次期ニューヨーク市長は“ビットコイン市長”か

次期ニューヨーク市長は“ビットコイン市長”か

次期ニューヨーク市長にエリック・アダムス(Eric Adams)氏が選ばれる見通しだ。元ニューヨーク市警察官のアダムス氏は7月7日、民主党の予備選で勝利した。

猫保護活動家で、国際的な犯罪防止団体ガーディアン・エンジェルスの創設者でもある共和党候補、カーティス・シルワ(Curtis Silwa)氏による大逆転という、考えにくい事態が起こらない限り、11月の本選挙を経て、アダムス氏が1月には、ビル・デブラシオ現市長を引き継ぐことになる。

私はニューヨーク市に住んでおり、一般メディアが広める東海岸に対する先入観を助長するようなことを言いたくはないのだが、今回の場合は、市長選挙は市の外、特に暗号資産企業やトレーダーにとって本当に重要なものとなっているようだ。

ニューヨーク市には、暗号資産関連の規則としてアメリカでも最も厳しく、大いに不満が出ている「ビットライセンス」がある。ニューヨーク市は主要な金融の中心地であるために事態はとりわけ厄介で、2014年に制定されたこの法律は、ニューヨークに拠点を置く企業による暗号資産事業や、ニューヨーク市民に対する暗号資産関連の商品やサービスの提供を阻んできた。

「ビットコインの中心地」という公約

しかしアダムス氏は、親暗号資産的な姿勢をはっきりと表明しており、6月下旬には、自らの指揮のもとニューヨーク市が「ビットコインの中心地」になると宣言した。

2015年にも暗号資産について好意的な発言をしていたアダムス氏だが、市長選予備選のライバルであったアンドリュー・ヤン氏ほどビットコインに熱心ではなく、用語を少し誤用したことから見ても、暗号資産のエキスパートではないと推測しておそらく間違いはないだろう。

むしろアダムス氏の公約は、2015年の発言と同様に、ディスラプティブな(創造的な破壊をもたらす)イノベーションを幅広く支持する中で行われたものだ。ニューヨーク氏は「ライフサイエンスの中心地、サイバーセキュリティの中心地、ビットコインの中心地になる」べきで、「あらゆるテクノロジーの中心地になる」と、アダムス氏は語ったのだ。

つまりアダムス氏は、金融規制の現状に変化をもたらすことよりも、高賃金の仕事や活発な経済により焦点を当てているようなのだ。多くの点で、このことは暗号資産にとって大いに強気材料となるもので、イノベーションと成長の象徴としての「シリコンバレー」から「クリプト」が注目を奪っているサインだ。

5月の失業率が、アメリカ全体の5.9%よりはるかに高い10.9%であったことからも、ニューヨーク市民たちはそのようなメッセージを待ち望んでいた。失業率の高さの理由は何よりも、ニューヨーク経済を大いに牽引してきた観光業が、新型コロナウイルスのパンデミックによって落ち込んだことだろう。

2019年、クイーンズ区でのアマゾン本社建設計画に対する進歩派からの反発は、確かに正当化できる理由もあったが、一部の人たちからは雇用創出への反対と捉えられていたことを考えれば、アダムス氏の公約は地元にとっても意義のあるメッセージであった。

アダムス氏は、反アマゾン活動家に比べれば中道派であり、主にブルーカラーの市民に訴えかけることを狙ってきた。政策の大半は小規模事業に重点を置いたものだが、テック推進の姿勢は、より良い雇用機会を増やすという、一段と大きな約束の一部である。

アダムス氏の政策オプション

そもそもアダムス氏が、暗号資産関連の問題で大きな影響力を持つ訳ではないのだ。ビットライセンスはオルバニーにあるニューヨーク州政府が課しているもので、ニューヨーク市長とニューヨーク州政府の関係は通常、完全に敵対的とは言わないまでも、議論の多いものである。ビットライセンスにアダムス氏が変更を加えることができる可能性は、ほとんどゼロだ。

アダムス氏がニューヨーク市を「ビットコインの中心地」にしたければ、現実的なオプションは、地元学生向けのSTEMプログラムを始めとする、ブルックリンの区長として行ったプログラムのようなものとなる。

地元テック業界により多くの地元の子供達を送り込むことは、困難な挑戦ではあるが、成功する都市があるとしたら、アメリカでも最も評判の良い公立高校や大学を抱えるニューヨークだろう。

アダムス氏による生活の質をめぐる取り組みが、新たな企業や個人をニューヨーク市に呼び寄せる可能性もある。そのような取り組みには、保育サービスの強化や、徐々に増加している暴力的犯罪に対する、厳格だが公正なアプローチなどが含まれる。

現在進行中の、サンフランシスコのベイエリアからの転出と、ニューヨーク市の家賃の歴史的な値下がりを考えれば、タイミングは確かに良いものだろう。

しかし究極的には、競争力に関わる問題だ。ニューヨーク市長が暗号資産やそれ以外の企業にもたらせる利益は、他のどんな市長のものより大規模で、長続きする。このことは、マイアミとの比較で最もはっきりする。

暗号資産企業を惹きつけるマイアミ

マイアミも最近、暗号資産企業を引きつけるために取り組んでいるが、その取り組みでは大いに不利な立場に立たされている。1つ例を挙げると、国勢調査によれば、マイアミ・デイド郡の住民はわずか29.8%しか学士号を持っておらず、それに対してブルックリンでは37.5%、マンハッタンは61.3%となっている。

そのような人材プールの違いは歴史的に、決定的な要素となってきた。最上の人材を欲する企業には、最も革新的な企業も含まれるが、彼らは人材プールの大きな場所の近くに拠点を置く可能性が高い。

だからこそ、暗号資産を扱う企業にとってビットライセンスという面倒がありながらも、ニューヨーク市はすでに、チェイナリシス、グレイスケール、CoinDeskなど、重要なブロックチェーン企業の本拠地となっているのだ。

もちろんこれは、パンデミック中に劇的に変化した。在宅勤務が新たに受け入れられるようになったことで、特にホワイトカラーのテックや情報関連の仕事においては、本社近くに住まない従業員を企業が採用する可能性が高まった。

ニューヨーク市では現在、通勤者が市内で仕事をしなくなったために、税金収入が7億2000万ドルも減ると見込まれている。ニューヨーク市を暗号資産フレンドリーな市に変える努力もする可能性もあるが、アダムス氏の最重要課題は、ニューヨーク市を、人々が本当に住みたいと思う場所であり続けられるようにすることだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:エリック・アダムス氏(Ron Adar / Shutterstock.com)
|原文:Eric Adams, Mayor of All the Bitcoins

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