暗号資産における「中央集権化の時代」の終焉【オピニオン】

後になって2022年11月を振り返った時に、暗号資産の世界における「中央集権化の時代」の終わりと思うかもしれない。

教訓

中央集権型暗号資産取引所は消費者に、魅力的で便利な暗号資産投資の手段を提供した。しかし、中央集権化の時代は同時に、消費者保護の軽視や、大規模な破綻にもつながり、何千万人もの人々と何千億ドルもの資産に影響を与えた。

消費者たちは、中央集権化についてとても辛い教訓を学んでいる。マウントゴックス(Mt. Gox)からボイジャー・デジタル(Voyager Digital)、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、そしてFTXまで、まっすぐなつながりが見える。

中央集権型組織は、暗号資産エコシステムにシステミックリスクを与えるというのが、当然の結論だ。暗号資産コミュニティが一丸となって、より良いものを要求するべき時なのだ。

暗号資産は、2008年の世界金融危機への反応として、真の個人的所有権と自立という考えを基盤に作られている。個人が自らのウォレットの鍵を保有し、仲介業者抜きで取引できる、それまでとは違うものになるように作られていたのだ。

ビットコイン誕生以来のビジョンは、私たち皆が、自分のお金に対するコントロールを取り返せるようにすることである、金融の歴史についても当てはまる、「権力は腐敗する」という昔からの格言がある。

誰かに自分のお金に対するコントロールを与えてしまえば、その人はあなたの信頼を悪用することは避けられない。そのため暗号資産の世界では、セルフカストディと中央集権型カストディアンという2つの選択肢が用意されている。

今こそ、最初に人々を惹きつけた、暗号資産のルーツに回帰する時なのだ。

Ethos.ioでは、分散化とセルフカストディを長年支持してきた。2017年には、分散型ウォレットを開発し、10万人を超えるユーザーを獲得。その後100万人ものユーザーを抱えることになった中央集権型暗号資産ブローカー、ボイジャー・デジタル(Voyager Digital)のための決済・ブロックチェーンインフラ開発のサポート役に任命された。

しばらくして、文化の違いからボイジャーには別れを告げた。ボイジャーの経営陣は、AUM(運用資産)を拡大するために、中央集権型のやり方にこだわったからだ。最終的にボイジャーの運用資産はスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)へと貸し付けられ、ボイジャーは破綻した。

残念なことに、ボイジャーとFTXのユーザーは、これらのプラットフォーム上のアカウトに保管されていた暗号資産が「自分のもの」からはほど遠かったことを、痛い目にあって学んだ。

中央集権型の取引所やブローカーはしばしば、資産を共同ウォレットへとまとめ上げ、顧客を「無担保債権者」として扱う。ボイジャーに資産を預け入れていた人たちは、経営陣、従業員、弁護士、銀行家が会社の資本資源を使い果たし、自分たちの暗号資産は破産手続きのプロセスでロックアップされるのを見守るしかなかったのだ。

たった一人の人間の行為が、何百万人もの人の財産に影響を与えることがこれだけ頻繁に起こるというのは、信じられないことである。これは、暗号資産が目指していたものとは対極にあり、中央集権化の時代がここまで高リスクとなっている理由である。この時代は、終わりを告げなければならない。

分散型の未来を目指して

分散化の時代だけが、この先に現実性のある唯一の道である。暗号資産はそのルーツに戻り、権力と影響力を乱用してきた腐敗した企業から力を取り戻さなければならない。

ここ5年間で、堅固で安全、公平な分散型エコノミーの基盤となり得るいくつかの技術革新が生まれてきた。分散型トレーディングプラットフォームは、中央集権型と比べて大きな強みを持っている。カウンターパーティーリスクの不在、オンチェーン決済、透明性だ。顧客の不利になるようなトレーディングを行うことは、単純に不可能なのだ。

適切に配備、維持された分散型金融(DeFi)エコノミーは、顧客と運営事業者双方の利害に合ったものとなるだけでなく、規制当局が実現しようとしている消費者保護をエンコードした形で提供できる。

まだまだ仕事は残っている。イーサリアムの共同創業者ヴィタリック・ブテリン(Vitilak Buterin)氏は、鍵の紛失のリスクを最小限にするために、安全な金庫の必要性を主張している。マルチパーティー計算、レイヤー化したセキュリティ、そしてソーシャルガーディアンがこれを実現し、記憶やシードフレーズに頼っていた日々は過去のものになるだろう。

MPC(マルチパーティ計算):暗号資金を管理する秘密鍵を複数の断片に分割して保管し、共有することなく(分割したまま)運用する技術。

私たちは再び、コミュニティとして中央集権化に反抗しなければならない重大な局面を迎えている。私たちと私たちのお金を引き離そうとする腐敗したCEOたちに抗わなければならない。

顧客のお金を犠牲にすることになった、腐敗と軽率さを可能にした企業の秘密主義に抵抗しなければならない。暗号資産のルーツに戻り、当然自分たちのものであるべきコントロールを、個人が奪回しなければならないのだ。

未来は中央集権化されたものではない。しかし、それは私たちが自ら築かなければならないものなのだ。

シンゴ・ラヴィン(Shingo Lavine)氏アダム・ラヴィン(Adam Lavine)氏は、分散型テクノロジー企業Ethos.ioの共同創業者。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The End of the ‘Centralization Era’ in Crypto