【特集】アメリカでブームを巻き起こすDeFiとは──急成長はバブルか、それとも持続可能か(後編)

アメリカの暗号資産市場でいま注目を集めるDeFi(分散型金融)は、かつてのICOを彷彿させるかのブームを巻き起こしている。そして、DeFiの市場成長を牽引するのが「イールドファーミング」だ。基礎知識を整理した前編に続き、この記事ではイールドファーミングのからくりを紹介する。

イールドファーミングとは?

イールドファーミングとは、暗号資産を使って可能な限り多くのリターンを得る取り組みのこと。最も単純なレベルでは、イールドファーマーは週ごとにコンパウンド内で資産を動かし、最高の年利を提供しているプールを追い求めている。

だが、トークン化されていることで、さらなる取り組みが可能になる。

簡単に説明すると、イールドファーマーは10万USDTをコンパウンドに預け入れる代わりに、「cUSDT」と呼ばれるトークンを受け取る。

その後、cUSDTをバランサー(Balancer=自動マーケットメーカーとしても機能する自動ポートフォリオ管理アプリ)で受け取る流動性プールに入れる。平時なら、これで取引手数料を少し多く稼ぐことになる。

ユーザーは可能な限り多くのサービスを使い、可能な限り多くの金利を稼ぐために有利な条件をシステム内で探す。しかし、今は平常時ではない。おそらく、しばらくの間は違うだろう。

なぜ今、イールドファーミングが注目されているのか?

原因は「流動性マイニング」だ。流動性マイニングがイールドファーミングを加速している。

流動性マイニングとは、イールドファーミングを行う「イールドファーマー」が流動性(ファーマーの資産)と引き換えに、通常のリターン(これが「マイニング」の部分)に加えて、新しいトークンを手に入れることを言う。

「プラットフォームの利用促進がトークン価値の上昇につながり、それによってユーザーを引きつける利用の好循環が生まれるというアイデア」とスマートコントラクト監査を手がけるクォントスタンプ(Quantstamp=サッカー選手の本田圭佑氏が出資したことでも知られる)のリチャード・マ(Richard Ma)氏は述べる。

上記のイールドファーミングの例は、プラットフォームの通常の運用から金利を稼ぐものに過ぎない。コンパウンドやユニスワップに流動性を供給し、少しの分け前をもらう。きわめて普通の話だ。

ガバナンストークンの配布

しかし、コンパウンドは今年はじめ、サービスを真に分散化させ、利用促進に貢献したユーザーに相応の所有権を付与する考えを明らかにした。所有権とはガバナンストークン「COMP」だ。

これは利他的に思えるかもしれない。だがコンパンドを作った人たち(チームと投資家)が株式の半分以上を所有していることは忘れないで欲しい。

所有権をユーザーに提供することで、融資サービスとしての人気が高まったと言えるだろう。人気が高まれば、皆が持つ株式の価値は高くなる。

コンパウンドは4年間にわたって毎日、一定量のガバナンストークン「COMP」をなくなるまでユーザーに配布すると発表した。COMP保有者は株主が上場企業をコントロールするように、コンパウンドをコントロールできる。

毎日、コンパウンドはお金を提供した人(コンパウンドに貸した人)と借りた人をチェックし、その日のビジネスの状況に応じてCOMPを配布する。

驚くべき状況

結果はコンパウンドにとっても、驚くべきものになった。大量のお金が集まった。

貸し手と借り手の双方にCOMPが配布されるため、ユーザーはコンパウンドにお金を預け(通常はUSDC)、コンパウンドからお金を借りた(通常はUSDT)。そして借りたUSDTをUSDCに変え、再び、コンパウンドに入れた。さらにこれを繰り返した。

これはまったく新しい稼ぎ方になった。非常に奇妙な話だ。お金を借りて、貸し手からリターンを得るという話が今までにあっただろうか?

6月15日に配布が開始されて以来、COMPの価格は一貫して200ドルを上回っている。我々の計算によると、かなりの資産を持つ投資家はCOMPで日々、大きなリターンを得ることができる。ある意味ではタダで。

コンパウンドにお金を貸し、コンパウンドからお金を借りて、さらにそれを預け入れる。この作業を繰り返す──DeFiスタートアップのインスタダップ(InstaDApp)は、この作業を効率化するツールを作成した。

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追随する競合他社

「イールドファーマーはきわめてクリエイティブだ。彼らは金利を積み上げる方法を見つけ、一度に複数のガバナンストークンを手に入れることさえある」とDTC Capitalのスペンサー・ヌーン(Spencer Noon)氏は述べた。

COMPの急騰は一時的な状況だ。配布は4年のみで、その後の配布はない。さらに現在の高値は、COMPが市場で自由に取引できないことも影響しているだろう。

したがって、価格はおそらく徐々に下落していくはずだ。だからこそ、経験豊富な投資家は今、できるだけ多くの利益を得ようとしている。

熱心な暗号資産トレーダーの投機的本能に訴えることは、コンパウンドの流動性を高める素晴らしい方法となった。一部の人に利益をもたらすことに加え、コンパウンドユーザーのUX(ユーザーエクスペリエンス)を向上させる。

暗号資産業界では普通のことだが、誰かの成功はすぐに真似される。

バランサー(Balancer)も流動性の提供者にガバナンストークン「BAL」の配布を開始。フラッシュローンを提供するbZxも同様の計画を発表し、Ren、Curve、SynthetixはCurveでの流動性プールを推進するために連携した。

流動性マイニングはCOMPから始まった?

そうではない。

議論の余地はあるが、流動性マイニングの起源はおそらく2018年に、取引を行うことで報酬を得られるトークンを作成した中国の暗号資産取引所Fcoinに遡る。

そして何が起こったかは容易に想像できるだろう。ユーザーはトークンを獲得するためにボット(自動化プログラムの一種)を動かし始めた。

こうした取り組みは暗号資産ユーザーがインセンティブにいかに素早く反応するかを示した。

Compound Labsがガバナンストークン「COMP」の作成を決めた時、同社はユーザーにどのようなインセンティブを与えるかの設計に数カ月をかけた。それでも結果は予想外だった。

ユーザーは少しでも多くのCOMPを手に入れようと、それまで人気のなかったサービス、例えばBAT(ベーシックアテンショントークン)の融資サービスに殺到するなど、意図しない事態を生み出した。

ビットコインでもDeFiは可能?

ビットコインでもイーサリアムブロックチェーン上であれば、DeFiは可能だ。

リターンではビットコインに勝るものはないが、ビットコインにはビットコインだけでは不可能なことがある。つまり、より多くのビットコインを作り出すことだ。

賢いトレーダーは、ビットコインやドルを活用して、より多くのビットコインを獲得することができる。だが、面倒でリスクが高い。

だがDeFiはビットコインを増やす方法を提供する──多少、間接的ではあるが。

例えば、ユーザーは暗号資産決済企業ビットゴー(BitGo)のWBTC(Wrapped BTC)を使って、イーサリアムブロックチェーン上で擬似的なビットコインを生成できる。WBTCはいつでもビットコインと交換できるため、基本的にはビットコインと同じ価値になる。

ユーザーがWBTCをコンパウンドに預け入れると、毎年数%の利回りでビットコインを稼ぐことができる。一方、WBTCを借りる人はおそらくビットコインをショートすることが目的だろう(つまり、すぐに売り、価格が下がったら買い戻してローンを解約し、差額を得る)。

リスクは?

リスクは小さくはないだろう。

「DeFiは、デジタル通貨の品揃えと主要プロセスの自動化、プロトコルを超えて機能する複雑なインセンティブの組み合わせである。急速に変化する独自技術とガバナンスを持っており、新しいタイプのセキュリティリスクを生み出している」と暗号資産のセキュリティ監査を手がけるリーストオーソリテイ(Least Authority)のリズ・スタイニンガー(Liz Steininger)氏は述べた。

「だがこうしたリスクにもかかわらず、高い利回りはより多くのユーザーを惹きつける魅力を持っていることは疑いようがない」

我々はDeFiの数々の失敗を目撃してきた。

メーカーダオ(MakerDAO)は3月、システムがイーサリアムの急激な下落に対応できず大きな損失を出した。フラッシュローンプロバイダーのbZxが悪用されるケースもあった。

現状、こうした事態には特定の資金のみでは対抗できないため、流動性を確保するために多くの資金を集め、新しいガバナンストークンを作り出している。

奇妙なことも起きている。

例えば、コンバウンドが保有するDAIの預かり残高は、同通貨の発行額をはるかに上回っている。原因が解明されれば納得できるかもしれないが、危険な感じがする。

ガバナンストークンの配布は(いくつかの問題はあるものの)、DeFiスタートアップ企業にとって、リスクを小さくする手段となる可能性がある──少なくとも収益面において。

イールドファーミングの次の展開は?

コンパウンドのガバナンストークン「COMP」は、技術的な意味でも他の意味でも、DeFiに驚きを与え、新たなアイデアを刺激している。

「他のプロジェクトも同じようなことに取り組んでいる」とイーサリアム上で保険システムを提供するNexus Mutualの創業者ヒュー・カープ(Hugh Karp)氏は述べた。実際、複数の情報筋は、こうしたモデルを使った新しいプロジェクトがローンチされるだろうと話す。

より面白みのないアプリケーションが登場するかもしれない。例えば、ある種の行動に報酬を与えるアプリなどだ。

例えば、長期間の預かり資産を集めようとする場合、トークンの利回りを少し削り、預かり期間が6カ月を経過したトークンにのみ利回りを上乗せするようなサービスも想定できる。おそらく大きな金額は得られないが、時間軸とリスクを検討し、考慮に入れる投資家もいるだろう。

(このようなサービスは伝統的な金融では普通だ。10年国債は通常、1カ月の短期国債よりも利回りが高い)

DeFi分野がより健全なものになれば、開発者は流動性インセンティブをより洗練された方法で最適化するため、より健全な方法を考え出すだろう。ガバナンストークン保有者は、投資家がDeFiから利益を得るためのより多くの方法を承認するかもしれない。

いずせにせよ、イールドファーマーは素早く動き続ける。新しい収益獲得の場が生まれ、すぐに失敗するサービスも出てくるだろう。

だが、それがイールドファーミングの利点であり、フィールドを変えることはいたって簡単なことだ。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:What Is Yield Farming? The Rocket Fuel of DeFi, Explained