野村×LINEはロビンフッドを超えられるか【インタビュー】

野村×LINEはロビンフッドを超えられるか【インタビュー】

新型コロナウイルスのパンデミックが世界の主要株式指標を暴落させた3月、個人のマネーは預金口座から株や投資信託、ゴールドへと動いた。アメリカでは人気の株投資アプリ「ロビンフッド」がユーザー数をさらに伸ばし、日本でも投資の初心者がネット証券口座を開き、見よう見まねで下落した株や投資信託を買い求めた。

日本では老後資金に対する不安が高まった2019年を経て、2020年のコロナマーケットは結果的に、証券会社にとって口座数を伸ばす機会を与えている。コロナウイルスの感染者数が増え続けるなか、国内証券最大手の野村ホールディングスは6月、資産管理アプリの「OneStock」をローンチした。

国内では証券会社がし烈な競争を続けているが、資産運用に対するリテラシーに乏しい若い世代は依然として多い。株式や債券、為替、上場企業に関するニュースがネットに溢れる一方、個人がそれぞれのライフスタイルに合った資産運用のノウハウを教えてくれるサービスは少ない。

野村は、8400万人のユーザーを抱えるプラットフォーマーのLINEと共同で、LINE証券を展開しているが、今回スタートさせたOneStockは個人の資産形成をサポートする役割を果たす。OneStockは個人の資産全体を一元管理し、資産寿命という切り口で診断して、課題を提起。いわゆる「資産の見える化」を実現し、将来に向けて「資産寿命」を伸ばすための対策・検討を促すもの。

532万の顧客口座を有する野村は、LINE証券のサービスを拡大させながら、OneStockの機能をさらに拡充していく方針だ。野村のデジタル化を進める未来共創カンパニー長の池田肇氏に話を聞いた。


コロナ相場でネット証券口座が急増

立ち上げ当初は100銘柄(株式)だったが、今では3700銘柄を取引できるLINE証券。ETF(上場投資信託)、投資信託、REIT(不動産投資信託)、FXの取引も可能になった。

──コロナマーケットでスマホ証券、ネット証券の口座数は増加傾向にある。野村HDから見るLINE証券の状況は?

池田氏:LINE証券の事業構築はスピード感がある。短期間でサービスはかなり進化した。LINEからすると普通のことかもしれないが、ユーザーの声を聞きながらサービス設計をスピーディに進めている。

立ち上げ当初は、100銘柄(株式)だったが、それを300銘柄に増やし、今では3700銘柄を取引できる。ETF(上場投資信託)、投資信託、REIT(不動産投資信託)、FXの取引が可能だ。商品を揃え、サービスを拡充して、LINE証券はスマホ・ネット証券という土俵で徐々にメインプレイヤーとしての存在感を強めてきているのではないだろうか。

新型コロナウイルスの世界的感染拡大はマーケットを大きく動かし、ネット証券口座の開設数は大幅に増加した。

人の行動が抑制されるウィズコロナの社会で、オンラインの利便性はこれからも高まり続けるだろうし、金融のデジタル化は当然なこととしてこれからも起きてくる。

米ロビンフッド(Robinhood):2013年に設立、本社はカリフォルニア州。株やETF、暗号資産(仮想通貨)を取引できるアプリを運営する。売買手数料をゼロにして、若者を中心に人気を集めた。2019年末時点で口座開設数は1000万を突破した。

口座開設の次のアクションに迷う個人

──「OneStock」アプリの市場投入の狙いはなにか?

池田氏:日本には、証券口座を開こうとする個人のアクションに対して選択肢は豊富にある。ネット証券の数は多く、取引手数料も低下傾向だ。しかし、口座を開いた後に、多くの人のアクションが止まってしまう傾向が強い。

取引方法や運用方法が分からない個人が多い上に、資産運用には共通のテキストブックというものはない。それぞれの生き方、ライフスタイルに応じた、カスタムメードの資産運用のノウハウは必要だ。

これをデジタルにできないかと考え、OneStockを作った。預金額や収入、退職予定年齢等、20程度の項目を入力して、OneStockは個人個人の「資産寿命」というものを導き出す。資産が本人が何歳になるまでもつかを算出する。

年収が高くても資産寿命は短いケースもある。退職する時期を伸ばせば、資産寿命が伸びることもあるだろう。

野村に口座がなくてもOneStockは使えるのはなぜか

「ネット上で事業を広げるいわゆるプラットフォームでもOneStockが使えるようになれば、個人はデジタルに投資判断ができ、金融商品を売買できるようになる」(野村・池田肇氏)

──OneStockはこれからどう進化させていくのか?

池田氏:個人ユーザーを資産というアングルで診断して課題を導き出し、それぞれに合った資産運用方法という薬を、野村證券の知見をフル活用して処方するような世界を目指したい。

まずはOneStockに診断機能をどんどん追加していく。OneStockは、個人の預金や外貨預金、国内外の株式、債券、投資信託、確定拠出年金などを連携できる。これから保険や不動産等の資産を加えていく予定だ。

OneStockは野村に口座を開いていない人でも使えるようにした。

OneStockを他の金融機関にも提供できるようなれば良いと思っている。ネット上で事業を広げるいわゆるプラットフォームでもOneStockが使えるようになれば、個人はデジタルに投資判断ができ、金融商品を売買できるようになる。

野村は金融のコンテンツカンパニー

──資産運用における金融商品が、医療における薬剤にたとえるなら、野村はこれからどんな役割を果たす企業になっていくのか?

池田氏:野村には、野村の100年の歴史を通じて、金融の知見、資産運用における知見がある。コンテンツがあると考えている。

取り引きボタンだけでは不十分。個人がそれぞれの資産を形成するには、具体的なアドバイスが必要だ。そういう意味で、医療に似ているのだと思う。金融サービスをパブリック(大衆)からプライベート(個人)なものにシフトさせていかなければならない。

個人によって異なる、カスタマイズされた個別性の高いアドバイスを一人一人の顧客に提供することが重要だ。そのためには、AI(人工知能)などのテクノロジーも必要になってくるだろう。

野村は金融のコンテンツカンパニーだ。そのコンテンツをより多くの人に届けていきたいと考えている。

──LINEとのコラボレーションは、未来の野村にとって重要なピースになるのでは?

池田氏:スマホのトップ画面に位置するトップアプリの1つがLINEだ。リアルの世界では、メインストリートの一等地に店を構えているようなもの。

現状、LINE証券でOneStockを使うことができないが、野村のサービスをスマホのトップ画面で展開すること、OneStockがトップ画面の顧客をサポートできることは、野村にとって重要であることは間違いない。将来の連携も含めて、OneStockのさらなるサービス拡充に努めていきたい。


池田氏率いる未来共創カンパニーは、開設から1年が経つ。立ち上げ当初は4人のチームだったが、今では出向者を含めて100名を超える。野村は今後1年で、OneStockアプリを理想のかたちに仕上げていくという。2021年夏、若い世代のユーザーは、スマホアプリの取引ボタンを迷うことなくタップできるようになるだろうか。

インタビュー・構成:佐藤茂
写真:多田圭佑

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