なぜビットコイン・カルチャーの象徴になったのか──ジャック・ドーシー【前編】

なぜビットコイン・カルチャーの象徴になったのか──ジャック・ドーシー【前編】

ツイッターの共同創業者は2019年、ビットコインテクノロジーに大きく賭け、フェイスブックとリブラの閉鎖的なアプローチからは距離を置いた。彼はいつかビットコインがインターネットのネイティブ通貨となることを願っている。

ビットコイン・コミュニティへの貢献

ジャック・ドーシー氏はシリコンバレーにおいてビットコイン・カルチャーを象徴する人物となっている。

ツイッターの共同創業者でスクエアのCEOを務めるドーシー氏は、マーク・ザッカーバーグ氏よりも親しみやすく信頼でき、ポップスターの彼女を持ち、大麻を吸うイーロン・マスク氏よりもバランスが取れている。

フェイスブックのリブラ協会に参加するかと聞かれると、ドーシー氏は次のように答えた。

「絶対にノー」

その代わり、異なるアプローチに賭けている。ボーダーレスでパーミッションレス(非許可型)の資産、ビットコインだ。

2019年3月、ドーシー氏はビットコイン・エコシステムに対するオープンソースでの貢献に厳格に特化した新しい組織「スクエア・クリプト(Square Crypto)」を発表した。スクエア・クリプトは即座に、グーグル、フェイスブック、ライトニング・ラボの人材や、ビットコイン・コア(Bicoin Core)の開発者マット・コラーロ(Matt Corallo)氏を獲得した。

FAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)に匹敵する企業で、ビットコインから単に利益を上げるだけではなく、ビットコインそのものへの貢献にここまで投資している企業は他にない。

「銀行をもっと利用しやすいものにするためのチャンスがあると信じている」とドーシー氏は2019年11月、筆者の電話取材に対してそう答えた。

「ビットコインがその目的と規模を実現すれば、我々はそれらすべてを活用するための柔軟性を維持する。それが我々の狙い」

誠実なコミットメント

ドーシー氏のビットコインへのコミットメントは誠実に思える。ビットコインをテーマにしたポッドキャストを運営し、2019年2月にライトニング・トーチ実験でドーシー氏に少額のビットコインを直接渡したマット・オデル(Matt Odell)氏は、ドーシー氏はトランザクションを適切に行うことを強く主張したと述べた。すなわち、複数のプロセスで「フルノード」になるということだ。

それが世界中で同じ量の少額のビットコインをリレー式で渡していく「トーチ」の核心だった。ご都合主義の参加者の中にはウォレットやトランザクションのためのディレクトチャンネルを使う者もいた。しかしドーシー氏は違った。

「彼はフルノードを運営している」とオデル氏は語った。

「彼は(トランザクションは)フルノードを使っている必要があり、私もフルノードを実行している必要があると言った。(中略)そのことは彼が正しいことを示していると思う。そしてもし、彼がのちに我々に敵意を示すことがあれば、我々はビットコイン愛好家として我々のヒーローを倒す」

公共の場で恥をかかせるというこの脅しはドーシー氏にも効いている。彼はビットコインについて注意深く、慎重に語る。我々のインタビューの間にも、私の質問を数回繰り返し、答える前に明確さを求めることがあった。

ドーシー氏は、ビットコインの背後にある「哲学」に惹かれていると語り、正体を明かさないままでいる生みの親を称賛した。ドーシー氏はビットコインをグローバル、かつ検閲に対抗できる通貨と考えている。

「ビットコインは、スクエアが真のインターネット(ネイティブ)企業として機能し、市場から市場、パートナーからパートナー、規制域から規制域へと移動するのではなく、全世界が利用できるサービスをローンチすることを可能にしてくれる」とドーシー氏は繰り返た。彼はインターネットに適用されている恣意的な境界線にうんざりしていた。

こうした考えから、ドーシー氏は2020年、より多くの時間をアフリカで過ごす計画で、多くのビットコイナーと会うつもりであることを公に発表している。

「現在ビットコインはグローバル通貨の最良バージョンであり、我々がより早く動くことを可能にしてくれる。そのため我々はビットコインが通貨としての地位を確立することをあらゆる手段でサポートしようと考えている」とドーシー氏は語った。

競合サービスに寄付?

オデル氏が述べたように、ドーシー氏はビットコイン・コミュニティーに対して自分自身を証明するために「口先だけではなく行動で示している」。

スクエア・クリプトは2019年9月、BTCペイ(BTCPay)と呼ばれる決済処理プロジェクトに10万ドルを寄付した。BTCペイは事業者が独自のビットコイン・フルノードを運用することをサポートしている。

この寄付はスクエアを決済企業と捉えている人には直感に反するものに思えるかもしれない。しかし、スクエアが部分的にスポンサーとなっているポッドキャストを運営するオデル氏は、ドーシー氏はBTCペイのサイファーパンクな目標は、厳しい規制を受けたフィンテック企業であるスクエアと競合しないことを認識していると語った。むしろ、2社の利害は並立する。

「2社はそれぞれ全体を大きく成長させ、それぞれがそこから利益を得る」とドーシー氏とBTCペイを支えるボランティアの双方に言及してオデル氏は述べた。

「ビットコインを真に理解し、その普及を促進しようとしている(著名な)CEOはほかにいない。(中略)本当にそうしている人物はほかにいない」

ビットコインなライフスタイル

その動機が利益であれ理想主義であれ、あるいはその両方の組み合わせだったとしても、ドーシー氏は自身の企業をビットコインエコシステムにおける柱と位置づけている。

ツイッターは多くのビットコイン愛好家にネットワーク作りと情報収集のプラットフォームとして好まれている。またスクエアの「キャッシュ」アプリは2019年第4四半期だけでビットコインから1億7800万ドルの収益をあげた。2018年は年間で1億6600万ドルで、「キャッシュ」アプリは誰もが羨ましがるような成長を遂げた。

しかしこの分野では、多くの人物がより多くのお金をより短期間で稼いできた。だが金額がドーシー氏に大きな影響力を与え、称賛に値する人物にしたわけではない。

ドーシー氏は、スクエア・クリプトはビットコインを公益として改善し、維持する役割のみを負っていると語った。

ドーシー氏は、腕のタトゥー、パンクミュージック、断食、そして全身を黒で固めており、「ビットコインなライフスタイル」のシンボルと言えるかもしれない。だが同時にビットコイナーとしばしば(誤って)結び付けられる、銃を携えた自由主義の肉食系のステレオタイプとはまったく違う。

かつての夢はニューヨーク市長

ドーシー氏は個人的に、大統領候補にもなったアンドリュー・ヤン氏などさまざまな民主党の政治家に献金を行っている。さらにドーシー氏は政治的・社会的制度を実現するためのアイデアを生み出す独立系シンクタンクのベルグラン・インスティテュート(Berggruen Institute)の顧問も務めている。

大学は中退したが、在学中は政治学にほとんど集中し、ニューヨーク市長になることを夢見ていると報道陣に語ったことでも知られている。しかし彼は今、政治家としてよりも、自身の事業によって世界により影響を与えることができることを理解している。結局のところ、彼の新しい夢はビットコインのグローバルな普及を促進することだ。

ドーシー氏はまた、ジョルジオ・アルマーニのモデルを務めた元カトリック系学校の生徒であり、シェイクスピアを読むことを恥ずかしそうに自慢する。ビットコイナーはそうした上級階級の象徴を嫌悪するかもしれない。だがドーシー氏のサイファーパンクな人たちの間での評判を疑う者はいない。

おそらくその理由の1つは、大げさな自慢屋ばかりの業界の中で穏やかな話し方をするドーシー氏は外部からの承認欲求を求めるばかりの人物ではないとして際立つからだろう。

ドーシー氏はインタビューでは、片足をさりげなくもう一方の膝に乗せ、背筋を伸ばしてインタビュアーの方を向いて座る。彼の両手を使ったジェスチャーはさりげなく、丁寧。黒いフード付きのパーカーとパンツは清潔できちんとしており、ハッカソンに集まる、だらしない服装の人たちとは違う。

ドーシー氏のカリスマ性とは

シリコンバレーのビットコイナーとしてドーシー氏を際立たせているのは、ロックスターというよりも小説家のような穏やかさ、そしてパフォーマンスに頼らずに注目を集めるカリスマ性だ。

「彼のまわりには禅的なものが漂っている」とライトニング・ラボのCEO、エリザベス・スターク氏は述べた。

「きわめて優秀な人たちの中に身を置く術を知っていて、彼らに力を与える。私はその点をとても尊敬している。彼は好奇心旺盛で、学ぶことに熱心、そしてアイデアやフィードバックを求めるのが好き」

こうしたことがドーシー氏をビットコイン業界で最も影響力を持つリーダーの1人にしている。ビットコイナーは個人的な誠実さのサインに価値を見出し、それ以外の男らしさよりも尊敬している。

だが謙虚さと誤解してはいけない。単に(42歳としての)成熟のサインかもしれない。

彼は苦しい状況をくぐり抜けてきた。10年以上前、ドーシー氏は他の3人のツイッターの共同創業者との間のきわめて政治的な権力抗争に巻き込まれ、最終的にCEOとしてトップに立ち、自身をツイッターの生みの親として描いたと伝えられている。

ニューヨーク・マガジンはこの「耐え難い歌姫」の時期を「女性を追い回し」「ディオールを着てスティーブ・ジョブズを真似」して言い争い、世界中を遊び歩いていた時期と要約した。ドーシー氏はすでに、一部の仮想通貨業界の大物たちが高潔さを重視するビットコインコミュニティに自らを認めさせたくなる富と名声にうんざりしているのかもしれない。

「ビットコインコミュニティーはきわめて高い信念を持ち、変わっていて、気高いと常に思っていた」とドーシー氏は述べた。

シリコンバレーのビットコインキングになるはるか以前から、ドーシー氏は典型的なサイファーパンクのバックグラウンドを持っていた。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Jack Dorsey Is Stacking Sats


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