各国が感染者追跡を急ぐなか、中米ホンジュラスはプライバシー優先モデルを提示

各国が感染者追跡を急ぐなか、中米ホンジュラスはプライバシー優先モデルを提示

新型コロナウイルス危機は間違いなく、持続的な影響をもたらす。だが一部の対策は、他よりも影響が小さいかもしれない。

国民のIDとブロックチェーン記録を紐づけ

イスラエルや中国などでは、国民の位置情報や健康記録をデジタルで追跡する緊急の新型コロナウイルス対策を行っているが、ホンジュラスの起業家はブロックチェーンを使い、プライバシーを重視した手法を開発した。

スタートアップ企業のエマージ(Emerge)はモバイルアプリ「シビタス(Civitas)」のローンチに向けて、米州開発銀行、テック企業のペンタ・ネットワーク(Penta Network)、そしてホンジュラス政府の緊急対応部門と連携している。

アプリは、国民の政府発行ID番号を、遠隔診療や外出許可証に利用できるブロックチェーン記録に関連づける。ホンジュラスのロックダウン地域には、現在約320万人が住んでいる。

「症状が出ている人をいかに外出させるかをうまく管理するためのもの。ID番号の最後の数字によって、いつ外出できるかが決まる」とエマージのルシア・ガラルド(Lucia Gallardo)CEOは語った。

遠隔診療で診断

イスラエルと同様に、ロックダウン地域にいるホンジュラス国民は、封鎖規則に違反した場合、罰金や刑事罰を科される可能性があるとガラルド氏は述べた。同氏によると、首都テグシガルパでは、決められた時間に特定の用事のためのみ外出が許されている。

毎週、決められた時間帯、例えば月曜日と水曜日の午前7〜9時に、該当するカテゴリーに属する人々が、日用品の買い物に行ったり、許可なしで外出できる。それ以外に通院などで外出するには許可証が必要となる。

エマージは、まず約2万5000人のホンジュラス国民を対象にシビタスを展開し、以後、感染が確認された国内18地域すべてに迅速に拡大していく。

シビタスを使うことで、体調が悪い場合には、ホンジュラス国立大学の医療専門家に相談し、症状が新型コロナウイルスに関連したものかを見極めてもらうことができる。

症状が認められた人は、新型コロナウイルス治療に特化した施設に送られる。他の入院患者などへの感染を防ぐためだ。

「保健所は、新型コロナウイルス治療に特化した病院に割り当てられたことを証明する許可証を認証する」とガラルド氏は述べた。

「通院する場合は、病院に行くたびに記録され、すべてシビタスIDに結び付けられる。個人の生活の全履歴ではない。遠隔治療を開始してからの履歴だ」

ブロックチェーン機能

シビタスのブロックチェーン記録は、特に公衆医療システムの腐敗が批判されている地域において、複数の機能を果たす。

シビタスの記録は、少なくとも電子的には容易に改変や否定できないため、耐検閲性は公衆医療の新たな選択肢に対する信頼を確立することに役立つ。

貧しかったり、弱い立場のマイノリティーであったとしても、この記録は、ユーザーが、いつ、どこで治療を受けられる権利を持っているかを示す。治療を受けていないユーザーを見逃すことはない。

医師がアプリをスキャンすると、遠隔診断サービスを通じて記載された症状やメモを見ることができ、治療を効率化する。

最終的には、外出の買い物スケジュールなども統合する計画で、ID番号と雇用のタイプに基づいて、スケジュールは自動化される。最も重要な点は、このデータは医療システム以外には共有されないことだ。

「政府が医療記録を見ることはない。これは医療提供者のための患者の記録。警察は記録を見ることはできない。(許可証では)警察は、その人物がその時間帯に外出を許されているかどうかを確認できるだけ」

封鎖に違反している人を警察が監視したい場合は、付近をパトロールする必要がある。このアプリは位置情報を追跡したり、SNSでの継続的な記録を保管しない。

社会信用度スコアはなく、中国の追跡プログラムやイスラエルでNSOグループが取り組んでいるプログラムとは違う。シビタスは、緊急アラート、遠隔診断、認証などに使われるものだ。

「インターネットに接続できない人は、テキストメッセージを通じてアプリとやり取りできる」とガラルド氏は述べた。

世界の取り組み

さまざまな緊急対策が、各国で法律上の問題を提起し、まだ対策を策定中の国に教訓を与えている。

国連は、言論の自由に関する懸念にもかかわらず、緊急時の通信手段では、ウィーチャット(WeChat)の親会社テンセント(Tencent)など、新型コロナウイルスについての情報を検閲していることで知られる中国のテック企業に大きく依存している。

しかし、イートロ(eToro)のCEOで、イスラエルにいるヨニ・アシア(Yoni Assia)氏の見解では、少なくとも監視プログラムは、既存の政府権力を公に認めたに過ぎない。

「政府がそうした大規模監視を行っていなかった、あるいはそのような能力を以前は持っていなかったと考えるのは世間知らず」とアシア氏は述べた。

「今回唯一違うことは、国民の安全を保つために、政府が人々にデータに関与することを望んでいること」

エマージもイスラエルのテック企業NSOグループも、ウイルスを封じ込めるために国家規模の追跡プログラムの実行に積極的な、複数の政府と交渉している。

「他国、特に新興市場の国で実行するためのカスタマイズは、最小限のもので済む」とガラルド氏は述べた。

アメリカ

アメリカでは、アップルやグーグルなどの企業がトランプ政権の濃厚接触追跡プログラムの開発にかかわっている。

特にグーグルは、すさまじい量のユーザー行動データを保有している。ニム・テクノロジーズ(Nym Technologies)のハリー・ハルピン(Harry Halpin)CEOによると、よりプライバシー重視の追跡モデルを研究している企業もあるが、そのような取り組みは政府と連携しておらず、まだ理論段階だ。

プライバシー専門家は、こうしたプログラムの長期的影響を懸念している。しかし、法律事務所アンダーソン・キル(Anderson Kill)の弁護士プレストン・バーン(Preston Byrne)氏は、アメリカ国民には、他国にはない可能性の高い法的保護が存在すると述べた。

「特に携帯電話の位置情報については、アメリカではプライバシー保護をかなり期待できる」

IPアドレス、携帯電話のテキストメッセージやEメールのメタデータのような加入者データについて、企業は「死亡や深刻な負傷を伴う緊急時など、非常に限られた場合を除いて、これらの通信内容を自発的に政府に提供する自由はない」とバーン弁護士は付け加えた。

つまり、アメリカ国民は通常、どのアプリを使うかを選択でき、アメリカ警察は、台湾で起きたと伝えられたように、携帯電話がオフになっていたからといって個人宅を調べるために、大規模監視を利用することはできない。

イスラエルでさえも、どの組織がデータにアクセスし、収集できるかについて、裁判所が決定を下した。ちなみに、ヘブライ語で「盾」という意味の名前を持つイスラエルの消費者向けモバイルアプリはオープンソースであり、誰でも検証することができる。

仮にアメリカ政府が同様のソフトウエアを採用した場合、国民には接続ツールを選び、オープンソースのアプリを使う権利がある。バーン氏によると、プライバシーの権利を裁判所で守ることもできる。

ホンジュラスに話を戻すと、ガラルド氏は、技術者は特定のことを具体的に行い、他のタイプのデータ収集を許さないようにソフトウエアを設計すべきと述べた。

プライバシーを主張するために裁判を待つのではなく、こうすることで将来、政府が一線を超えることを防ぐことができる。

「もし将来、新型コロナウイルスに対する免疫を持っているかどうかで、人々があなたをどう見るかに影響を与えるとしたら、どうなるだろう?」とガラルド氏は語った。

「これは設計に際して、最初から自問している問題だ」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Emerge
原文:As Governments Rush to Track Coronavirus, Honduras May Offer a Privacy-First Model

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