巨大IT企業がより巨大化した未来とは?──未来学者エイミー・ウェブ氏に聞く

未来学者のエイミー・ウェブ(Amy Webb)氏は、『BIG NINE 巨大ハイテク企業とAIが支配する人類の未来』と『シグナル: 未来学者が教える予測の技術』の著者。世界の状況は悪化する可能性があると考えている。

ウェブ氏は最新の著書『2020 Tech Trend Report: Strategic Trends that Will Influence Business, Government, Education, Media and Society in the Coming Year』の中で、未来をユートピア、あるいは新たな地獄のような世界にし得る企業と、そうした企業を経営する人たちを検証している。

ウェブ氏の主要な考察は、G-MAFIA(グーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、IBM、アップルの頭文字をとった批判的な略称)と、その中国のライバル、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が、我々の生活をますます取り込んでいる様子に焦点を当てている。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、AI(人工知能)から決済システムまで幅広い範囲におよんでいるが、それ自体は危険なものではない。しかし、公共の利益よりも政治的利益や株主の利益のために下される今日の決断が未来を不安定にする可能性がある。

分散型ネットワークからディストピア(反ユートピア)的なAIが登場する未来を予想したり、G-MAFIAやBATが社会や政治に過剰な影響をおよぼしていると考えているのはウェブ氏だけではない。そして、技術的な対策や規制にもかかわらず、これらの企業はなくならないとウェブ氏は認めている。

米CoinDeskはウェブ氏にメールで取材を行った。文章はわかりやすさを優先し、編集されている。


10年後のG-MAFIA

──10年後には「G-MAFIA」はどうなっていると思いますか? 彼らは力を集め続けているでしょうか? そうだとすれば、それ以外のインターネットはどうなりますか?

G-MAFIAは力を集め続けているだろう。アンチトラスト(独占禁止)的な手法がアメリカで取られたとしても、しかもそれはたぶんあり得ない仮定の話だが、こうした企業が調査結果を受け入れ、分割に同意する可能性は小さい。

だから、問題はまさにG-MAFIAはどのように進化していくのか?ということになる。アマゾン、グーグル、アップルは、ヘルスケア分野への大胆かつ明白な動きを見せている。アマゾンのリストバンド「Halo」から、Appleの「Fitness+」、Googleによるフィットビット(Fitbit)の買収まで、巨大テック企業は今、我々の健康データを収集・分析することに取り組んでいる。

だがこれらは手首に装着するデバイスに過ぎない。我々の身体を調べ、改善し、最適化する生体検知アルゴリズムはどうだろう? 電子的な医療データや記録への展開は? アマゾンなら保険、アップルの従業員向けクリニックなら外来患者に対する医療は?

大局的に見れば、巨大テック企業のヘルスケアへの参入は、比較的速いスピードで破壊的な変化が起きている数多くの分野の1つに過ぎない。マイクロソフトはスマート農業の未来を模索している。

フェイスブックはよくご存知の通り、暗号資産(仮想通貨)や分散型台帳技術(DLT)、いわゆるブロックチェーンの未来に取り組んでいる。IBMはいつも見過ごされているが、AIのためのオープン・エンタープライズ・アーキテクチャにおいて重要な歩みを進めている。

これらの企業はすべて、一見するだけではわかりにくいシェアをめぐって争っている。意図的にデータを集め、製品、サービス、業界を超えて点をつなぎ、全体像を解明しようとしていない限り、見極めるのは困難な方法で力は集中されていくだろう。政府よりも大きな力と影響力を彼らは蓄積している。

中国のインターネット

──ウェブがより大きく集約されたものになると、文化や政治にどのような影響を及ぼす可能性がありますか?

我々はプライバシーについて多くの議論を行い、ジャーナリストは確かにテクノロジー業界におけるデータ共有、プライバシー、独占について多くの記事を書いている。しかし、一般の消費者やビジネスリーダーについて言えば、これらは優先的な問題にはなっていないようだ。訴訟が起きたり、新しい政策が実施された時にその影響を感じるだろう。

──著書には、アメリカと中国の巨大テック企業は競争的で協調的な勢力と書かれています。「スプリンターネット(分断されたインターネット)」はどうなると思いますか? 西側と東側の分断は広がるでしょうか?

残念ながら、サイバー主権を達成しようとする中国の積極的な動きとともに、スプリンターネットはさらに進行するだろう。

ここにはより大きな力が作用している。中国の一帯一路構想は新興国において債務と引き換えにインフラ開発を進めるもので、参加国は既存のインターネットではなく、中国のインターネットを使うよう強制される可能性がある。

ウェブを生み出したティム・バーナーズ=リー(Tim Berners-Lee)氏のソリッド(Solid)のようなプロジェクトは、ウェブ、アプリケーション、データ使用に対する新しい分散型アプローチの興味深い一例だ。同様に、ゴーレム(Golem)やモーフィアス(Morpheus)のような分散型ネットワークも増えていくと考えている。

だが、ウェブ3.0の取り組みが非主流から主流になるには、長い時間がかかるだろう。

データの海を泳ぐ

──人々が自分のデータをコントロールできるような分散型テクノロジーを通じた真の解決策はあるでしょうか?

パスワードをまったく更新しない人たちのことを心配している。そうした人たちを信用して、機密情報を管理させるべきだろうか? データの適切な管理、データ・ガバナンス、コンプライアンス、リスクについては複雑な問題が存在する。分散型テクノロジー・ソリューションは、我々が抱える問題の一部を解決するが、すべてではない。

データがどのように、誰によって、何の目的で収集されているかを理解している人はほとんどいない。我々がそれぞれ、自分のデータを「所有」するという、ある種のモデルを提案している組織は数多くある。だが、それはどういう意味だろうか?

消費者には、気づかずに公開しているデータも含め、自分が生み出しているデジタルデータについて、もっとよく知って欲しいと考えている。インターネットに接続されたデバイス、自宅やオフィスでのさまざまな音、我々の動きやジェスチャーなどから作られる、あらゆるデータを考えてみて欲しい。それらすべてのデジタル生成物、さらに現在、追跡アプリや生体スキャンシステムで収集されている個人情報。つまり我々はデータの海を泳いでいる。

真に瞬間的なものは存在しない

──どうしたら未来をうまく予測できるようになりますか?

未来学者として、まず何よりも、私は未来を予測できないと言いたい。計算ではわからない。限られた条件を扱っているだけなら、予測できるかもしれない。今重要なことだけを限定的に考えていたり、遠い未来を空想的に考えている人が多いことにいつも驚かされている。難しいのは、今あるサインを見つけ、データと綿密なフレームワークを使って、次の影響をモデル化すること。予測は不安定なものだ。優れた未来学者の目標は備えることにある。

本当の問題は「我々はいかにして不確実性を減らすことができるのか?」だ。

我々は皆、大切な信念に立ち向かい、変化を促すものとして混沌やチャンスをうまく受け入れることができるよう努力しなければならない。究極的には、戦略的予測とは予測することではない。準備を整え、行動すべき時を知っていることだ。これには自然災害や世界的パンデミックのような、突然のカオス的な出来事への備えも含まれる。

最高の戦略的予測は、洞察、内的な連携、より迅速なデータ主導の意思決定につながる。私はフライホイール(はずみ車)の喩えが好きだ。精力的で持続的な取り組みによって、驚きと不確実性は減らすことができる。

私は「ブラック・スワン」──完全に意外で、深刻な結果をもたらす予測不可能な出来事──を信じない。真に瞬間的なものは存在しない。人々がパンデミックを「ブラック・スワン」として語るは間違いだ。

ウイルスが登場し、政府が誤った選択を行った結果、我々は今、その影響に直面している。良い選択が行われなければ、このような状況に陥ると多くのモデルは昨年12月に予測していた。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Krisztian Matyas/Unsplash(CoinDeskが加工)
原文:What Happens if Big Tech Only Gets Bigger?