インドのオンライン決済、急成長──インフラ輸出も視野に

コロナ禍におけるEコマース市場の急成長と現金使用の減少が、インドの決済インフラの成長を後押している。

インド決済公社(National Payments Corporation of India(NPCI)は、同国のオンライン決済システム「統合決済インターフェース(Unified Payments Interface:UPI)」の決済処理金額は、2020年末までに4250億ドル(約44兆円)を超えると予測する。

国内で実績を積み上げたNPCIは、UPIなどのオンライン決済インフラの輸出の検討を開始した。政府主導で開発され、インド準備銀行(中央銀行)の規制を受けているUPIは、より大規模な「インド・スタック(India Stack)」プロジェクトの一環としてスタートした。

インド・スタックは、デジタルインフラ開発のために官民組織が利用できるAPIを取りまとめている。UPIはインド・スタックの一部で、他には整体認証IDシステム「アドハー(Aadhar)」や電子文書保管などのサービスがある。

アマゾン、銀行をつなぐ決済インフラ

UPIは、ネットワークに参加する200の銀行やGooglePayなどの決済サービスが存在するエコシステムで、デジタル決済とピア・ツー・ピア(個人間)送金を可能にする。言い換えれば、UPIは銀行口座にアクセスしてお金を移動させる個人用デジタルウォレットのようなものだ。

アマゾンやインド最大のEコマース企業のフリップカート(Flipkart)は、UPIを組み込み、ユーザーはUPIを利用して決済できる。この相互運用性は、インド決済公社がUPIの輸出を進める上で、重要なアピールポイントになる。

「輸出先の関係者との協議は始まった。反応は非常に好意的だ」と、NPCIの海外展開を担当する子会社のリテシュ・シュクラ(Ritesh Shukla)CEOは、テクノロジー関連のイベントで語った。2、3年以内にUPIのような海外市場向けのプロダクトを開発を行うという。

シュクラ氏は交渉を行っている国名は明らかにしていない。しかし、ブータンは11月に、同様のネットワークにつながったデビットカードをローンチした。

ケニアはインドのUPIにラブコール

シュクラ氏によると、輸出に向けたNPCIのアプローチは2本柱となる可能性が高いという。

1つは、既存のシステムを持たない国の決済システム開発をサポートすること。もう1つは、何らかの決済ネットワークをすでに運用する国を対象に、銀行間の相互運用性をUPIと同様の機能を実現できるよう、NPCIは決済基盤のアップデート作業をサポートする。

「ケニアでモバイル決済サービスのMペサ(M-Pesa)に続くものは生まれるかという議論があったが、UPIはその可能性を秘めている」と、FSDケニア(FSD Kenya)のビクター・マル(Victor Malu)氏は同イベントで述べている。

Mペサは、ケニアの情報通信企業サファリコム(Safaricom)が2007年に開始したモバイル送金サービス。デジタル化が可能にする金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の初期の取り組みの1つと考えられており、人気の米決済アプリのベンモ(Venmo)に似ているが、銀行口座を必要としない。

金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン):インターネット、携帯電話などのデジタル技術を活用して、銀行口座を持たない人、あるいは十分な銀行サービスを受けられていない人に、金融サービスを手軽に、安価に提供すること。

Mペサのユーザーは、ケニアのみで2450万人にのぼる。だが、Mペサのようなサービスや銀行口座はそれぞれ個別の企業が運営しているため、ユーザーがモバイル口座から銀行口座に送金する場合、支障が生まれやすい。インドはこの課題をUPIの相互運用性で解決できると考えている。

UPIが直面する課題

UPIを輸出する以前に、解決すべき問題もある。新型コロナウイルスの感染拡大による外出規制が続くなか、インドではデジタル決済の取扱高が急増し、UPIのサーバーの負荷が大きくなっている。

NPCIのデータによると、最も多くの取引を処理するインドステイト銀行(State Bank of India:SBI)では、9月に処理した5億1000万件のうち、5.31%がエラーとなった。原因は技術的なものだという。

決済処理量の急増で、インドの多くの銀行はバックエンド・インフラのアップグレードの必要性に迫られている。しかし、UPIでの決済の大半を占める少額決済から銀行は多くの利益を得られない。したがって、システムに対する設備投資に積極的になれない銀行は多い。

取引を確実に処理できるアーキテクチャと、そのアーキテクチャの開発に銀行が取り組む経済的インセンティブの双方が欠けていることで、UPIは普及のハードルに直面する可能性がある。この問題を解決できなければ、NPCIが目論むUPIの輸出もより困難なものになる恐れがある。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Kriangkrai Thitimakorn/Shutterstock
原文:India’s State-Led Payment Network Is Growing. Now Nation Wants to Export It