ユーロ連動型ステーブルコインが急拡大──成長持続には大きな課題も

ユーロ連動型ステーブルコインが急拡大──成長持続には大きな課題も

外国為替市場は、デジタルのレールの上に築くことができるのだろうか?

現在のところ暗号資産(仮想通貨)市場は、伝統的な外為市場で毎日取引される6兆ドルものマーケットを支えられるにはほど遠い。

しかし、ユーロ連動型ステーブルコインの最近の成長によって、一部のトークン発行事業者は、暗号資産取引所や分散型金融(DeFi)における取引・貸付プラットフォーム間で、ブロックチェーンを基盤とした市場で法定通貨のデジタル版が簡単に行き来する未来を思い描き始めている。

ユーロ連動型ステーブルコインの成長

「ブロックチェーン業界の誰かが、ユーロステーブルコインがあれば良いのにと言うのを耳にしない日はほとんどない」と、ブロックチェーンプロトコル「テラ(Terra)」を利用したヨーロッパの市場重視の暗号資産プロジェクト「アストラル・マネー(Astral Money)」のメンバー、マイケル・リチャーズ(Michael Richards)氏は語る。

グラスノード(Glassnode)のデータによれば、ユーロ連動型ステーブルコイン「EURS」の流通量は今年、約3000万ドルから約8000万ドルまで2倍以上に増加した。

EURSトークンの全供給高
出典:Glassnode

発行者のスターシス(Stasis)によると、最も古いユーロステーブルコインプロジェクトであるEURSのトークンは、イーサリアムのERC-20規格に基づいて作られており、発行者の口座にあるユーロに1対1で裏づけているとされている。EURSの時価総額は約9600万ドルだ。

現在時価総額が600億ドル以上のテザー(USDT)、約260億ドルのUSDコイン(USDC)を筆頭とする米ドル連動型ステーブルコインの市場に比べると、EURSの時価総額はわずかなものだ。

EURS、USDC、USDTの時価総額
出典:Glassnode

しかし、その野心は壮大だ。

Investopediaによると、外為は世界で最大の金融市場で、取引は相対取引(OTC)市場で発生する。その他の伝統的金融市場より透明性が低いと考えられており、大手機関投資家が価格決定に大きな役割を果たす傾向がある。

「暗号資産市場に対する私の大きな希望の1つは、将来的に外為市場から仲介業者を排除することだ。金融市場全体でも、最も不透明で疑わしい市場の1つだからだ」と、スターシスの創業者兼CEO、グレゴリー・クルモフ(Gregory Klumov)氏は語った。

クルモフ氏によれば、伝統的金融の世界からより多くの機関投資家が暗号資産市場に参入するに伴い、ユーロ連動型ステーブルコインへの関心は昨年、米ドル連動型ステーブルコインと同様に高まった。

「米国が経済刺激策の一環として給付金を支給したり、ドルの価値を下げるような政策を昨年始めた後、反ドル的なナラティブが生まれていた」とクルモフ氏。それが「ドルに次いでトップ2の通貨であるユーロへと関心を」移させたのだ。

今年はじめからのEURSの急激な成長は特に、アメリカやアジアと比べた「ヨーロッパ全体での暗号資産全般の普及の遅れ」が背景となっていると、クルモフ氏は語った。

スイスのシグナム銀行(Sygnum)は6月、aave、アラゴン、カーブ、メイカー、シンセティック、ユニスワップをはじめとする、様々なDeFiトークン向けのカストディ・取引サービスの開始を発表した。イーサリアム2.0から企業顧客がステーキング報酬を受け取るのをサポートするサービスも始めている。

「ユーロ建てのDeFiが誕生すれば、シフトをリスクと見るのではなく、外為のチャンスを活かすために自動化を検討する人たちが多く出てくる」と、リチャーズ氏。「TradFi(貿易金融)にとって優れた初期の動きとなるだろう」

実世界の資産と連動するオンチェーンの人工資産を生み出す、人気DeFiプロトコルのシンセティクス(Synthetix)上では、シンスsUSD(SEUR)が、シンセティクス独自トークンのシンセティクス(SNX)、シンスsETH(SETH)、シンスsUSD(SUSD)に次いで時価総額で4番目となっている。シンスsEURは、sUSDの34%、sETHの30%に次いで、シンセティクスの人工資産の債券プールの20%を占めている。

「ユーロ連動型ステーブルコインに対する需要は、他の通貨建てのステーブルコインと同様に、興味深い状況にある。USDステーブルコインがあまりにリードしており、ブロックチェーンエコシステム内に預け入れられた価値の大半は米ドルを中心としており、大半のプロトコルは米ドルを考慮して開発されているからだ」と、リチャーズ氏は指摘。「しかし、EUは消費者の数で言うと世界最大級の市場である」

時期尚早

しかし暗号資産市場全般としては、ユーロ連動型ステーブルコインがゆくゆくは、米ドル連動型のものと同じくらい大きく成長するかどうかを見極めるには時期尚早だ。その理由の1つは、規制をめぐる懸念だ。

EUは先日、マネーロンダリングに対するより厳しい措置を求める声に応え、暗号資産の移動を取り締まるための新しい組織と規則を提案すると述べた。

「新たなEUの規制は、ステーブルコインの発行事業者ならびに、ステーブルコインサービスの提供業者に対しても非常に厳しいものとなるだろう」と、フランスの暗号資産取引協会ADANの社長兼CEO、フォウスティン・フロイレット(Faustine Fleuret)氏は述べた。

「発行事業者は、クレジット機関あるいはeマネー機関として承認されなければならなくなる可能性が高く、分散型ステーブルコインはおそらく禁止されるだろう」

暗号資産関連の取引のために口座を開設しても構わない銀行パートナーをヨーロッパで見つけることも、ステーブルコイン発行事業者を含め、多くの暗号資産企業にとってはもう1つの課題になるだろうと、市場参加者たちは語る。

「(マルタの)仮想金融資産法という、単独の法域の法律に基づいて事業を運営しているとしても、銀行サービスを提供しても構わないという銀行はないだろう」と、ヨーロッパ全体のマイナス金利の状況に言及しながらクルモフ氏は語った。

「EU全体で、銀行パートナーを探すのは不可能だ」と、フロイレット氏。「暗号資産企業は、事業を展開したり、決済・クレジットサービスに登録するために銀行口座を開設することすらできない。だから、銀行が担保金保管でステーブルコインプロジェクトと関わりたくないのも驚くことではない」

結局のところ、シンセティクス上でSEURが人気があると言っても、1日の取引高はわずか50万ドルであり、暗号資産やDeFiが伝統的外為市場を本当に変化させるまでの道のりは長い。

「EUR/USDペアが通常、1日に5000億ドルの取引高を持つことを考えると、外為の視点からは、シンセティクスのSEUR/SUSDは流動性を欠く」と、パリにあるクオンツトレーディング企業エクソアルファ(ExoAlpha)でパートナーを務めるジャン-バティスト・パバジョー(Jean-Baptiste Pavageau)氏は語り、次のように続けた。

「外為市場はまだDeFiには進出していないが、外為市場でのチャンスを取りにいこうとしているプロジェクトやプロトコルは存在する」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Growth in Euro Stablecoins Spurs Dreams of Digital Forex Market

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