米議会が公聴会で「デジタルドル」──コロナで露呈した米国の金融システムの限界

米議会が公聴会で「デジタルドル」──コロナで露呈した米国の金融システムの限界

米下院金融サービス委員会(FSC)が6月11日に開いた公聴会で、「デジタルドル」を取り巻く問題に対して、複数の参考人はさまざまな立場から意見を述べた。

ブロックチェーンを使ったデジタルドルの実現を主張したのは、米商品先物取引委員会(CFTC)の元委員長で、現在はデジタルドル・プロジェクト(Digital Dollar Project)のディレクターを務めるJ・クリストファー・ジャンカルロ( J. Christopher Giancarlo)氏。

同氏はトークン化はドルの未来を約束するという従来の主張を繰り返し、中国をはじめとする各国は通貨のデジタル化に取り組んでおり、アメリカが今後も、世界の金融システムにおけるリーダー的役割を維持したいのであれば、この問題に取り組むべきと議員たちに語った。

ジャンカルロ氏はこれまで、新型コロナウイルスによる景気刺激策とデジタルドルを「同一の視点で考えるべきではない」と述べてきたが、公聴会では、デジタルドル実現に向けた基礎固めは、新型コロナウイルス対策の一環とすべきと強調。

「今回の新型コロナウイルスの感染拡大ほど、現行の金融システムの限界を何よりも明確にしたものはない。何千万人ものアメリカ人が小切手による給付金の受け取りを1カ月以上待っている」とジャンカルロ氏は言う。

「我々は、既存の技術と並行して、次のレベルの技術の検討を始める必要がある。現行システムにより大きな冗長性をもたせるだけでなく、このような危機の際に利用できるツールを手に入れる絶好のチャンスだ」

しかし、他の参考人は、経済刺激策の支払いを迅速化するという緊急課題に焦点をあて続けた。過去2年間に税金の申告を行った人には給付金を配布済みだが、多くの人にはまだ届いていない。

「私が強調したいことは、我々はまだ危機の中にあり、他の参考人も繰り返し語っているように、多くの人たちは今日も苦しんでいるということだ」とElectronic Transactions Association(ETA=電子決済協会)のジョディ・ケリー(Jodie Kelly)CEOは発言した。

「そのためには、今あるツールを利用する方法しかないことを明確に認識してほしい」

デジタルドル以外のシンプルな代替手段

すでに実績のあるプリペイド式デビットカード、およびペイパル(PayPal)やベンモ(Venmo)のようなピアツーピア(P2P)アプリケーションは、給付金を迅速に分配するための手段として利用できるとケリー氏は主張する。ETA加盟企業は、年間8兆5000ドル(約910兆円)を処理している。

「特にプリペイド式デビットカードは、低所得者層への支払いに適している。使いやすく、スマートフォンも不要」と同氏は公聴会後にCoinDeskの取材で語った。

ブロックチェーンの利用に関して、カリフォルニア大学アーバイン校ロースクールのメルサ・バラダラン(Mehrsa Baradaran)教授は、議論は時期尚早だと話す。

「どのようにしてユーザーを集め、使ってもらえるようにするのか? ここでの問題は、銀行サービスの欠如であり、銀行口座を持たない人たち、十分な金融サービスを受けられていない人たちだ。我々はそうした人たちのニーズに合う技術を持っており、現時点では、そのことが重要だと考えている」

トークン化しなくても、デジタルドルの構築は難しくないと主張するのは、ヴァンダービルト大学ロースクールのモーガン・リックス(Morgan Ricks)教授。リックス教授は長く、FedAccount(アメリカの中央銀行であるFRBが消費者に直接提供する口座)の実現を主張してきた。

FedAccountの設定はかなり簡単に実現できるはずだと、リックス教授は公聴会で述べた。FRBはすでに銀行、大手金融機関、政府機関に口座を提供している。

「FRBは数十年にもわたって、FedWireシステムを使ってリアルタイムの即時決済を処理している。FRBは設立当初から口座を開設している」

「新たなスタート」

公聴会の大部分は、トークン化されたデジタルドルのコンセプトに焦点があてられた。共和党のパトリック・マクヘンリー下院議員はジャンカルロ氏に、デジタルドルが銀行サービスを受けられない多くの人にインターネットを通じて金融サービスを提供しようとする「金融包摂(フィナンシャル・インクルージョン)」、および給付金に配布にどのように役立つかを説明するよう求めた。

ジャンカルロ氏は、トークン化されたデジタルドルは金融包摂を実現する手段になり得るもので、ブロードバンドアクセスが最大の問題であり、解決すべき課題であると答えた。

銀行サービスを受けられていない地域の住民がブロードバンドアクセスを手にすれば、銀行サービスへのアクセスは「解決できない問題ではない」。デジタルドルは「金融システムへの入り口になり、可能な限りシンプルかつ簡単に、金融システムへのアクセスを提供する」(ジャンカルロ氏)

同氏はその実現には、スマートフォンの普及が新たな障害になる可能性を認識しているが、その問題を解決すれば、金融包摂の実現はより簡単になると述べた。

公聴会に先立ち、デジタルドル・プロジェクトのディレクターで、アクセンチュアのマネージャーでもあるデビッド・トリート(David Treat)氏はこのような議論が行われることは大きな励みになると語った。

「我々は今、デジタルワールドのためにお金を現代化する取り組みを始めようとしている。この取り組みには何度もイノベーションの波が来ることを我々全員が認識できれば、皆が恩恵を受けることになると考えている」とトリート氏は話した。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:Digital Dollar? Get Real, Financial Inclusion Advocates Tell Congress

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