中国のテック企業取り締まり、理由をめぐるもう1つの仮説

中国のテック企業取り締まり、理由をめぐるもう1つの仮説

中国がテックを取り締まっている本当の理由はこれなのだろうか?

中国政府が7月4日、大手配車サービスのディディ(滴滴出行)のアプリを中国のあらゆるアプリストアから削除するよう命じた時、その理由は同社のユーザーデータ収集をめぐる懸念という曖昧なものだった。

しかし、ディディへの取り締まりだけではなく、ビットコイン(BTC)マイニングの禁止、アリババの創業者ジャック・マー(Jack Ma)氏に対する「指導」、さらには大いに監視されたデジタル人民元開発の取り組みなど、中国のより幅広い姿勢について、説得力のある説明があるのかもしれない。

香港市場の下支えか?

香港で株式と先物の取引所を運営する香港証券取引所の株式は、ディディへの取り締まりの詳細が明らかとなった日の翌日に、5%以上値上がりした。ニュースメディア「モーニング・ブリュー(Morning Brew)」はこの展開を、中国企業がアメリカや世界の株式市場から大規模に撤退することを、投資家たちが見越しているためだと解釈した。

つまり、中国企業のIPO(新規株式公開)や、その他の株式取引が、香港市場でより多く行われることになるということだ。中国の指導者たちは、これが戦略的目標であると述べてはいないが、この仮説を支える重要な証拠がある。中国政府はディディに、IPOを進めないように警告したが、同社は続行したのだ。

一方、ブルームバーグによると、中国の規制当局は、ディディやその他の中国企業が世界で上場することを可能にしている抜け穴を塞ぐために、中国の証券取引法を改定しようと狙っている。(改正によって、香港での上場も制限されることになると報じられており、この2つの点は矛盾しているようだ)

ディディに対する取り締まり以降、中国政府は「国家データ安全保障上のリスク」にまつわる懸念をめぐって、アメリカで上場されている3つのテック企業への捜査を開始した。それらの企業はディディと同じように、最長45日間続く捜査期間中、新規ユーザー登録を受け付けることが許されない。

それはおそらく、これら企業にとって壊滅的な打撃を与えるもので、取り締まりがウォール街進出への報復と捉えられれば、中国の他のテック企業も、海外での上場を怖れるようになる可能性も高い。さらに今回の取り締まりを受けて、中国企業の上場をより厳しく監視するように、アメリカの議員たちが呼びかけるようにもなった。

しかしなぜだろう?ディディのケースは、そのような制限がどれほど中国企業に打撃を与えるかをはっきりと示している。ディディは先週に上場すると、おそらく主に非中国系の投資家たちから、ニューヨーク証券取引所で44億ドルの資金を集めた。(これら投資家たちは現在、ディディに対し訴訟を起こしている)

ディディは世界的に事業を展開しているが、集めた資金の大半は、中国国内での給与支払いやその他の費用に使われることは間違いなく、一企業だけでなく、中国の経済全体を押し上げることになる。そのような海外からの投資を制限すれば、中国指導者たちが、自らの支配を強化する繁栄の継続という約束を果たすことはより困難になる。

中国当局は、テック企業を犠牲にして、香港の金融エリートを満足させようとしているのかもしれない。イギリス植民地支配の前哨基地であった香港は長らく、東アジアと世界の他の地域との間の金融の流れの玄関口であった。

しかし、香港が中国に返還されて以降の政治的自由の締め付け、特に中国の習近平国家主席が権力を集約するに伴う過去5年間の締め付けは、金融セクターが打撃を受けるかもしれないという懸念を生んだ。

香港を通じてより多くの取引が流れるようにすることは、金融業界を支え、全員が中国政府による支配の高まりを快く思ってはいない香港の銀行関係者たちに向けて、どちら側につくことが自らの有利になるかを思い知らせるための試みなのかもしれない。

金融監視と支配のための中国の政策のより幅広い文脈にも、今回の取り締まりはぴったりとはまるようだ。そのような政策には、中国の中央銀行が厳しく監視、管理できる中央銀行デジタル通貨の開発の継続、個人向け金融・決済ツールを提供するアント・グループへの取り締まりも含まれる。

海外での上場を抑制することは、中国の資産を外国人が保有すること、そして中国から資金を国外に持ち出すことを制限する、厳格な資本規制を中国が維持する役にも立つ。

サイバーセキュリティへの懸念は本物

しかし今回の取り締まりが、中国共産党による金融支配の強化だけに関連するものだと解釈することは、短絡的だろう。

今回の取り締まりは、海外で上場していないテンセントをはじめとする企業にも影響を与えている。中国株の公開に対するアメリカでの反発は、意図しない結果であったと、中国専門家のジュード・ブランシェット(Jude Blanchette)氏は米テレビ局CNBCで語った。

金融の他の分野、特にコモディティ先物の世界では、中国は自国の国際的影響力を増大する手段として、市場を海外の参加者に積極的に開こうとしている。

これらの点は、最新の取り締まりの波は、少なくとも一部には、サイバーセキュリティにまつわる懸念が動機となっているという考えを裏付ける。中国の動きは、確かにずっと積極的ではあるが、インターネット企業に対してより優れたデータプライバシーの基準を課そうという、アメリカやヨーロッパでの最近の取り組みに似ているものだ。

「(中国での)インターネットのほぼ無規制状態から、より多くの規制がある状態へと、移行しているのだ」と、中国人投資家キ・ワン(Qi Wang)氏はCNBCでコメント。「もちろんその移行期には、出発点が弱かったために、圧力が強く感じられるかもしれない」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:An Alternative Theory for China’s Tech Crackdown

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