ヘッジファンドのルネッサンス、ビットコイン先物に参入へ──得意の数学的手法を活用か

ビットコインは有力ヘッジファンドから認められた。規制当局への申請書類から、ルネッサンス・テクノロジーズが取引商品に現金決済型のビットコイン先物を含めることを検討していることが判明した。

ルネッサンスは世界で最も秘密に包まれ、かつ最も成功した資産運用会社として知られている。同社は今回の申請書類の内容について、コメントを控えた。

ルネッサンスのような企業が原資産としてのビットコインにどのようにアプローチするのか?投資の専門家に意見を聞くことは興味深い。ルネッサンスは無数の資産の中からパターンや異常を見つけるために、驚くような数学的手法を使うことで高い評判を得ている。

世界最高クラスの物理学者と数学者

数学者のジェームズ・シモンズ(James Simons)氏は1978年、ロングアイランドの小規模なショッピングセンターの中でルネッサンス・テクノロジーズを創業した。当初は、モネメトリックス(Monemetrics)と名乗っていた。

ルネッサンスは、データサイエンスや機械学習が主流になる前から、これらに取り組んでいたことで知られており、世界最高クラスの物理学者と数学者を抱えていると言われている。

デジタル資産取引プラットフォームB2C2の創業者マックス・ボーネン(Max Boonen)氏は、ルネッサンスのアプローチの複雑さを強調しながら、最も利益を出している取引シグナルの中には同社も理解できないものがあるというルネッサンスの元チーフ、ロバート・マーサー(Robert Mercer)氏の有名な発言に触れた。

「ルネッサンスは純粋な時系列データに基づいて予測を立てることはできるが、シグナルが機能する、あるいは機能しない理由について強力な経済的論拠を必ずしも持つ必要はない」とボーネン氏は述べた。

「実際、そうしたアプローチは、今の段階のビットコインには、かなり適切なものかもしれない。なぜなら、ビットコイン市場の動きを理解することは、ときに非常に難しいから」

「普通の錬金術」

データサイエンティストのクラウドソース・ネットワークによって構築されたヘッジファンド、ヌメライ(Numerai)の創業者リチャード・クレイブ(Richard Craib)氏は、AI(人工知能)を使って、チェーン上の取引をチェックし、暗号資産業界のニュースから別の可能性を秘めたデータを探り出しすことで優位に立とうとするスタートアップ企業に出会ったと語った。

しかしクレイブ氏は、ルネッサンスがそこまでするとは考えておらず、彼が「通常の錬金術」と呼ぶことを代わりに行うと考えている。

「ルネッサンスや同様の企業は、時系列データの扱いが非常にうまく、すでにトウモロコシ先物や原油先物を理解しており、それらすべての市場で取引を行っている」とクレイブ氏は指摘した。

「だから、ビットコインについて彼らが何かテーマを持っているとは思わない。彼らがビットコインの買いポジションのようなものを取るとは思えない。だが、ビットコインに取り組む価値は間違いなくある」

ルネッサンスのような企業がビットコイン専門部署を持っていると考えるのは魅力的なことだが、既存モデルに単に追加しているだけのようだとクレイブ氏は付け加えた。

「彼らは、プライスボリュームデータだけで何ができるだろうか、という感じで見ているのだろう。なぜなら、彼らの多くの戦略は、新たな代替的なデータセットは必要としないから」

ビットコインは単なる道具?

デリバティブデータプラットフォーム、スキュー(Skew)のエマニュエル・ゴー(Emmanuel Goh)CEOは、ビットコインはルネッサンスにとって、おそらく「単なるもう1つの道具」に過ぎないという意見に同意した。

「彼らはすべてのヒストリカルデータを利用し、あらゆる種類のモデリングを行い、何か興味深いパターンがあるかどうかを見ていく」とゴーCEOは語った。

さらに「ビットコインのデータセットは、他よりも少し小さい」と付け加えた。

ルネッサンスの今回の申請は、デリバティブ市場は多くの人々が金融商品についての意見を表明する場であることを示すさらなる証拠とゴーCEOは付け加えた。

「我々は、CMEの先物契約でどれくらいの取引があるのかを追跡し、意味のあるレベルまで増加すれば、それがより多くの人が市場に参入していることを意味するのかを見極ていく」とゴーCEOは語った。

ビットコインは最近、数多くの小国の通貨よりも取引高が大きくなっている。しかし、B2C2のボーネン氏は、ビットコイン市場がルネッサンスにとって価値があるほど大きくなるかどうかには、まだ疑問があると述べた。

「ビットコインはまだ、かなり小さな市場だ。かつてほど小さくはなく、取引高は大きくなっている。しかし、現在のビットコイン市場は、ルネッサンスにとってリスクを冒す価値があるほど大きいのかは疑問」とボーネン氏は述べた。

「デリバティブ取引を行うだろうが、それでも、通常資産の取引よりもおそらくリスクは大きい」

かなり小さな相関関係

また、ルネッサンスのビットコイン先物への参入は、ビットコインの他の金融システムとの相関関係という観点から、何を意味するのかを考えることにも価値はある。

この疑問は、ビットコインがS&P500とともに下落した、新型コロナウイルスによる市場急落によって浮き彫りとなった。

ルネッサンスのようなファンドの観点からは、ビットコインは相関関係が依然としてかなり小さな資産、とヌメライのクレイブ氏は述べた。

「ビッグファンドが、相関関係がなく、多くの取引ができる流動性の高い市場を見つけたとしたら、取引しないわけにはいかない。新たな収益源を持つことは、運用成績に非常に貢献する」とクレイブ氏は述べた。

取引できる商品が多ければ多いほど、より優位に立つことができるとクレイブ氏は述べた。ルネッサンスは、あらゆる国、あらゆる経済セクター、あらゆるコモディティで機能するモデルを作るという目的を持っている。

「そうすれば本当に何かを手にすることになる。1日に100万の予測を行い、その半分以上を当てることができる。それはルネッサンスが望む以上のことだ」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:‘Long Bitcoin’ It Ain’t: Crypto Traders Make Sense of Renaissance Filing