「ビットコイン投資の大損は単なる不運」は本当か?──関心度で情報のとらえ方と行動が変わる【投資で勝つ心理学・第3回】

「初めてのビットコイン投資で大損したよ。まあ、今回は運が悪かったんだ。また挑戦して、今度は勝つさ」

「実は、俺も最近ビットコイン投資で損をしたんだ。お互い不運だったなぁ」

職場の休憩室で愚痴をこぼしながら、コーヒーを飲む田沢さんと安藤さん。「俺たちは運が悪かっただけだ」――。2人の失敗は果たして不運の結果と言えるのだろうか?

それは本当に「不運」と呼べるか?

田沢さん(仮名、34歳)はもともと、暗号資産にそこまで興味があったわけじゃなかった。きっかけは、弟からの「今、ビットコインが熱い」という連絡。弟がビットコインで儲けたと知り、対抗心から自分も投資してみようと考えた。

早速自宅で調べたところ、ビットコインの価格が昨日からの1日で30%も上がっている。過去の推移を見てもずっと伸びてきている。「このままでは乗り遅れてしまう」。すぐに口座を開設して入金、ボーナス1回分くらいの金額を思い切ってビットコインに換えた。

しかし、数時間後にアプリを開くと大幅に下落していた。1ヵ月分くらいの給料がまるまる消えている。その間にも資産は目減りしていく。「このまま半分、もっと少なくなったらどうしよう……」。我慢できずに震える手ですべてのビットコインを日本円に戻した。たった1日で田沢さんは数十万円を失ってしまった。

一方の安藤さん(仮名、34歳)は、かねてからビットコインに興味を持っていた。社会人5年目になり、役職がついたのを機に、コツコツと貯めた貯金でビットコインに投資しようと決意。取引所に口座を開設し、思い切ってそこまでに貯めたお金をビットコインに投じた。

アナリストのビットコインに関する予測を読み、数年後には資産が5倍10倍になるかもしれない、とわくわくしながら過ごした。しかし、ほんの数日でビットコインは下落。コツコツと蓄えた貯金が減っていく恐怖に、夜も眠れなくなった。貯金が半減した時点で、たまらずビットコインを日本円に換え、損失を確定させてしまった。安藤さんはビットコイン投資を始めた数日前の自分を呪ったが、後の祭りだった。

「順番」があなたの選択を変えているかも?

“不運”だと嘆く田沢さんと安藤さんは、本当に運が悪かっただけなのだろうか?

実は、2人が暗号資産について調べた時の「順番」が、無意識に選択に影響していた可能性がある。

心理学で、次のような実験がある。

まず、被験者にパソコンの前に座ってもらい、「みかん」「りんご」「ぶどう」など20個の単語をランダムに表示する。表示が終わったら、被験者に思い出した単語を挙げてもらう。この実験では、最初の単語と最後の単語の再生率(被験者が思い出す確率)が高いことが分かっている。

この効果は、「初頭効果」と「親近性効果」と呼ばれている。

初頭効果(しょとうこうか)……最初に触れた情報が印象に残りやすい効果。
親近性効果(しんきんせいこうか)……最後に触れた情報が印象に残りやすい効果。

2つの効果を並べてみると、「結局、最初に触れた情報と最後に触れた情報のどっちが記憶に残りやすいんだ?」と疑問に思うかもしれない。2つの効果がどんなタイミングで出現するかは諸説あるが、関心度が低いと初頭効果が表れやすく、関心度が高いと親近性効果が表れやすいという説がある。

つまり、関心度が低い時は最初に触れた情報が印象に残りやすく、関心度が高い時は最後に触れた情報が印象に残りやすいということだ。

避けられたかもしれない「不運」

「初頭効果」と「親近性効果」を意識すると、田沢さんと安藤さんが無意識に「順番」に踊らされていた可能性が見えてくる。

田沢さんは、暗号資産への関心が薄かった。だからこそ、「初頭効果」が強く出て、最初に調べた情報が強く印象に残った。

一方の安藤さんは、暗号資産(ビットコイン)への関心が強かった。だからこそ、「親近性効果」の影響が強く出て、最後に調べた情報が強く印象に残った。

結果的に2人は、きちんと比較検討することなく、直感を頼りにビットコインに投資してしまった。田沢さんも安藤さんも、自分で暗号資産を“選択したつもり”で、実は「初頭効果」と「親近性効果」の虜になっていたにすぎない。

「最初」と「最後」の呪縛を振り切る

田沢さんと安藤さんは一体どうすればよかったのだろうか。

田沢さんは、自分の関心度の低さを意識し、最初に触れた情報にとらわれず投資判断をすべきだった。安藤さんは、自分の関心度の高さを意識し、最後に触れた情報にとらわれず投資判断をすべきだった。

「順番」の呪縛を振り切るためには、具体的にどうすればいいのか。

まず、「順番」が自分の判断に少なからず影響を与えることを知っておくべきだ。意識するだけでも、無意識の影響が及ぶ範囲を抑えることができるからだ。

その上で、具体的には次のような対策を心がけたい。

1 調べる前に、自分自身の関心が高いか低いかを知る。
2 関心が低いなら「初頭効果」、関心が高いなら「親近性効果」に影響されていないか省みる。

その他に、「集めた情報を公平に比較・判断・検討できるよう表にまとめる」「一定の時間をおき、最初に調べた時とは逆の順番で情報を検索する」といった対策方法も効果的だ。

無意識に踊らされているようでは、一流の投資家にはなれない。自分自身の無意識に敏感になり、自己を制御できてこそ、投資家としての成功の道が開けるだろう。


【投資で勝つ心理学 全5回】

第1回 ビットコイン投資で“資産5倍”と“半減”──2人の投資家の明暗を分けた「確証バイアス」
第2回 「みんなビットコイン投資しているから大丈夫」の根拠とは──投資に勝つために理解したい「同調圧力」
第3回 「ビットコイン投資の大損は単なる不運」は本当か?──関心度で情報のとらえ方と行動が変わる
第4回 「負けが続いたから、次は勝つだろう」にひそむ罠──ギャンブラーの誤謬
第5回 行動にブレーキをかける「認知的不協和」──知らずにチャンスを逸失?

|文:木崎 涼
|編集:濱田 優
|画像:Shutterstock.com