ゴールドマン・サックスの「DeFi」ETFの実態

ゴールドマン・サックスは世界初の試みと思われる、「DeFi(分散型金融)」の名を冠した上場投資信託(ETF)を開発したが、このETFは私たちが考えるDeFiとはほとんど関係がないようだ。

SEC(米証券取引委員会)への申請書類によると、「The Goldman Sachs Innovate DeFi and Blockchain Equity ETF」は、ブロックチェーンテクノロジーや金融のデジタル化を促進する20の企業をトラッキングする。

シスコ、ノキア、ソニーなども含まれるこのETF。ゴールドマン・サックスが「DeFi」という言葉を、自由で大まかに解釈しているのは明らかだ。例えば、ドイツのテック大手シーメンスがブロックチェーン業界に果たした最大の貢献といえば、今回のETFに含まれることを発表するプレスリリースかもしれない。

今回のニュース自体はあまり重要ではないが、「クリプト」がビジネスの世界にどれほど浸透しているかを明らかにしているのは確かだ。さらに、筋金入りの暗号資産ファンが望むものと、現実的に期待できるもののかい離もはっきりと露呈している。

このETFに含まれる企業の多くは、広義でブロックチェーンテクノロジーに取り組んでいると主張しているが、具体的なDeFiアプリケーションがあるかは疑わしい。

これら企業の取り組みの大半は「エンタープライズブロックチェーン」というカテゴリーに分類されるものだ。この言葉は、実際にメイカーダオやコンパウンド、Aaveを使った人たちの間では、ジョークのネタになっている。

しかし、「エンタープライズブロックチェーン」はいまだに順調に進行中で、企業ブロックチェーン普及の独自のビジョンを提示している。

DeFiは仲介業者を排除しようとする一方で、米小売大手のウォルマートの取り組みに見られる通り、エンタープライズブロックチェーンは仲介業者を復活させようとする。データベース管理や野菜のトラッキングに革命が迫っているのだ。

スマートフォン時代以前の携帯電話で多くの人に記憶されている、フィンランドのノキアを例にとってみよう。プレスリリースによれば同社は最近、ブロックチェーンと人工知能が支えるデータマーケットプレースを立ち上げた。流行りの用語はさておき、あまり魅力的には聞こえない。

アクセンチュア、アリババ、オーバーストックも、ブロックチェーン関連分野では野心的だ。例えばアリババは2020年、ブロックチェーン関連の特許保有数でIBMを抜いてトップを狙う位置にいた。音楽ストリーミングから、コスモス(Cosmos)のようなチェーン横断型のプロダクトまで、あらゆるものに手を広げていた。

このような努力は必ずしも実らない。IBMは、収益目標をたびたび達成できなかったことを理由に、ブロックチェーン部門の人員を大幅に削減した。IBMは、ゴールドマン・サックスが申請したETFには含まれていない。

アマゾンがまもなく、ビットコイン(BTC)による支払いを受け入れるという噂が広まる中、市場は27日に大きく動いた。アマゾンの広報担当者は、同社は暗号資産「分野に」関心を持ち続けていると述べたが、報道にあるビットコイン決済に関しては否定した。

アマゾンが実際にビットコインによる支払いを受け入れたとしたら、暗号資産エコノミーに対する力強い支持表明ということになる。同時に、独自の企業的責任に関するコミットメントを持った会社として、もう1つの仲介業者が暗号資産業界に参入することも意味する。

一方で、DeFiは有機的に650億ドル(約7.2兆円)規模の業界へと発展してきた。複雑な金融システムが、中央集権化された企業の監視抜きで運営され得るというアイディアを裏づける証拠だ。MKRやAAVE、COMPをトラッキングするETF申請が出てきたとすれば、私はそれを嘆いたりはしないが、そのような形で認めてもらう必要があるだろうか?

クリプトは、企業や国家の利害の力を弱めたり、それらとは独立で存在することを意図している。これほど多くの国際的複合企業やテック大手がクリプトテクノロジーに注目をしながら、エキサイティングなものからは距離を置いているという事実が、それを証明している。それら企業のPR部門は便利に使っているようだが、エンタープライズブロックチェーンを「DeFi」と呼んだからといって、本当にDeFiになる訳ではない。

ゴールドマン・サックスの「DeFi」ETF申請は、大半の暗号資産関連のETFに比べれば、SECからの承認を受ける可能性は高いかもしれない。まさにこのような広報の手口にはまってしまうことがその理由だ。

ビットコイン関連のETF申請は12件、イーサリアム関連のものは数件がSECで保留となっており、これまでのところSECは判断を放棄している。

最先端の実験的なプロトコルと大手優良企業は変わりがないようなフリをすることで、ゴールドマン・サックスはSECによる承認という門を突破できるかもしれないが、それが顧客のためになるとは考えにくい。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Dennis Diatel / Shutterstock.com
|原文:The Node: Goldman’s ‘DeFi’ ETF Is a Nothingburger