東海東京、デジタル証券をシンガポールで上場へ──ジャパンコンテンツでアジアマネーを呼び込む

首都圏のオフィスビル、地方の老舗旅館、国産ワインやウイスキー、日本映画の放映権……。国内証券大手の東海東京フィナンシャル・ホールディングスが、日本の資産を裏付けとしたデジタル証券をシンガポールの取引所に上場させる事業を本格化させる。

世界中の注目を集める「ジャパンコンテンツ」を軸に、アジアの機関投資家や富裕層のマネーを呼び込み、日本企業が新たなに資金を調達できる仕組みを整えていく。 

その第一弾として、東海東京と不動産開発のトーセイは、首都圏のオフィスビルなどの不動産を裏付けとしたデジタル証券(セキュリティトークン)をシンガポールのデジタル証券取引所「iSTOX」に上場させる計画を進めている。実現すればiSTOXにとっては4件目の上場となる。東海東京・デジタル戦略部担当部長の藤瀬秀平氏がCoinDesk Japanのインタビューで明らかにした。

この資金調達手法の「セキュリティトークンオファリング(STO)」は、企業が株式を証券取引所に上場させる新規株式公開(IPO)に似ているが、証券はデジタルトークンとしてブロックチェーンにその取引が記録され、投資家は購入したトークンの管理に特定のウォレットを利用する。すべてがデジタルにペーパーレスで行われ、企業にとっては従来のIPOに比べるとはるかに低いコストで資金の調達が可能になる。

シンガポール政府お墨付きのデジタル証券取引所「iSTOX」

シンガポールは証券取引所のSGXとデジタル証券取引所のiSTOXを共存させることで、アジアの金融ハブとしての機能をさらに強めていく。 (写真:シンガポール/Shutterstock)

iSTOXはシンガポール政府も後押ししており、同国の政府系投資企業「テマセク」の子会社が運営するファンドが出資している。東海東京も昨年、iSTOXの少数株式を取得した。また、シンガポール証券取引所(SGX)も株主であり、シンガポールはSGXとiSTOXを共存させることで、アジアの金融ハブとしての機能をさらに強めていく。

通常のIPOでは、機関投資家に株式を売り込む、いわゆる「ロードショー」が証券会社主導で行われるが、iSTOXはSTOにおけるロードショーをオンラインのウェビナー形式で行う。また、シンガポール当局はiSTOXに対して、上場審査やトークンの発行、管理・保管、流通市場(セカンダリーマーケット)の運営を行う資格を与えている。

言い換えれば、iSTOXが上場におけるほとんど全ての機能を持ち、IPOで言えば証券会社の多くの役割を果たしてくれる。機関投資家は東海東京経由で取引所に口座を開設すれば、トークンを購入することができる。トークンの保管は口座に付随するウォレットが使える。

「今まで証券として販売されてこなかったニッチなもの、ユニークでボーダーレスに注目を集める日本独自のものを中心に、iSTOXへの上場(STO)案件を増やしていきたい」と藤瀬氏は言う。「現在、国内企業からの引き合いはいくつかある。不動産関連のものが比較的多いだろう。将来的には、50億円~100億円規模の大型案件も視野に入れたい」

例えば、日本映画の放映権を裏付けとしたデジタル証券(セキュリティトークン)を上場できれば、調達した資金で制作費をカバーすることができる。投資家には、映画のキャスティングを決める投票権などを付与すれば、魅力的なディールになるのではないかと藤瀬氏。

デジタル戦略を急ピッチに進める東海東京

「例えば、老舗の温泉旅館とデジタル証券(セキュリティトークン)を組み合わせれば、世界中の投資家を魅了するジャパンコンテンツをさらにボーダーレスに広げることができる」(藤瀬氏)

東海東京がセキュリティトークンの検討を始めたのは2019年夏頃。同年11月には早くもiSTOXへの出資を決定した。

今年5月には、次世代のデジタル金融商品の開発を加速させるためにデジタル戦略部を設立。決断と実行を迅速に行えるよう、常務執行役員の伴雄司氏を中心に同部署を経営陣に最も近い位置に置いた。 

現在、デジタル戦略部には約50名が所属し、そのうちの10名弱がセキュリティトークン事業を進めている。この事業を推進しているのが藤瀬氏だ。東海東京に今年の2月に転職する以前は、三菱UFJ銀行に約15年勤務し、国内外で通貨オプションのトレーダーとしてのキャリアを積んだ。2017年以降はスタートアップでブロックチェーン関連のビジネスにも携わった。

現時点で、日本人がiSTOXに上場するトークンを購入することはできないが、東海東京はスマートフォンでトークンを取得できるアプリの開発を進めている。今後1年以内には準備を完了させる方針だ。また、国内の地方銀行との連携を強化する東海東京は、地方創生を促す事業をSTOによる資金調達で支援していく。

「例えば、老舗の温泉旅館とデジタル証券(セキュリティトークン)を組み合わせれば、世界中の投資家を魅了するジャパンコンテンツをさらにボーダーレスに広げることができるのではないだろうか」(藤瀬氏) 

日本でもメガバンクや証券最大手などがセキュリティトークンを発行するプラットフォームの開発を進めてきているが、国内における次世代型・デジタル証券の本格導入は法規制の壁と流通市場の不在をクリアしなければならない。金融のデジタルトランスフォーメーション(DX)では、シンガポールは日本の先を走っているように映る。

取材・文:佐藤茂
写真:多田圭佑