理ができることが確かめられたという。

BONSAIのトークン化、実は日本の文化を踏襲した取り組み

〈オンラインで参加した間地悠輔氏〉

海外でも「BONSAI」として注目されている盆栽には、国外への検疫配送、配送、管理コストのほか、枯死のリスクもある。そこでBONSAIのNFT化に取り組んでいるのが、BONSAI NFT CLUB。登壇した代表の間地悠輔氏(まじすけ株式会社代表取締役CEO)は、2023年ごろから始めた「BONSAI NFT GALLERY」について紹介した。

これは、盆栽に所有権がひもづいたNFT発行、盆栽は管理はプロがする仕組み。盆栽には江戸時代くらいから「預かり」という文化があり、いい盆栽をいい盆栽師に預けて、自分の盆栽を盆栽園に観に行くのは珍しくないそうだ。

またBONSAI BANKという取り組みは、BONSAI COINを預けた量が多い人に盆栽が届く仕組みで、投資目的で購入した人の中にも、盆栽の沼にハマったという人が生まれているという。

カーボンクレジットの細分化で経済活動との両立を目指すPUC

〈PBADAOの堀井紳吾氏〉

次に登壇したのは、株式会社PBADAO代表取締役の堀井紳吾氏。同社が手掛けるPUCは、RWAとしてトークン化されているカーボンクレジットを細分化して、エコシステムの中で運用するプロトコルだ。

カーボンクレジットの取り組みが広がりつつある中で、課題として考えられているのが、運用自由度が低いこと、カーボンオフセットコストに限らず、ESG、CSRなどは、コストに比して財務パフォーマンスを出しづらい側面がある。

PBADAOが目指すのは「経済と環境の両立」。カーボンクレジットの運用自由度を上げ、事業インパクトを生み出すエコシステムを組成しようしている。

「グラウンドの1平米オーナー×NFT」鎌倉インテルの取り組み

〈鎌倉インターナショナルFCの勝碕俊行氏〉

最後に、鎌倉をホームタウンとする神奈川県リーグ1部所属のサッカーチーム・鎌倉インターナショナルFCのオーナー室、勝碕俊行室長が登壇した。鎌倉インテルは「CLUB WITHOUT BORDERS」を理念に掲げで、「Jリーグに上がろう」というより「チームやクラブが皆が関われるハブになること」を目指しているクラブ。

サッカーグラウンドの建設のために行ったクラウドファンディングでは、熊本城再建で採用された「一口城主」という切り口を参考に、1平方メートル分のオーナーを募集した。

さらにオーナー権を仮想的に発行した「鎌倉スタジアムNFT」プロジェクトも実施。6528平方メートルあるサッカー場の各1平方メートルとひもづくNFTを発行、自分の保有区画がゴール・アシストにつながったらリワードがもらえるといった取り組みなどについて紹介した。

非金融RWAトークン市場の成功条件と具体的なビジネスアイデア

ラウンドテーブルの後半は、参加者全員が7つのテーブルに分かれてディスカッションした。掲げられたテーマは「サステナブルな非金融RWAトークン市場の、成功条件は?」と「具体的な非金融RWAトークン市場の、アイデア」で、参加者らはいずれかのテーマを選んで議論を交わした。

7つのテーブルからは、「成功には、金銭的なリターンがあることが欠かせない」「アセットの裏付けとなる価値づくりにこそ注力すべき」といった意見のほか、「アスリートのトークン化」などのアイデアも出た。

N.Avenue clubは、国内外のゲスト講師を招き、毎月、開催している「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に活動する、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指す会員制のコミュニティだ。ラウンドテーブルのほかにも、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」なども行っている。

N.Avenue club事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。

|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑